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ドリル魔法使い転生 【土魔法しかない世界に“ドリル使い”とかいう環境破壊能力者が現れて界隈がざわついてる】  作者: 一終一(にのまえしゅういち)
第1部 人食いドリル編

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第1話 キャラ作り失敗

 俺こと“ヘリクス”十歳は転生者である。ダンジョンで魔術書を拾ったことで前世を思い出し、さらに何にでも穴を開けるドリル魔法を覚えたことで順風満帆(じゅんぷうまんぱん)な逆転人生を歩み始める、はずだったのだが。


「おい聞いたか? また“イキリドリル野郎”が出たらしいぞ」


「ゲッホゴホォ!」


 土魔法使いのおっちゃんの意外な言葉に俺は思わずむせてしまった。イキリドリル野郎って。多分俺のことだろうけど待ってくれ。イキリという言葉が異世界にあるのはこの際おいておこう。


 でだ、確かにドリル魔法は使えるがイキってはいない。いや、心当たりはないこともないけど。


「大丈夫か? まだ死ぬなよ。お前みたいな荷物持ちでも居ないと困るんだからな」


 おっちゃんが心配と打算を混ぜた表情をこちらへ向けてくる。


 俺は手で問題ないことをアピールしつつ、荷物の肩紐(かたひも)を上げて背負い直す。十歳の体にはちょっときついが我慢するしかない。


 この世界には土魔法しかなく、土魔法が使えないやつには人権がない。ゆえに俺みたいなのはダンジョン探索班の荷物持ち程度しか仕事がないのである。


 もちろんドリル魔法はあるが、まだ覚えて二週間だし、土魔法すら(つらぬ)く神のごとき力なので人前でホイホイ使うわけにはいかないのだ。


「あの、イキリドリル野郎ってドリルマンのことですよね? いつの間にそんな嫌味な呼び方に変わったんですか?」


「みんな言ってるぞ。まぁ『風穴をぶち開けてやるぜぇ』とか『体に出入口設置してやるぜぇ』とか『けつ穴を広げてやるぜぇ』とか言ってたらそりゃあそうなるわな」


 最後のは言ってない。絶対に言ってない。名誉毀損(めいよきそん)(うった)えたいレベルだ。


「アハハ……でも格好いいと思いませんか? 単身で怪物をバッタバッタとなぎ倒して(みやこ)を守る姿はまるで英雄ですよ」


 どうにか軌道修正を(こころ)みる。印象操作大事。


「ガキにはわかんねぇだろうが、ありゃ後先(あとさき)なんも考えてねぇからすぐ死ぬぜ。英雄になる前にダンジョンで生き埋めになって終わりだろうな! ガハハ!」


 ダメだ。言動に引っ張られてポンコツだと思われている。


 うん、なんつーか完全にさ……キャラ作り失敗したぁぁぁ!


 いやだってさ、ドリルの音って大きいから声張らないとダメだし、敵がムカつくから悪口も多くなっちゃうし、かといって(しゃべ)らなかったらただの不審(ふしん)な回転体なんだよ。


 ああ、言い訳したい。したいが正体を知られたくない。俺は身に降りかかる火の粉を払いながら平穏に生きたいだけの善良(ぜんりょう)な一般ドリルなんだって言いたい。


「おい、お喋りもいいが、気ぃ引き締めねぇと落石で死ぬぞ」


 先頭を歩くキツネ顔の男が低く発した。


 俺達が現在いるのは古いダンジョン。“星喰(ほしく)い”と呼ばれる怪物が掘った穴だ。ただ、今はもぬけの(から)で貴族の肝試(きもだめ)し用のアトラクションと化している。


 そして俺はそんな貴族のお坊ちゃんの荷物持ちとして参加している。貴族なのにケチなお陰で俺みたいな土魔法が使えないやつも(やと)っているってわけ。


 なんか鼻につくけど、そのお陰で仕事にありつけるから文句は腹の中にしまっておく。


「ん? なんだあれ?」


 貴族のお坊ちゃんがつぶやいた。


「なにか来るぞ!」


 誰かの叫びと同時に地面がぬるりと盛り上がる。


 現れたのは巨大な(どろ)(かたまり)


