第49話「スイーツ・ダンジョン 2」
(さて…どこに連れていく気なんだこいつは?)
大助が無言のまま率直に妖精について行く。しばらく歩くこと数分。そこには巨大な宝箱が設置された大広間に到着した。
「はい到着~。ここなら死体の後処理にも困らないしね。さあ、私からのプレゼントよ。___‘あの宝箱を開けなさい‘」
「……」
大助が呑気に宝箱に手を掛ける。
「欲深い人間からしてみれば、宝箱の中で死ねるのなら本望でしょ?」
「…む」
そして箱を開けた次の瞬間、大助は「そいつ」に食べられていた。それも当然。この巨大な宝箱は「宝箱」などではなく、それに「擬態」した凶悪なモンスターだったのだから。
「間抜けな人間にふさわしい最期ね」
モンスターのバキバキという咀嚼音を聞きながらつまらなさそうに妖精は呟く。
「馬鹿なやつよね。普通に考えて初対面のヤツの言葉なんて聞く価値は無いのよ」
「___いや、俺はそうは思わないな」
「えっ…!?」
「グルウウウウアアアアアアア!?」
鈍い音が鳴り響き、モンスターの悲鳴と共にその体の中心部から地面に向かい鉄の棒が突き刺さる。
「初対面の人間の第一印象は見た目が9割なんて話をよく聞くが、中身が1しか無い人間なんてつまらないだろう?俺にとって重要なのはそいつが秘めている「可能性」の方さ」
「…え?……は?」
大助の十手に縫い付けられたモンスターは動けない。その様子を妖精は唖然とした表情で見つめる。
「ふむ…こいつにはまだまだハングリー精神が足りなかったようだな」
「噓でしょ…!?特殊強化した「ユニークモンスター」があんな棒切れで動けなくなるわけが……」
「おいおい…見た目に惑わされるなよ。武器なんてただの飾りに過ぎない。…ふんぬっ…!」
大助が巨大な宝箱を片手でムンズと掴み投擲の姿勢へと移行する。
「偶にはこういうパワープレイも悪くは無いか」
「っ!?」
「名付けるなら…そう……」
「究極投擲魔法___‘ミミック・アタック!!‘ってところかな?」
魔力で筋力を補強しつつ、妖精に向って全力で宝箱をブン投げる大助。
「ぐっ…!?」
意味不明な現状。そして理解不能な魔法。その豪快な投擲は妖精に対して多大なプレッシャーを与える事に成功していた。
「舐めんじゃ…ないわよおおおおお!!」
それ故に、妖精も全力でその攻撃を迎撃する。青い魔力に包まれた妖精が素手で巨大な宝箱を殴り飛ばしたのだ。
「ほお…?」
「___‘コンバージョン‘<モードケルベロス>」
妖精の姿は一瞬で大きく変化していた。まず頭身は人間とほぼ同じ大きさに。そして赤黒く禍々しい防具に身を包んでいた。手に持った深紅の剣を大助に突きつけ、妖精が声を上げる。
「前言を撤回するわ!どうやら「心操系統」の魔法への耐性や対抗策もマスターしているようね!もうあんたを「人間」とは思わないわ。…この化け物野郎!!」
「…酷い評価だな」
剣を付きつけられてもなお、大助の表情は一切変わらない。その事に不気味さを感じつつも妖精は後に引くわけにはいかない。何故ならばここは最終防衛ライン。ここを突破されるわけにはいかないのだ。
「だけどね!私にも前座のプライドってもんがあんのよ!!この最終防衛ライン。絶対に突破させないわ!!」
「…いいね」
(なるほど。ダンジョンという組織に搾取されるだけの哀れな社畜モンスターにしては根性があるな)
大助と妖精の視線がぶつかり合う。妖精は剣を構えているが、大助は無手のままだ。
「「……」」
「おい…人間?なんで武器を出さないのよ?まさか素手でこの私と戦うつもり?」
「…ん?……あ~…」
「ふんっ!…早く武器を出しなさいよ。それぐらいは待ってやるわ」
妖精が少しだけ切っ先を大助から外す。
「……」
「いや、それには及ばない」
「……はぁ?」
「勝負はもうついてるからな」
大助がフラフラと片手を左右に振り始める。
「現状認識が甘過ぎるな。まさかよーいドン!から始まるフェアな戦いが始まるとでも思ったのか?…いい加減もう気が付けよ。なんでその宝箱に十手が突き刺さったままなのかを」
「なっ…!?」
妖精が慌てて後方のモンスターを確認する。大助の言う通り武器は刺さったままだ。
「妖精種」はその種族の特性上、魔草や魔花に関する知識が異常なレベルで豊富だ。それ故に、彼女はその十手に仕込まれた恐るべき魔草の気配に気づいてしまう。
「この武器の内部から感じる魔草は……まま、まさかまさかっ…!?」
妖精が血走った瞳で大助を見つめる。
「あんた正気なの!?そんな事をすれば私だけじゃなくてあんたも……!?」
「ああ。だからこそ面白いだろ?」
「さあ、一緒にイッちまおうぜ?___‘自爆転移草起動‘」
キーワードの詠唱。そして炸裂する超威力の攻撃。妖精は為す術なく大爆発に巻き込まれた。




