第55話「行き止まり 3」
「さてと……待たせてすまなかったな、お嬢ちゃん達」
ミスターKがゆっくりとした動作で木材を構える。
「や、やばいぞ…ラビ!早くこの網を壊さないと殺される!!」
「わかってます!!…ですがっ…!!」
ラビとクロが協力して互いの網を壊そうと攻撃を続ける。だが草の網はびくともしないのだ。
「おや…?」
「…ん」
その二人への射線を塞ぐようにクラリアがミスターKの前へと立ちふさがる。
「ふむ。植物のお嬢ちゃんか……」
「…おまえの相手は、私がする」
「いいだろう。いったい君は何を見せてくれるのかな?」
「…っ!!」
問答無用。ミスターKの背面から「這い出した」もう一人の「クラリア」が植物の弾丸を打ち込む。
「まったく。随分と素晴らしい手を使う」
それを振り返る事もなく木材で弾き落としクラリアへと木材を投擲するミスターK。
「んっ…!?」
木材はドロのように溶けたクラリアの体を貫通。そこまでならばクラリアの想定内だったのだ。だが状況は一変する。貫通した筈の木材に引っ張られるかのようにクラリアの体が後方へと吹き飛び壁へとめり込む。
「簡易的な捕縛魔法の1つだ。…厳しい言葉になってしまうが、今の君1人では力不足だ。そして個人の力量が不足しているのならば、やる事は1つだろう?」
「「「…っ!?」」」
ミスターKが展開していたトラップを全て解除し手元へと戻す。
「んおお!やっと解けたぞおおおお!!」
「…」
「どういう…つもりですか…?」
ミスターKのその余裕とも取れる行動にラビの心にも怒りの炎がくすぶり始める。
「協力して戦いたまえ。少なくとも、ここから先の戦いはそれが必須条件だ」
「…っ」
ミスターKの雰囲気が変化する。これまではどこか一歩引いた部外者のような立ち位置から。そして今度は未熟な生徒を叩き伸ばす鬼のような講師のそれに。
「君たちの今の力の基準は大体理解出来た。…そうだな。まだまだ未熟な君達に、少しだけ進むべき道を示すとしようか___‘強化‘」
木材が男の魔力により強化される。これはただそれだけの魔法。それだけの行動で、ただの木材は世界最強クラスの武器へと変貌する。
「覚悟は出来ているか?ここから先は命を懸けろ」
「……」
(戦えば多分殺される。相手は間違いなく怪物の中の怪物。…だけど、それでも私は…!!)
「覚悟なんて…とっくに出来ています!!ここで逃げるなんて選択肢は、私には存在しない!!」
「___‘兎操剣!!‘」
4本の剣を背面に展開しつつラビが正面からミスターKに突撃する。
「はあああっ…!!」
「見せてくれ。君の全力を…!!」
ラビが繰り出した渾身の右下ろし切り。
同時に木材にて弾かれる。
違和感。
「…っ!!」
「ふっ…!!」
背面の剣を使った左方向からの切り上げ。これも「後出し」で撃ち落とされる。そして違和感は確信へと変わった。
(この男…見てから対応しているんじゃない。攻撃する前に先に攻撃を置かれているんだ。…後の先を行かれている。いったいどうやって……)
ラビの困惑した視線とミスターKの視線が合わさる。
「マジカル・ラビット…君の限界は、まだまだそんなものじゃないはずだ」
「っ!?」
(私の種族名を知っている!?この男…いったい何者なの…?)
「な、何を言って……」
「君には無数の手札がある。それが却って視野を狭めているようにも見えるな。いいか。戦闘中は常に考えろ。思考を止めるな。相手の裏をかき理不尽を押し付けろ。君ならそれができるはずだ」
「…っ!?」
ミスターKがラビの頭部を狙い木材を振りかぶる。それをギリギリのタイミングでクラリアの強化された触手が受け止めた。
「…ギリギリセーフ」
「見事だ。流石は「喰らうモノ」と言ったところか…だがな、君にもまだまだ足りないものがある。それはっ…!!」
「…っ!?」
「ハングリー精神というやつだ」
ミスターKが再び雑草を使いクラリアそっくりの触手を形成。「それが」クラリアを飲み込みダンジョンの壁へと叩きつける。
「クラリア!?」
「君は味方に被害が出ないよういくつか魔法を制限してるだろ?それではダメだ。全員巻き込んでも構わないという気概がないと私には通用しない。大規模かつ広範囲の魔法や攻撃が君の持ち味だ。創意工夫次第でいくらでも戦法を用意出来る。その辺りの連携や合体技などをもっと仲間内で相談しておくといい」
「…むぅ」
ミスターKが雑草に込められた魔力を解除しラビへと向き直す。
(あの男強過ぎる。正攻法じゃ無理だ。…本当は使いたくないけど、仕方がない!!)
ラビが切り札を手に取りつつ攻撃のタイミングを見図っていたクロに向けてハンドサインを飛ばす。
(クロがちゃんとこのサインの意味を覚えてると良いんだけど…もっと分かり易いやつにしておけば良かったかな…?)
「ミスターK!あなたにこのスペシャルな攻撃が捌けますか!!」
「んっ…?」
それと同時にラビがある特殊な剣をミスターKへと投擲する。
「子供じゃあるまいし、そんな手に私が乗るわけが…いや、だが万が一と言う可能性も……」
本来ならば触れる事もなく回避できるその攻撃。それを前にミスターKは悩む。
「いいだろう。乗ってやる」
ミスターKは正面から対応する事を選ぶ。「スペシャル」という訳の分からない言葉と状況が「言葉」以上にミスターKの関心を奪っていた。
「さあ、何を見せてくれる?」
ミスターKが余裕を持って投擲された剣を弾く。
「___‘キャロット!!‘」
「ぬ…これは……」
キーワードの詠唱と共に、弾かれたはずのオレンジ色の剣とクロの位置が瞬時に入れ替わった。
「くたばれ!!」
「おっと…!そうか、君が居た事を忘れていたな……」
そして全力全開状態のクロとミスターKの拳が正面からぶつかり合う。




