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24.遠すぎた島

「全力だ。躊躇するな。当初の計画は全て中止してレマゲンに向かわせろ」


ヴェルサイユに置かれた連合国遠征軍最高司令部(SHAEF)で


アイゼンハワーが声を上げていた。


配下の米第9機甲師団がライン川にかかるレマゲン鉄橋(ルーデンドルフ橋)を


爆破前に抑えたという連絡を受けたからだ。


戦略的に有り得ない、ドイツ軍に何があった?そんな事はどうでも良い、


乗るしかない、このビッグウェーブに状態だった。




「モンティの名誉挽回のチャンスは無くなりましたね」


幕僚の一人がポツリと言った。


「こうなっては仕方ないだろう。遠すぎた橋の汚名を持ったまま終わってもらおう。


 遠すぎた島のスミスより余程ましだ。」


アイゼンハワーの返事の説明をすると、


前年オランダで大規模な空挺作戦を指揮し、失敗としか言いようのない結果だった


英軍のモンゴメリーに名誉挽回の機会を与えるべく、


ライン川渡河作戦を任せる事になっていた。


しかし米軍の一部が既に渡っちゃった、しかも橋確保済。


なので戦果拡大ガンガン行こうぜという事だ。




もう一つの方、スミスとは米海兵隊第56任務部隊の長、第3・第4・第5海兵師団を


率いていたホーランド・M・スミス中将の事で、数日前FDルーズベルト大統領に


より死亡が伝えられていた。


詳細は公表されておらず、SHAEFにさえ説明がないが、大統領の弔辞の一節に


島は遠すぎた(An Island Too Far)があったのだ。




「沖合の艦上ではなく、上陸して戦っていたのか?何故?」とSHAEFでも


少しだけ話題になったが、自分達の目の前で激しく情勢が動く中


「狂犬(スミス中将の綽名)が血迷ったのだろう」で終わっていた。




「情報部はファシストどもは既に瀕死だと明言しているが、 


 海兵隊はその瀕死の相手に大打撃を受けたようだ。


 二の舞を踏まぬよう注意して進め、ドイツ本国だ」


とはいえ、戦略的縦深が無いドイツ軍にできる事が多いとも思えない。


ライン川添いの工業地帯を制圧するのは時間の問題だろう。


「人的被害を最小化せねば」


勝ちの見えた戦争。ここで死ぬのは馬鹿らしい。


アイゼンハワーと幕僚の頭の中には戦後の展開が急速に広がっていた。





同じ頃、ハンガリー(レマゲンまで900km位、マリアナ諸島と硫黄島程の


距離よりずっと近い)でドイツ第6SS装甲軍は進退窮まっていた。


前日3月6日、前年のアルデンヌの戦い(バルジの戦い)から再編の途中、


子供しか居ない状態からもっと子供しか居ない状態のこの部隊は


勇敢に前進しようとしたが、戦略的縦深が無く、頭上を連合軍航空機が


飛び回る状態で奇襲効果などあるはずがなく、待っていたのは雪解けの泥濘と


ソ連軍のパックフロントだった。


初日に数キロ進んだだけで大打撃を受けた部隊は


既に後退の機会さえ失いつつあった。




再度、戻りレマゲン付近、ドイツB軍団司令部でモーデル陸軍元帥は激怒していた。


予備部隊を投入して奪還・橋の破壊を試みたが、圧倒的な連合軍航空兵力に


戦果を進呈するだけだった。


『終わった』彼は東で攻勢をかけるという無謀な計画には反対だった。


最後の油田、ナジカニジャ油田を守るとかブダペストの奪還とか不可能な目標を掲げ


攻勢に出る。前年のアルデンヌより無茶な賭けだ。


あれをやらなければジークフリート線で敵を食い止められたかもしれないのに。


ライミー共に洗濯物をかけられてしまったではないか。


今第6SS装甲軍が居ればレマゲンで連合軍を食い止められたかもしれないのに。


『違うな』頭の中の冷静な人物が話しかけて来る。


そんな事は大した問題ではない。戦争はとっくの昔に勝負がついている。


今この場所の火消しに成功しても、事態は改善しない。敵はいくらでも来る。


要は無駄な事をしているだけだ。


『黙れ!』誇り高きドイツ軍人の声がその人物を追い払った。


無駄かもしれないが最善を尽くすだけだ。少し前に極東の同盟国が米軍の攻勢を


頓挫させたと話題になっていただろう。


彼らに出来て自分達にできないはずがない。


モーデル陸軍元帥は善後策を練り始めた。




FDルーズベルト大統領は予定を一部切り上げ、


2月末にはワシントンに帰っていた。




「日本が核兵器を使ったのは間違いないのだね」


「ウルシー環礁の負傷者、艦船を確認しました。間違いありません


 あり得ない程の放射線です。


 線源は爆発した後の灰や雨でしょう。これらを浴びながら活動した人員が


 次々に倒れていったとの事です」




海兵隊第56任務部隊及び海軍第51任務部隊の負傷者は秘密保持の為


ウルシー環礁に集められていた。


日本軍は内陸に進む部隊は攻撃したが海岸部の部隊が撤退していくのは


攻撃してこなかった。


米第5艦隊司令長官スプルーアンス大将は慎重派であったが、


負傷者を救うため全力を尽くしていた。


島の近くにいた51任務部隊は大損害を、艦そのものは動けても


人員が負傷者だらけで使い物にならない、になっており、


艦隊司令部の中には島に近づくべきではないという者もいたのだ。




「甲板上にいて目撃した者は失明、艦内から艦橋に出て指揮したスミスも


 倒れたか。有効な治療法はないのかね」


「放射線障害に対する治療法は研究中で、ましてや大人数が同時に浴びる、


 という事態に対処する方法はありません」


大統領の問いかけに対しロスアラモスからやって来た科学者のひとりが答えた。


「何にしろ情報は隠さなければならない。


 これ程の死傷者を出したと知られれば世論は海兵隊総司令官の罷免では


 済まないだろう。今後の政策に支障をきたす」


「いつ、どうやって知らせるか、頭の痛い問題だ。いつまでも隠せないだろうし」


「報復のための核爆弾はいつ頃になるんだ」


「ほとんど完成はしておりますが、一度は実験しませんと。


 万一不発で日本の手に入ったら彼らに技術レベルを知られる事になります」




大統領の様子がおかしい事に気が付いたスタッフのせいで議論はそこまでとなった。


その容体は地中海上で核爆発の第一報を受けた時から悪化の一途をたどっていた。

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三発目は地中海で炸裂したか……潜水艦でドイツまで運んだのか。
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