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  作者: リバー
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1/6

秒針の遅れ

1つ目 秒針の音

その異変に気がついたのは、蒸し暑い夏の夜のことだった。


 会社員の高橋和也は、ベッドに横たわりながら、寝室の壁に掛けられたアナログ時計の音を聞いていた。

カチ、カチ、カチ。

規則正しく、機械的に時を刻むその音は、彼にとって入眠のための心地よいBGMであるはずだった。

しかしその夜、和也の脳裏に奇妙な違和感が芽生えた。

(……間隔が、妙に長くないか?) 和也はスマートフォンを手に取り、画面に表示されるデジタル時計の秒表示と、壁時計の音を同期させてみることにした。スマートフォンの画面が「01、02、03」と進む。

それに合わせて壁時計も「カチ、カチ、カチ」と鳴る。

最初は完全に一致していた。

しかし、数十秒が経過した頃、明らかなズレが生じ始めた。 

スマートフォンの数字が「45」に変わったとき、壁時計の「カチ」という音は鳴らなかった。

「46」に変わる直前になって、ようやく一拍遅れた鈍い音が響いた。 

時計の電池が切れかかっているのだろう。

和也はそう結論づけ、明日新しい電池を買ってこようと思いながら眠りについた。


翌日、新品の乾電池に交換した。

しかし、事態は改善するどころか悪化した。

その夜、ベッドに入った和也の耳に届く音は、昨日よりも明らかに遅くなっていた。


「カチ」


……そして、次の「カチ」が鳴るまでに、まるまる三秒ほどの空白がある。

まるで、時計の内部の歯車が、目に見えない強固な何かに押し留められているかのような、重苦しい遅れ方だった。 

静まり返った部屋の中で、その不規則な音は奇妙に神経を逆撫でした。

和也は時計を壁から外し、電池を抜いてクローゼットの奥へと押し込んだ。

これで静かになるはずだった。 

だが、ベッドに戻り、枕に頭を沈めた瞬間、再び音が聞こえてきた。


「……カチ……」 


音は小さかったが、確かに聞こえた。

クローゼットの中からではない。

まるで、自分の頭の真後ろ、壁の隙間から染み出してくるかのような、こもった音だった。和也は身を起こし、部屋を見渡した。どこにも時計はない。

スマートフォンはサイレントモードだ。


「……カチ……」 


やはり鳴っている。

今度は、先ほどよりも音の間隔がさらに伸びている。

次の音が鳴るまでに十秒、いや、二十秒はかかっているのではないか。

静寂が部屋を支配する時間が長くなればなるほど、和也の心臓は激しく高鳴った。

闇の中で、次の「カチ」を待つこと自体が、耐えがたい拷問のように思えてくる。 

息を潜めて待つ。

三十秒が経過した。まだ鳴らない。一分が経過した。部屋の中は完全に無音だった。

自分の呼吸音さえも恐ろしくなり、和也は息を止めた。

世界からすべての音が消え去ったかのような、完全な静寂。 

そのときだった。


「……カチ……」


それは時計の音ではなかった。湿った、硬いものがぶつかり合う音。 

和也は凍りついた。音の発生源は、壁でもクローゼットでもなかった。

自分の耳元、わずか数センチの暗闇から聞こえたのだ。


「……カチ、カチ……」


それは、人間の歯と歯が、激しく噛み合う音だった。

あまりの恐怖に悲鳴を上げようとした和也の口を、冷たく湿った指のようなものが、暗闇の中からそっと覆い隠した。

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― 新着の感想 ―
1話だけでもゾッとしてしまいました。2話目もとても楽しみです。
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