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孤独の栽培人~栽培アプリで生活向上~  作者: 骨肉パワー
三章 シュガー・ダンジョン

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第48話 プロローグ

 季節は10月。暑い夏は過ぎ去り、秋へと突入していた。


 放置モードの菜園世界。そこでは今まさに命懸けの死闘が行われていたのだ。


「み…みんな!準備はいいですか…!?抜きますよ?抜いちゃいますよ!?」


 ラビが最終確認を兼ねてクラリアとクロに呼びかける。


「大丈夫だ!だから早く抜くんだ!できるだけそっとだぞ!?」


「…くわばらくわばら」


 クラリアとクロが十分過ぎる程の距離を取ってラビを応援する。少女達は今、転移草の収穫を行っている最中だ。


「……えいっ!」


 スポッ!という音と共に転移草を引き抜くラビ。


「やった…!やりましたよ!?」


「おお…!!」


「…パチパチ」


 自慢げに転移草を見せつけるラビ。その姿を純粋に褒めたたえるクラリアとクロ。それも当然。他の草ならまだしも、ものが転移草となると全ての工程が命懸けの作業になる。その事を少女達はしっかりと理解しているのだ。


「…あっ」


 油断したラビの手からポロッと転移草が地面に落ちる。


「んぎええええええ!?」


「…ラビはもう助からない。…逃げるべき」


 猛スピードでラビから離れるクラリアとクロ。その姿を泣きそうな顔でラビは見ていた。


「酷いですよ!?……全員道連れにしてやる!!」


「ぎゃああああ!?ここ、こっちに来るなあああああ!?」


「…ヤバいヤバい」

 

 ブチ切れたラビが転移草を拾い二人を追いかけ回す。これもまた菜園の日常だ。時折口論になりつつもしっかりと魔草の手入れを行い、その日の業務は終了した。


「…は~。疲れました……」


 クタクタになったラビが布団に潜り込む。


「やっぱり転移草の栽培は難しいですね」


 お助けモンスター達全員が大助から優先的に転移草を育てて欲しいというオーダーを受けている。その為に日々命懸けで彼女達は危険な草を育てているのだ。


「育てた転移草を抜こうとしたら消えてたなんて事もあったし…あの魔草、怖過ぎですよね……」


 ゴロゴロと布団の上を転がるラビ。


「困ったな~…もっと気軽に収穫する方法とかないかな~……」


 ラビのローリングは止まらず加速する一方だ。


「こんなときは…アレをやるしかないかないですよね?」


 ガバッ!とラビが体を起こす。寝巻のままラビは部屋を飛び出した。


「あれ…?クラリアにクロ?」


「んお…?」

 

「…ん?」


 食堂前のドアに3体のお助けモンスターがばったりと鉢合わせする。全員が全員寝巻の状態という奇妙な状況だ。


「…なるほど。みんな考えている事は同じという事ですか…?」


「まあ、そういう事みたいだな?」


「…ん」


 ラビの発言に全員が同意する。夜中にこっそりと食堂を訪れる理由。そんなものは1つしかないという事だ。


「ずばり、夜食ですよね?」

 

「うっ…」


「…大正解」


 全員が揃って食堂に設置してあるアイテムボックスへと移動を始める。


「せっかくですし…やっちゃいますか?ナイトパーティー的なやつを」


「おお!いいじゃないか!やろうやろう!!」


「…お腹空いた」


 3人が仲良くテーブルの上に好みのおやつを置いていく。最初こそ敵対していた少女達だったが、今では無二の親友とも呼べる信頼関係を構築していた。


「乾杯!」


「飲むぞおおお!!」


「…うまうま」


 3体のお助けモンスターが大量の食料を前にパーティーを始める。お助けモンスターの食事は生命活動の維持というよりも魔力の補給という意味合いのほうが強い。少女達をフルパワーで活動させるには人間以上に食料が必要なのだ。


「あ、これ美味しい…」


 大助からお助けモンスター全員にプレゼントされたストロベリーソーダーと新作のチョコケーキ。それをラビがパクパクと食べ始める。


「う…」


 ラビの手が突然ピタリと止まる。フォークの先には精巧に作られた二匹の雪ウサギチョコレートがちょこんと残されていた。


(チョコレートで作られたウサギさん。とっても細かく作られてる。ちょっと食べるのが怖くなるくらいに)


 悩むラビを尻目にクロとクラリアはノータイムかつパクッ!とウサギのチョコレートを口に入れていた。


「んお!?なんだこのウサギチョコ!?めっちゃ美味いぞ!」


「…ん。かなりデリシャス」


「「…ジー」」


「げっ…!?」


 野獣のような目をした二体の視線がラビの手元の皿をジッと凝視していた。獲物を狙うハンター達がジリジリとラビへとにじり寄っていく。


「ラビ~残すのは良くないなぁ~?だが安心してくれ。そのスペシャルチョコは私が責任を持って食べてやろう…」


「…よこせ」

 

(こ、こいつら本気で私のチョコを狙ってる!?)


「えいっ…!」


「ああっ!?私のスペシャルチョコが!?」


「…むぅ」


 二人に横取りされるぐらいならという気持ちと共にラビが慌ててチョコを食べ始める。


(うわ~…めちゃ美味しいです。けど何なんでしょうか。このちょっぴりと残る罪悪感は)


「うう…今、私は命の尊さを実感しています…ありがとうウサギさん……」


 情緒不安定なラビをヤバい生物を見るような目でクロとクラリアは眺めていた。


「クラリア。あいつはいったい何を言ってるんだ…?」


「…魔法の使い過ぎで脳がバグッたのかもしれない」


「ああ…確かに負荷のかかる魔法を使い過ぎると脳がダメになるっていう話もあるな……」


「…エリクシールを飲ませた方が良い」


「そうだな…」


 クロとクラリアがコクリと頷いた後、二人がアイテムボックス前へと移動を始めた。


「ちょ、ちょちょちょっと…!?」


 ガサゴソとアイテムボックスを漁り始めた二人を真っ青な顔で止めに入るラビ。


「私の脳みそは正常です!!そんなアホな事に貴重なエリクシールを使おうとしないでくださいよ!?」


「ぐえっ!?」


「…おふ」


 クロとクラリアの頭部をアイアンクローで掴み、二人を椅子へと運んでいくラビ。


「「非常用だから好きに使っていい」とマスターは言ってましたが、こんなアホみたいな事で使ったら怒られちゃいますよ……」


 そうして二人を着席させたとほぼ同時に、彼女達の端末にメッセージが届いた。


「…っ!?マスターからのメッセージです」


「一斉送信か?珍しいな」


「…とりあえず見てみる」


「「「…ええっ!?」」」


 大助から送られた文面に卒倒しそうになるお助けモンスター達。それも当然。そこにはこんな文章が書かれていたからだ。


<ちょっとランダムダンジョンに行ってくる>


「……きゅうぅ…」


「んおっ!?ラビ大丈夫か!?」


 床に倒れそうになっていたラビを慌ててクロが支える。


「ありがとうクロ…とんでもない事になりましたね……」


「ああ…どうする?」

 

「…答えは1つしかない」


「ええ。今直ぐにマスターを助太刀しに行きます」


 3体のお助けモンスターが即座に戦闘モードへと切り替え、突撃の準備を始める。


「待っててくださいマスター!必ず私たちがあなたの力になります!!」


「よ~し!全力で暴れてやるぞ~」


「…がんばる」

 

 戦闘モードへと思考を切り替えたクラリアとクロとの視線が自然とラビへと向かう。


「目的地は「スイーツ・ダンジョン」邪魔するものは……皆殺しです」

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