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" Cyber Crisis Management " 最高情報責任者・黒木 厳の責任 " UN POUR TOUS, TOUS POUR UN."   作者: 東曌


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Digital Transformation 第一話 使われないCRM、残らない営業記録 改訂版

【Slack AIと、営業記録の未来】


今回は、DX(Digital Transformation)のお話しとなります。

営業担当者は、顧客と話をする。要望を聞き、提案を考え、見積もりを作り、社内の関係部署と調整する。そして商談が終われば、その内容を営業記録としてシステムに入力する。


顧客と向き合う時間が必要なのに、その時間を記録作業が削ってしまう。そんな問題を抱えている会社は、少なくない。


そこで注目されるのが、SlackとSlack AIを活用した業務の効率化である。


Slackは、社員同士がメッセージをやり取りし、情報を共有するためのコミュニケーションツールだ。Slack AIは、利用できる機能や契約プランに応じて、会話の要約や情報の検索などを支援する。大量のやり取りから必要な情報を探したり、議論の経緯を把握したりする際に役立つ。


ただし、Slack AIだけで顧客管理のすべてが完結するわけではない。


CRMとは、顧客情報や商談の進捗、営業活動の履歴、次の対応予定などを整理して管理する仕組みである。HubSpotやZoho CRMは、その役割を担う代表的なサービスだ。


Slackを営業担当者が日常的に使う情報共有の窓口とし、AIで会話や報告の整理を支援し、その情報をCRMに連携して正式な営業記録として残す。そうした仕組みを構築できれば、同じ内容を何度も入力する手間を減らせる可能性がある。


もちろん、実現には適切な連携設定が必要だ。顧客名、金額、契約条件、対応期限などの重要情報は正確性を確認し、誰がいつ登録・修正したかを追跡できるようにしなければならない。アクセス権限や情報漏えいへの対策も欠かせない。


大切なのは、AIを導入すること自体ではない。


営業担当者が顧客と向き合う時間を増やしながら、会社として必要な記録を正確に残せること。その両立こそが、営業業務を支えるシステムに求められる役割なのである。


では、現場の負担を減らし、会社の情報管理を維持するために、どのような仕組みを選べばよいのだろうか。


その問いが、システム部の小さな相談から始まろうとしていた。

第一話 使われないCRM、残らない営業記録



月曜日の午前九時。システム部の定例ミーティングが始まった。


会議室のモニターには、Microsoft 365からGoogle Workspaceへの移行計画、紛失したノートPCのインシデント対応記録、そして未完了のシステム改善案件が並んでいた。


最高情報責任者の黒木厳は、参加者の報告を一つずつ聞いていた。


「以上です。次に、各担当から改善提案があればお願いします」


進行役の言葉に、藪内マコトが手を挙げた。


「黒木さん、一件、相談があります。正式な改善案件として起票する前に、部内で共有しておきたいことがあります」


「どうぞ」


藪内は手元のメモを確認した。


「営業部の武中ユウトから相談を受けました。彼とは同期なのですが、先週、仕事帰りに話をする機会がありまして」


「どんな相談ですか」


「営業の仕事そのものより、営業記録をシステムに入力する作業のほうが大変になっている、という話です」


会議室が少し静かになった。


藪内は続けた。


「顧客との打ち合わせ、見積もりの作成、社内調整、次の商談の準備。それだけでも時間が足りない。ところが、商談が終わると、Salesforceを開いて、顧客情報を確認して、商談の進捗を更新して、活動履歴を入力する。別の場所に記録した内容を、もう一度入力することもあるそうです」


「入力に時間がかかる、と」


「はい。それに、画面の操作も分かりにくいそうです。入力項目が多く、どこに何を書くべきか迷う。急いでいるときほど、後回しになる。後回しにすると、今度は記録がたまって、まとめて入力するのが苦痛になる。そういう悪循環です」


黒木は、モニターに表示されたSalesforceの運用資料を見た。


「それで、武中君は何と言っていましたか」


「『営業をするために働いているのか、営業したことを入力するために働いているのか、分からなくなることがある』と」


藪内は少し言いにくそうに付け加えた。


「もちろん、彼の話だけで営業部全体が同じ状況だとは断定できません。ただ、少なくとも現場にそう感じている社員がいる、ということです」


黒木はうなずいた。


「その区別は重要です。ひとりの意見を、全員の意見にしてはいけない。しかし、ひとりの困りごとだからといって、無視していいわけでもありません」


彼は資料を閉じた。


「藪内君。武中君に、もう少し詳しく聞いてもらえますか。どの入力に時間がかかるのか。何が重複しているのか。何を入力すれば営業の役に立つのか。逆に、誰も使っていない項目は何なのか」


「分かりました」


「営業部の管理職にも確認してください。記録が必要な理由は何か。実際にどの情報を使っているのか。入力されないことを、管理職は把握しているのか」


藪内がメモを取る。


黒木は、さらに続けた。


「それから、解決策を最初からSalesforceの改修に限定しないでください。HubSpot、Zoho CRM、Slackとの連携、AIによる入力支援。候補はいくつかあります。ただし、流行しているからという理由で選ぶ必要もありません」


「料金比較だけでは足りない、ということですね」


「そうです。使われていないシステムのライセンス料を払い続けるのも問題ですが、安いシステムに替えて、必要な情報まで失ってしまったら、もっと困ります」


黒木は会議室を見渡した。


「私たちが管理するのは、システムだけではありません。システムを使って仕事をする人たちの時間も、会社にとって重要な資源です」


誰も、すぐには発言しなかった。


「まずは現状を調べましょう。入力率、入力にかかる時間、記録の利用状況。できれば営業担当者数名に協力してもらい、実際の業務を見せてもらう。数字と現場の声をそろえてから、選択肢を比較します」


「承知しました」


藪内はうなずいた。


会議が終わりに近づいたとき、黒木が最後に言った。


「藪内君。武中君には、こう伝えてください。相談してくれてありがとう、と」


「はい」


「それと、現場に入力を頑張らせるだけの改善案なら、持ってこなくていい。入力しなくてもよい情報を減らす。必要な情報は、できるだけ自然に記録されるようにする。そこから考えましょう」


藪内は、その言葉をメモに残した。


彼はまだ知らなかった。この同期からの何気ない相談が、営業部の働き方だけでなく、会社全体のシステム投資を問い直すきっかけになることを。

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