第48話「スイーツ・ダンジョン 1」
「…」
「……」
「…………」
1度の瞬きの後、両の手を握っては緩める。これを3秒間隔でゆっくりと大助は繰り返す。
「…ふむ」
単調な作業をひたすらに機械的に繰り返す。肉体、そして精神に問題が起きていない事をゆっくりと確認していく大助。
「体調に問題は無し。思考もクリアってところだな」
「さて…」
何気なく周囲に目を向ける大助。
「…おお」
そこにはまさしくダンジョンと呼ぶにふさわしい非現実的な光景が広がっていた。白く舗装された壁に白い床。壁には奇妙な絵画が飾られており、おどろおどろしい形をしたランタンが周囲を怪しく照らしていた。
「いいね…素晴らしい…実に素晴らしい…」
心底楽しそうな声でそう呟く大助。
(さあ、楽しむとしよう)
「……」
大助がポケットからスマートフォンを取り出す。
「…?」
画面には簡易的なマップと現在の階層が表示されていた。
(ほう…便利な機能だな。早速活用させてもらおうか)
・現在地 シュガー・ダンジョン 99階層
「…ああ?」
「99階層?…まあ、ランダムとか書いてあったしな。こういう場合もあり得るか 」
「…ふむ」
(マップには100階層までの表示がある。かなり大規模なダンジョンだな)
「……」
(常識的に考えるのなら、ここはボス戦前の最後のエリアってわけだ。…強者が配置されている可能性があるな」
「さて、どうする?」
大助が様々なシミュレーションを脳内で繰り返しつつ足を進める。不思議な絵画とスマートフォンを交互に見ていると、マップ画面に大助が視認した情報が次々と書き込まれていく事に気が付いた。
「むっ…オートマッピングに近い機能もあるのか。…いいね」
(そうなると、とりあえずこの階層のマップは完成させておくべきだな)
(危険物の把握。敵対勢力への備え。不測の事態への対応。…まったく、ワクワクが止まらねえなぁ…)
早速マップを完成させるべく移動を始めようとする大助。
「はっ…はあ?……なんでこんな場所に人間が……」
「……」
(ほう?)
大助の背後から聞こえた僅かな声。それを聞き逃す大助ではない。
「ううん…誰だろうと侵入者には違いないわ…とりあえず操ってしまえば問題無しってやつよ…」
「…ん?」
大助がゆっくりと背後を振り向く。そこには人間の掌程度の大きさの生物が、空を飛びながら大助を手招きしていた。何処か禍々しい羽。そして取り繕った笑顔。
(悪意100%じゃねえか。敵意を隠しきれてねぇぞ)
「…人間___‘こっちに来きなさい‘」
「むっ……」
ビリビリとした奇妙な感覚が大助の体内に流れる。それと同時に自身の肉体に僅かな違和感を大助は感じていた。
「……」
(体が少しだけ「重い」…なるほど。何か行動を制限する類の力だな。それに逆らうと「デバフ」つまり状態異常を発生させると)
大助が立ち止まり、ジッと小さな少女を観察する。
(こういうタイプのやつは言葉に魔力を乗せて搦手を使って来る。現状は問題無いが下手に「返答」をすると危険だな)
「あら、聞こえないの?___‘こっちに来い‘」
「……」
(この手の相手を「コントロール」する力にはいくつかクリアしなければいけない条件がある筈だ。この感じだとキーになっているのは「相手からの同意」ってところか?)
「…おかしいわね…確かに聞こえている筈なんだけど……」
「……」
(もう少し情報が必要か。…仕方がないな)
大助が作り物の笑顔を浮かべつつ妖精に近づいていく。
「…っ!?そうそう!そのままそのまま~!何も考えず私の後に付いてくれば良いのよ人間~……なによ、ちゃんと効いてるじゃない…」
「……」
「うひゃひゃひゃ…ちょろいちょろい♪これだから初見殺しは止められないのよねぇ~……」
「……」
小さな妖精は気が付かない。大助が妖精の言葉や行動に対して一切、言葉を発していない事を。