 チョコレートアイスをディッシャーで(すく)って床に叩きつけたら出来そうな造形をしている。だが、相手はそんな甘い物体ではなく、触れたら危険な怪物だ。


「ま、まさか星喰(ほしく)い……!? どうしてここに!?」


 誰かの震える声。


 直後、前衛(ぜんえい)の土魔法使い達が一斉(いっせい)に魔法を放った。


「下がって!」


「これでもくらえ!」


 石や土塊(つちくれ)が弾丸のように飛ぶ、が。


 粘着質な音とともに、それらはすべて泥の中に沈み込んだ。


 吸収だ。それも、まるでそれが当然だと言わんばかりの無造作さで。


「効いてねぇ!?」


「バカな!? このクラスの星喰(ほしく)いがなぜここに!?」


「くそ、どうすんだよこれ!」


 パニックが広がる。まぁ当然だ。土魔法しかない世界でそれが効かないとなればどうしようもないからな。


「に、逃げろ!」


 誰かの叫びにようやく何人かが(きびす)を返す。しかし。


「あ、足が!?」


 見ると、貴族のお坊ちゃんがいる付近の地面がぬかるんでいた。数人が足を取られて動けないでいる。


 敵が仕込んだものだろう。なかなか(かしこ)いな。


 俺はその光景を見ながら、ため息を飲み込んだ。


 俺がやるしかない。俺のドリル魔法は土魔法すら(つらぬ)く。いわば俺はこの世界の“天敵”。


 でも正体はバレたくない。基本的に自由に生きたいからな。ということで。


「……ちょっと小便(しょうべん)に行ってきます」


「はぁ!? 今かよ!?」


 今だよ。こういう時しか行けないんだよ俺のトイレは。


 俺は物陰に滑り込み、手のひらを(なが)める。


「変身」


 ドリルをイメージしながら小さくつぶやいた。次の瞬間、骨が(きし)み、肉がねじれ、皮膚が螺旋(らせん)を描く。


 グロテスクな光景だが不快感はない。慣れた。人間、どんな異常も三回みれば日常だ。もちろん痛みもない。


 俺の体はドリルへと変わる。


 爪も、腕も、脚も、胴も、歯も螺旋(らせん)を描く。ついでに身長も無理やり引き伸ばす。骨を回転軸にして延長する。


 成人男性くらいになった。見た目は重要だ。ガキのままじゃ動きづらいし、()められる。


 さらに(ひたい)からは円錐螺旋型(えんすいらせんがた)(つの)()やした理由は、シンボルを作ることで見た目の印象を強めて正体バレを防ぐため。


 そして完成。まるでハリセンボンだ。誰がハリセンボンだよ。


「あ、しまった」


 服が子供用だからボロボロだ。ちきしょう、貴重な一張羅(いっちょうら)が。明日からダメージ加工仕様だ。くそったれ。


「……まぁいいや。ドリルマン出勤(しゅっきん)だ」


 俺は勢いよく飛び出した。


 視界の先には(いま)だ暴れる(どろ)星喰(ほしく)いと、()(すべ)なく後退(こうたい)する仲間達。


 ここで颯爽(さっそう)と登場すれば多少は印象が良くなるはずだ。


「ヒャッハー! 掘削(くっさく)してやるぜぇ!!」


 何言ってんだ俺。これじゃイキリドリル野郎のままじゃん。


「な、誰だ!?」


「うるせぇ! 肉塊(にくかい)になりたくなきゃどいてろッ!」


 ダメだ、もう口が勝手に動く。ドリルのように舌も回転が良くなってるのかも。


 俺はなかば諦観(ていかん)しつつ、全身を回転させる。世界がぐるりと螺旋(らせん)を描く。遠心力が思考を置き去りにして、ただ前へ前へと突き進ませる。


 そして一撃。それだけで十分だった。


 ドリルは泥の巨体の中心をぶち抜く。抵抗はあったが柔らかい。むしろ(つらぬ)かれるために存在しているみたいだった。


 着地した俺は振り返り、無駄に綺麗に開いた円形の穴を眺めつつ、ドリル状のギザ()()き出しにして口角を上げる。


「とっとと死ねよ! 汚ねぇドーナツがよぉ!」


 ああ、なんでだろうな。こういう時やけに語彙(ごい)()えるんだよ。前世のことあんまり覚えていないんだけど、もしかしたらラッパーだったのかも。YOYO!


 それはともかく、星喰いはしばらく震えた後に形を(たも)てなくなったのか崩れ落ちてただの泥の塊に変わった。


 戦闘音が消えてドリルの回転音だけが響く。


「た、助かった……?」


 誰かのつぶやき。


 よし、今だ。ここでクールに勝利アピールして好感度を上げるぞ。


 俺は振り返り、ドリル状の親指をぐっと立てた。


「ヒャハハハ! ぶっ殺してやったぜぇぇ!!」


 決まった。これは決まっただろ。どう考えても。


 だが、土魔法使いのおっちゃんが口をパクパクさせてあることをつぶやく。


「お、お前、その服……!」


 しまった。さすがにさっきまで(しゃべ)ってたヤツの服は覚えていたか。まずいぞ、正体がバレてしまう。


 しかし、おっちゃんは俺の予想だにしなかった言葉を口にする。


「その服、まさか……“子供を食っちまった”のか……!?」


「は?」


 は、は、はああああああ!?


 たしかに服のかけらがドリルの先についてるから、そういう風に見えなくもないけどさぁ!


 普通そんな発想にならねぇよ! おっちゃんの方がやべぇヤツだろ!


 待て、そんな事より何か言わないと!


「そ、そんなわけねぇだろぉ!?」


「ひぇ、つ、つまり、食ってはいないが“殺した”ということか!?」


 いや、バカタレ。その発想もおかしいだろ。このおっちゃんの家宅捜査した方が死体を見つけられるんじゃねぇか?


 とにかく誤解を解かないと。俺は彼らに向かって手を伸ばす。しかし。


「ひ、ひぇぇぇ!! 殺される!」

「逃げろぉ!」

「来るなぁぁぁ!!」


 全員全力で逃げた。蜘蛛(くも)の子を散らすって言葉、たぶん今この瞬間のためにあったんだろうな。


 俺は一人その場に取り残された。ドリルの回転も止まり静寂(せいじゃく)が戻る。


 そして、ゆっくりと子供の姿に戻りながら一言。


「キャラ作りミスったあああああ!!」


 叫びは(むな)しくダンジョンに響いた。


 次こそは、もっと……こう……知的で、寡黙(かもく)で、影のある感じにしたい。頼むぞ俺の舌。回りすぎるな。

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