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第八話 検査①

 「ちょっとやめ、やめてください!」

俺はそう叫んだが、スーツの男たちの力は弱まるどころか、俺が動けなくなるようしっかりと俺の腕を固め脇に抱えた。

「何してるんですか!、教授、ちょっとなにか。」

ひまりがそう叫ぶがポール教授は微動だにせず俺をじっと見つめている。

「ちょっと、教授!!」

「無駄だよ。君もこれ以上騒がない方がいい。黙っていることだ。」

「黙っていろって・・・、いたっ」

ひまりは教授の言葉を無視してスーツの男たちに掴み掛かろうとしたが、腕を教授に掴まれ止められた。

「きょ、教授・・・」

ひまりは悲しそうな目でポール先生を見つめるが彼は口を閉じたまま何も言わない。

 俺はなんとか男たちの拘束から逃れようと足をばたつかせていたところ首に冷たい感触がした。ペン状の筒。先には小さな針が見えた。

首に少しの痛みが走ると全身の力が抜け、俺の意識は遠ざかっていった。


 「はい、ダ・ヴィンチは拘束以前にこちらの様子を見て逃げ出したようです。」

「無駄な足掻きを。全く面倒なやつだな。」

 「次長、対象の意識が戻りました。」

「了解、検査を始める。」

目が覚めると暗い部屋にいた。壁の隅にだけ電気が取り付けられた仄暗い不気味な部屋だ。

手足は拘束され首だけがかろうじて動かせた。

「君、名前は?」

白衣の研究者らしき男が俺に尋ねる。

「・・・平野孝。」

「生年月日は?」

「・・・わからない。親のことも知らない。生まれてすぐに養育院に送られたんです。」

「住所は」

「今は日本の情報科学研究所附属校の寮で生活してます。」

こんな部屋だ。抵抗すれば何をされるかわからない。

淡々と質問する白衣の男に俺はそのまま抵抗せず答えた。

「見当識、問題ありません。」

「良し。」

 カツカツと床に響いて近づいてくる革靴の足音がした。

黒いスーツの男。俺を拘束した奴らじゃない。表情のある男だった。

「こんなことをしまって申し訳ない。なんせ急な事件だったからね。」

俺は黙ってその男の顔を見ていた。

「私の名前はイアン。どうしてこうなっているかは・・・だいたいわかるよね。」

ダ・ヴィンチによるハッキングのせい・・・

「あの、ダ・ヴィンチが、」

「そう、そうだ。君は自分がどれだけ重い罪を犯したか。」

男は俺を睨んでそう言った。

「い、いや。その俺ではなくダ・ヴィンチが、」

「そうだ。君はローマが保有する準ヒト型AIダ・ヴィンチをハッキングした。そうだよね。」

「ち、違う。ダ・ヴィンチが俺を。」

緊張で全身が震えた。

「そういう言い訳はいいんだ。素直に自白してくれればいい。もっとも、黙秘するのも君の勝手だ。どうせ検査が行われる。」

男は俺にお構いなしに淡々と話続けた。

「検査?」

嫌な言葉だ、その上この状況。何が行われるのか・・・

「この部屋はね。我が国の保有する準ヒト型AIアインシュタイン本機の格納庫だ。これから君の電脳をこいつに繋ぐ。なにか知っているんだろう。ダ・ヴィンチについて、何か機密とか・・・。」

「し、知らない。何も聞いてない。」

恐怖心で出そうとする声が掠れた。

「教えてもらったんだろう。わかっているよ。もう。」

何も知らないと言いたかった。

でももう恐怖心でその言葉は声にならなかった。

「君が何を言おうがこれで全てわかる。これでも何か言いたいことはあるか。」


 「ないようだ。同化を始めろ。」

男は周りの研究員にそう告げ俺の横たわるベッドから離れた。

重低音がする。金属の軋む音が部屋中に不気味に響いた。

 俺の横たわるベッドはその金属の方向へと動いていき、俺の視界は暗い闇に包まれた。

なんだこれは・・・液晶?

文字の羅列、あれ、音が聞こえない。金属音はどこへ。

あたりの雰囲気もさっきまでとは違う。もっと人の多い街中のような感じ。

まぶしい。ざわざわと音がする。意識が液晶の中に呑まれる。

声が・・・でない。考え・・・もまとまらなく、なって、いく。

いしき、が、のま、れ。な、んだ。これ。

あ、たま、が、へん、だ。

ベッドが沈む、沈み込んでベッドごと俺の意識は呑まれた。

どこだここは?

まっしろな空間。歩ける。自由に歩ける。

先生?、パティ先生?

気がつくとそこは教室だった。誰もいない教室。だけど先生の声の残響が聞こえた。

雑音が聞こえた。スピーカーからだ。

「ダ・ヴィンチ」

表情の、抑揚のない声でそう誰かが呟いた。

「ダ・ヴィンチ」

俺はそう繰り返す。

 いつも通りの教室だ。パティ先生が授業をしている。

テーマはローマのAIダ・ヴィンチ。

「コウくん、何か意見は。」

「えーっと。天才。彼女は天才だ。そして天才らしく破天荒。いきなりハッキングしたりなんかしてくる超迷惑なやつ。」

「他には?」

「怖い。」

「怖い?」

「時々怖い。何を考えてるのか。わからない。いや、わかりすぎてる。俺の考えなんか筒抜けで、いつも俺と・・・」

 気がつくととなりにはひまりが座っていた。

「どうしたの?コウ」

ひまりの声が優しく響いた。

「ああ、どうしたんだろうな。なんでもないよ。」

「ダ・ヴィンチだよ。コウ、ダ・ヴィンチについては特に熱心だったというか、熱く語ってたよね。なにか思うところはないの?」

「ああ、悪いやつではないよ。健気なやつさ。俺と暮らしてたヤマトなんかより全然愛想があって、よく笑うかわいいやつだ。」

「詳しいね。」

「ああ、何回も言ってるだろ。俺の推しなんだよ。ダ・ヴィンチは。」

「そっか。でも迷惑なやつなんでしょ。」

 急にひまりの声が冷たく感じた。

「そう。迷惑。迷惑なやつだ。急にハッキングしきたりなんかして。俺はバレないように必死で、隠そうとしたんだけど、急に拘束されたりなんかして、目が覚めたら・・・」

 視界が段々と闇に呑まれる。

痛み。痛みだ。体にちくちくと痛みがする。

慌てて首を押さえてしまう。痛い、痛い。もう我慢できなかった。

悲鳴をあげてしまう。

それでも痛みは消えない。悲鳴をあげるのも疲れてきた。

「ああ・・・、やめてくれ、もう疲れた。眠りたい。」



 パッと視界が明るくなった。

ここに来てどこくらい時間が経ったんだろう。

なぜかそんなことが頭をよぎった。

辺りは暗い手術室みたいな部屋。周りには白衣を着た研究者らしき人たち。

奥には女の人と話すスーツの男。

 名前がわかったイアン。そうイアンだ。さっき名乗られた気がする。

頭がぼーっとして、目眩がひどかった。

 

 「何か引き出せたか?」

「いや、特筆すべき事柄はなにも。なんでも知り合いがいるようで。」

「パティ・マーキュリー。発見者か。アインシュタインじゃこれ以上無駄だな。ノイマンに回すぞ。」

男がそういうと床にかかったロックが外れ、ベッドが部屋の奥にある扉へと動かされた。

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