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1.次元の狭間

世紀末、某連邦国家が崩壊していた。

厳重に管理されていたはずの武器庫の封印が解かれている。


警備していたはずの兵士は米ドル紙幣とウォッカを持って散歩に行っていた。

武器庫の中には数人の人影が見えた。

「本当に良いんだな?もう戻れないんだぞ。今ならバブル崩壊直後の日本になら戻れる」

「そんな時代に戻っても、年をとったヒキニートになるだけじゃねぇか」

「何十年もロクな事がない。アンタの実験とやらに付き合うよ」

彼らは2020年代の日本のネット仲間、その時代の平凡な日本人である。

1人を除いては。


「俺の自己満足に付き合ってくれて感謝するよ」

「持って行くのはこれだけか?AKM、PKM、RPG-7、マカロフピストル……サンプル程度じゃないか。戦車や戦闘機は必要ないのか?核爆弾は5個しかないけどこれで良いのか?」

「ミリオタ的には物足りないだろうが、容積も質量も制限があるんだ。データを持っていけるだけマシと思ってくれ」

工作機械の前に武器を詰め込んだ後の狭い空間で、パソコンとプロジェクターを指さしながら、一人だけ衣服の違う男が言う。

「向こうの環境は本当に大丈夫なんだろうな?電気の周波数や電圧は大丈夫なのか?」

「絶対、とは言えない。我々が干渉したことで、ここは既に元の時空ではない可能性がある」

「言ってたパラレルワールドか」

「そうだ、無数にあって、その全ての世界で別の歴史を刻むはずの世界。別の世界から来た人間も、その世界で生きられるはずだ。俺は自分の説を証明しつつある」

「勝手に感動してるんじゃねぇ。こっから先が大仕事なんだろ」

「そうだった。歴史改変して、俺の愛する日本が馬鹿にされない世界を作るんだ」

「そっちじゃねぇ。向こうの世界とのコネだ」

「大丈夫なはずだ。これから向かう時空で、大川周明と近衛文麿の二人が茶室にいるはず。その前の庭に俺たちは現れることになる」

「大騒ぎにならないか?」

「何の密会か知らないが、完全に二人きりでいたと記録にある。このコンテナは音もなく現れるし、その場所には二人しかいないはずだ。騒がれる前に飛び出して話をつけよう」

「神の使い、なんて信じるか?」

「信じさせるんだ。目の前に突然鉄の箱が現れたら動揺するだろう?その隙をつく」

「そう上手く行くのかね。まあ良いや、アンタのおかげで家族に少しは金が渡せた。首をくくっても借金のカタに取られるだけの命だ、もうどうにでもなれさ」

そう言った男は、コンテナの奥にある工作機械を売った町工場の社長だった。

過去形なのは、工場が倒産確実で途方に暮れていた時、妙な男が設備を現金で買ってくれたからだ。売買記録のない現金は全て家族に渡した。自分が失踪扱いになれば工場も家も失うだろうけれど、家族に借金までは残らないはずだ。

「覚悟はできている。やってくれ」

その言葉にコンテナに入った男女が頷く。

化学の学者、地方病院の医者、農学者、土建会社の社員、製薬会社研究員、プログラマー。

世の流れに乗れなかった人々だ。

「それでは二度目の時空移動を行う。この装置はそれ以上の使用に耐えない。向こうで修理を試みてはみるが、パーツの製作は2020年代の技術でも不可能だった。つまり二度と動かない可能性が高い。もう一度言うぞ。ここに残る者はいないな?行く先はまだ軍国主義が残っている日本だぞ。民主化は少し先になるんだぞ」

「くどいな。ロシア語の情報だが、日本の景気は最悪じゃないか。話に乗って最初の時空移動をした時から覚悟は決まってるよ」

妙な質感の服を着た男は、乗っている全員が頷くのを確認すると扉を閉め、コンテナの壁にある装置を操作した。

内部には何一つ変化はなかった。

再び開いた扉の前に、青空と日本庭園が見えた事を除いて。





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