第56話「行き止まり 4」
「転移草…剣に仕込んでいたのか。まったく正気とは思えないな。発動に失敗したらウサギのお嬢ちゃんと心中コースだ。その事を君は本当に理解しているのか?」
「そうだな!だからこれはとっておきというやつだ!!」
「まったく。蛮勇というか何というか。まあそういう無茶苦茶は嫌いではないんだが…それだけでは、まだ足りんな」
「ふんっ!寝言は布団の上で言うんだな!!ボコボコにして転がしてやるぞ」
戦いはクロとミスターKの近接戦闘へと移る。
「うおりゃあああ!!」
「……」
クロの大振りのストレート。その隙を埋めるコンパクトな左ブロー。フェイントを入れてからの左回転蹴り。その豪快な掛け声からは想像できない程隙の無い大胆な連撃。その全てを同じ動作でミスターKがカットしていく。
「ぬううっ…!?」
「…連撃の「締め」を弾かれた後の動作が甘い。そういう場合はとにかく顎をガードする事を忘れるな。でないと…!!」
連続攻撃後の硬直を狙い繰り出されたスカイアッパーがクロの頭部に直撃する。
「ぐはっ!?」
「こうなるわけだ」
脳を揺さぶられながらクロの体がダンジョンの壁際へと殴り飛ばされる。
「ブラック・ドラゴン…君は魔法も戦闘技術もそこそこ完成している。その単純明快な精神性も美徳と言っていいだろう。…正直な話、君に関しては決定的に欠けている点というものはない。君は君らしく戦えばいい」
「ぬうう……」
フラフラとしつつも立ち上がるクロ。その姿を楽し気に見守るミスターK。
その隙を、ラビは見逃さなかった。
「___‘剣兎!!‘」
「むっ…!」
ミスターKの死角から4体の召喚されたウサギが剣を突き立てる。だがそれを難なく男は回避していた。
(ここまでは想定内。問題はここから。…大丈夫。手本ならもう、目に焼き付けている)
「___‘兎操剣!<1、2、3、4番>連続射出!!‘」
「……」
ミスターKの視界を遮るように、生成した魔力の剣を近距離で発射するラビ。そして射出された剣がミスターKを囲むように地面へと突き刺さる。
「…この技は……」
「___‘全操剣<爆破>!!‘」
過剰に魔力を循環させていた剣を意図的に爆破。霧のように広がった細かい魔力で即席の煙幕を展開する。その様子をミスターKは興味深気に眺めていた。
「これは……そうか。ふむ。爆発を「攻撃」ではなく「防御」に使うか。見事だ」
そのタイミングでダンジョンの壁際でダウンしていたクラリアとクロに指示を出すラビ。
「クラリア!支援をお願い!!」
「…ん。分かった」
「クロ!空中から全力ブレスでこの「階層」ごと焼いてください!!…あの男は私とクラリアが全力で足止めします」
ラビの正気を疑うような作戦内容にクロが驚く。
「んあ?いや…それだとお前たちも……」
「皆殺しにするつもりで構いません。というよりも、そのつもりで殺ってください。私とクラリアが焦げ肉になる程度であの男を始末出来れば大金星です」
「…ん。私もそれで構わない。…中途半端な威力だと「あの人」には通用しないと思う」
「お前たちやっぱ頭おかしいぞ……了解だっ!!」
クロが最大威力のブレスを吐き出すために竜形態へと変化し飛び上がる。
「___‘奥義<滅黒炎>‘」
ラビとクラリアの覚悟はしっかりとクロに伝わっていた。44秒。それがクロにとって最大最強の威力の魔法を出すためにチャージしなければいけない時間だ。
44秒間。全てを破壊するまでに必要なその時間。それを稼ぐためにラビとクラリアが捨て身でミスターKの前に立ちふさがる。
「まったく…どうしてこう燃え尽きる前の火は美しいんだかね……」
霧の中から男がゆっくりと姿を現す。
「君達「お助けモンスター」は1日に1度だけ「奥義」と呼ばれる「反則技」を使う事が出来るんだったな。…あの竜のお嬢ちゃんが奥義を打つまでに…まあ、44秒というところか」
「___出来るのか?君達に、「私」を足止めする事が……」
「……」
ラビがミスターKに剣を突きつける。勝利の可能性が1%でも残っている限り、少女達は絶対にギブアップなどしないのだ。
「足止め?何を勘違いしているんですか?」
「___あなたには、ここで死んでもらう予定です」
「……ふははははは!!」
嬉しそうに笑い声を上げつつ、ミスターKが木材を投げ捨てる。両腕でファイティングポーズを構えつつ、眼前に立ちふさがる「狂人達」と向き合う。
「さあ見せてくれ!…君たちの、魂の輝きを!!」
「「…っ!!」」
化け物達の最終ラウンド。それがついに幕を開ける。




