1話 俺主役!? 違うんですね、そうですか。やめて来ないで助けて上司っ!
二話目です。
皆っ様~、右手をご覧くださぁ~い!
は~い、あちらに見えるものが分かりますか~? ほらっ! 皆様も良くご存知の赤い鉄塔!
そう、あれが東○タワーです!
続きまして~、ハイあちらの奥に見えます山、分かりますか!? 綺麗な円錐形に白い雪をかぶった青い山が見えますね~。もうお分かりですね~、ニポーンの象徴ともいえる山、富士山です!
今度は下をご覧くださ~い。足元斜め下に見下ろしますは高層ビル群! これを見るといかにも『都心!』って感じがしますね~。
はい、ですが残念なことに見渡しても東京のスカイなツリーなタワーが見当たらないんですよねーこれが。
それっぽーいものはあるにはあるんですが、ちょーっとというか、かなり違う建物が建ってますねー、あれって何なんでしょうね~、はははは。
最初にこの目でこの街を見たときは迷い無く『東京だっ!!』って思ったんだけど、だんだん『たぶん東京だと思う…』に変わって、そこからさらに今は『東京、なんじゃないかな……?』になってきている現在です。
ここは果たして本当に自分が知っているにぽーんの国のTOKYOなんでしょうか…!?
なんか多分おそらくどこと無く僕たち私たちの知ってる東京とは違うような気もします。
東京だよね? 東京じゃ無かったらどうしよう…。むしろ東京だったらどうしたらいいんだろう…っ!!
ふふ、問いかけても応えてくれない青い空が目に眩しいぜ…。
***
さて、では何故にして俺がこのように都心を斜め上から見下ろすような状況になっているのかと、そこんとこをざっくりと説明しようではないか!
つまりほら、…うん、あれだ。えーとな…。
何か知らんがみんなが集められて、我が君が『いよいよ我らの悲願が達成される時がきた!!』みたいな事を言い出して、会場がわーって一気に盛り上がって、『いざ出陣っ!!』みたいな感じになって、そしたらなぜか俺が真っ先に送り出されてしまったんだよね、うん。
…ごめん詳しいことはまた後から落ち着いてから説明するから。
とりあえずそんな感じで俺が放り出された先がここだったわけです。
何で俺が? っていうと、他の連中に比べると俺が比較的冷静で、指示された事はきちんとやって、勝手な行動もせず、真面目で控えめだからとかそんな理由ね。あとわりと器用で何でも出来る方だから。何しろ俺には前せゲフンゲフン…。
だって周りのみんなほとんど脳筋○カばっかりなんだもん。
で、その目的については今まで、『我々の悲願、青い色の空を手に入れる』とか、『追放された故郷』だとか、『約束されし緑の大地』だとか、『取り戻すべき楽園』だとかそんな表現で聞かされてたからさ、てっきり目指す場所ってもっとこう、風がビュビューっと吹いてて一人ぼっちで泣きたくなるような果てない草原とか、そんな所をイメージしてたんだよね勝手に。もしくは打ち寂れた廃墟的な。
今はもう無いけれどどこかにある桃源郷というかガンダーラというかエルドラドというか、そんな感じ?
それがどいういうわけか、たどり着いてみれば東京ですよ?
あっれぇーっ!? ってなるじゃないですかやだー。
だってさ、あの暗ーくて何も無い世界を飛び出て新たな国を手に入れるとか、そういう話だったはずなんだよね。
何? ってことは俺らこれから日本侵略するの? 世界征服しちゃうの!? それとも穏やかに移住する感じ? 出来るの? うちの人たち日本政府とかとちゃんと交渉できるの? 脳筋ばっかだよ!? もしくは闇に隠れてひっそり住み着く感じ? いやそれは無いかなぁ、あの人たち大人しく生きるとか出来そうに無いし…。っていうか俺たちの魔法とかそういうのって、戦車とか戦闘機とかと戦ったら通用するのかなぁ? もしミサイルとか打ち込まれたら大丈夫なの俺たち?
