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持たざる万能魔導陣師  作者: 水戸 松平
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男女間抗争と魔導の目覚め 8

「失礼します。あの、少し探している物がありまして」


 サラはまた古代語を唱え、姿を大人の女性に成長させていた。その場に馴染む為に黒いローブで身を覆っている。

 丁寧だが、少し親しみを感じる様に機獣族の商人に話しかけ、警戒心を解こうとしている。


「ナン"だ」


 フードでその機械(インプラント)化された右腕以外を包み隠した機獣族の商人は、低く響く声を唸らせる様に言葉を発した。


「はい。実は魔導人形を探しております。勿論、旧型の魔導人形です。こちらで売っていると伺ったのですが」


「.........」


 商人が値踏みするようにサラの様子を伺っている。サラも芯の通った揺らぐことの無い姿勢で、相手の反応を伺う。


「オ"レはショウ"ニンダ。カネさえ"ハラエ"バナン"でもウ"ッてヤル。カネはア"ルか」


「はい。お金はこのように準備してあります」


 サラは内ポケットから麻袋を取り出し、ジャラジャラと鳴らしながら上に掲げた。商人の視線が上に移り、ローブで隠された顔がチラリと姿を表す。そこには、黒い牛のような相貌が見えた。


「これは前金です。これを先に払うかわりに一つお願いがあります。」


「ナ"ンだ」


「先に、私の欲している物ですが、魔導人形そのものではありません。魔導人形に埋め込まれている魔石を探しているのです。ですが、あなたが売っている魔導人形の中に魔石があるかどうかわかりません。ですので、この前金で、その魔石が埋め込まれているかどうか見せて欲しいのです」


「..........ダメダ。カネ"をサキニよ"コ"セ」


 空気が嫌な方へと変わる。サラの豊かな感情が、苛立ちが少し顔を出している。


「あなた、さっき自分を商人と言いましたよね?金さえ払えば何でも売るって言ったわよね?なら、このお金で、あなたの持っている魔導人形に魔石が埋め込まれているのかどうか、という情報を買うって言ってるの。わからないかしら?」


 サラの口調が段々と荒くなっていく。


「だメダ」


 機獣族の商人は言葉を繰り返す。抑揚の無い声がサラの心に火をつける。


「へぇ。あなたの事、商人だと思っていたけれど、詐欺師だったのね。やっぱり獣人はどこまで行っても獣人ね。やる事なす事全て下等だわ。みすぼらしい文明を今すぐ捨てて野生に帰りなさい」


「オ"マエ"イ"まなン"テイ"ッた」


 抑揚の無かった声が少し荒がる。右の機腕が少しの駆動音を立てて、体勢が少し前のめりになる。

 サラは臆す事なく更に挑発を続ける。


「んふふ♪機械(インプラント)化してもバカは治らなかったみたいね、あら残念。それが、下賎な獣人の限界よ」


「........」


 機獣族の商人は怒りに打ち震えているのか、顔を表にしてサラを睨みつける。その顔は牛にしては毛むくじゃらで、天に向いて湾曲した10cm程度の角が生えている。偶蹄牛(バイソン)だった。


「イイ"だロウ"...ミ"セテ"ヤる...だガトリ"ヒ"き"がおわレバオマ"エ"ヲこ"ろ"ス」


 そう言い放った後、機偶蹄牛(バイソン)の売人は裏に消えていった。


 サラはいつもの調子で比呂彦に向かって親指を立て、これが予定通りと言わんとばかりに作戦通り指示を出してきた。比呂彦はその商店の近くに位置取り、機偶蹄牛に突撃を喰らわすために準備する。そして、機偶蹄牛が魔導人形を担いでゆっくりとこちらに向かってくる。


「お互いそれぞれの物を受け取った時点で取引終了よ。文明を持つのならそのくらい守りなさい」


「ハヤ"く"し"ろ」


「はいはい、いくわよ。いい?イチ.....ニ......サン!!」

「....って言ったら投げるのよ?」


 古典的なセコ技が炸裂した。サラは投げる振りをして、機偶蹄牛の売人はまんまと魔導人形を投げている。

 サラが魔導人形を受け取った瞬間に機偶蹄牛が怒り狂って突撃して来た。


「キ"サ"マ"ア"ぁァあ"あ"!!!」


 突進がサラに当たると思った瞬間、機偶蹄牛は見えない障壁によって勢いを急速に失った。力技で障壁を破壊したが、体勢を崩して地面に激突する。


 サラは間一髪の所で障壁を破って来た機偶蹄牛をバックステップで避けた。そして


「今よ!顔面にブチかましなさい!!」


 サラのけたたましい号令を合図に、比呂彦は慣れない力を制御しながら思いっきり走り、機偶蹄牛の顔面に力一杯左足の蹴りをブチかました。


「ググウアアァァアアア!!!」


 その場に響いた叫び声は比呂彦のモノだった。

 確かに比呂彦の左足は機偶蹄牛の右側頭を捉えていた。しかし、比呂彦の全力の蹴りより、機偶蹄牛の耐久力が圧倒的に上回っていた。比呂彦の足は骨折はしていなかったものの、走れる状態ではなくなった。


「ぐ.....ぐあぁ......」


 比呂彦が痛みに喘いでいる間、機偶蹄牛が起き上がり、怒りに任せて肉体である左腕で殴りかかってくる。


「キサ"ま"ラア"ア"ァァァア"ア!!!!」


「邪魔よ!...ん"!!!....ああぁっ...」


 サラは比呂彦を突き飛ばし、全身で機偶蹄牛の拳を受け止める。

 "バキッ"っと不吉な音を響かせよろめく中、無慈悲にも機械(インプラント)化された右腕がサラの正面に炸裂した。


 その瞬間、大気と共に赤い鮮血が破裂した。


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