…とまぁ、そんなわけで。使命を与えられて生まれて初めて故郷を飛び出て到着した場所が東京っぽくて、一瞬脳みそが機能停止しちゃってたわけなんですよねー、あはははは。
うん、さてどうしようか。
とりあえずは現地調査だけでいいはずなんだよね。他の連中とかだったら着いた途端に何も考えずに暴れまわったりとかしそうだけど、俺ならまずそういうことしないしね。馬鹿どもが押し寄せて来る前にまずは俺がここがどんな所かをしっかりと確認して傾向と対策を……
「へっ!! ここが『青い空の世界』か!! ずい分とごちゃごちゃしてんじゃねぇか!!!」
……はーい、馬鹿が一名、早速到着してくれやがりましたー。
「まぁいい、この世界は俺たちのモンだ!! いらねぇもんは派手にぶっ飛ばすぞ!! おい、どこを攻撃すればいい!!」
「……」
うーわー…、物騒なこと言ってる人がいますよー。おまわりさんここでーす。
「おいっ!! 聞いているのか!!??」
「………」
振り返るなっ!! 馬鹿がいるっ!!
かと言って無視するわけにもいかず、そーっと、ちらりと、目線だけそちらに向けますとねぇ…、はい居ました。ちょっと人間っぽくない形態の筋肉ムキムキの筋肉さんです。何か怒った顔してます。怒ってます!!
「……ハッ!! 人を馬鹿にした顔しやがって!! てめぇはいつもそうだよなぁっ、ああ゛!!??」
相手の怒気に、ぴくっ、…と俺の片眉が反応する。
いや違うんです。馬鹿にしてるとかそういうんじゃないんです。どう返したらいいかわかんなくて戸惑ってるだけなんです!! 無表情なのはそういう仕様なので仕方ないんですっ!!
だって今まで色々頑張ってみたけど、基本的にほとんど会話が成立しないじゃないですかあなたたち~っ!!
―と、俺が表面上は無表情かつ無反応でいながらも、心の中でオロオロしている間に、
「へぇ~、ここが俺たちの楽園か~~!」
「ほんとに空が青いのねぇ…」
とか何とか言いながら、謎の空間から二人目、三人目の来訪者が。
うわーい、四天王が東京の上空に揃っちゃったよハハ~。
「……」
「ふんっ!! ごちゃごちゃと煩い邪魔なものは全て吹き飛ばせばいい!!」
「え~? でも何かここ面白そうじゃん! ちょっと遊んで来ようぜ~?」
「ふふ…っ、まずは我々の住みやすいように害虫を駆除する方が先でしょう? ウィステリア様、如何いたしますか?」
何かそれぞれが勝手なことを言い出してるよー。
いやいやいや、まずは現地調査だからね。今はまだ手は出さずに、確認とか観察とかそういうのだからね!?
それに、意見…っていうか指示を求められてもさ、俺、どちらかというと四天王最弱の方だと思うから、何かあっても責任とか取れないんだよね。
出来ればみんな大人しく帰って!! そんで上の人からちゃんと指示もらってきて!!
(ちなみに『ウィステリア』って俺のことねー。覚えといてねー!)
仕方がないので、ここはひとまず皆さんにお引取りいただけるよう説得(出来れば会話による)を試みようと口を開きかけたところ、
「えぇいっ!! 面倒だ!! 行け!!『ミッスルート』!!」
筋肉さんが突然どこからともなく黒いボールのような何かを取り出して大きく振りかぶって…
え? ええええぇぇぇぇぇぇぇ!!!??? ちょっと待って今あなた何投げたのそれぇぇ!!??
何それ何のアイテム!? 誰からもらったの? もしかしてちょっとアレな感じのうちの上司!?
そんなのあるの聞いてないんですけど!!??
筋肉さんの投げた黒い玉はぴゅーんと飛んでいってどっかの公園っぽいところに生えてる樹に『コツンっ』ってぶつかったと思ったら…、こう…、『うねうね~』っていうか、『ぎにょにょにょ~ん』っていうか、『ずみょみょみょぐしゃ~』って感じに樹が変化していって何アレ怖い。
助けて上司ーーーーっ!!!!!