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第十八話【リンカ王国の隆盛と滅亡:ある兵士の違和感】〜傾国の鉄宰〜

〜伍長視点〜


 この探査遠征はやはり変だ。

探査の公式な理由は、吸血鉱の放置により引き起こされた魔力欠乏禍と、精霊が去った後の旧リンカ王国領の状況を確認することとされている。

その為に、探査部隊を周辺諸国合同で派遣するというが…。周辺諸国どころか、烈国さえもが足並みを揃えて合同で軍を編成するなど、今までに聞いたことがない。


 利権や領土の分割などの条件は、木っ端下士官の俺には分からない。

しかし、三年で探査隊が編成されたのは異常に早いと感じた。どうやってウチの宮殿(上層部)や他国の首脳部は利権の折り合いを付けたのか。もしかしたら、各国間での折り合いは付いていないのではないか? 折り合いを付けずに軍が動くなど普通に考えればあり得ない話だ。

だが今回の行軍は釈然としないことが多いため、万が一を考えてしまう。


 行軍ルートは綿密に検討されており、兵站も万全で食糧もかなり余裕が見積もってある。

兵士数は各国一律で一〇〇〇名。六カ国総勢六〇〇〇人の大隊規模での行軍だ。しかも、各国ともに徴発兵を含まず、魔力量が多い、いわゆる魔法特化の精鋭部隊で編成されている。正直、国家規模の攻勢でも受けない限り敗北することはないだろう。

万が一、リンカ王国の解国が誤報であったとしても、合同軍による探査部隊である旨の親書も携えているそうだから、敵襲の可能性は限りなく低い。

ここまでなら不安な要素は何一つ無いんだが…。


 ふと、本陣から自分の部隊が配された外縁までの光景を思い出す。旧リンカ領に入るまでは各国分散しての行軍だったので目立たなかったが、領都オズイ・ミヤル付近に集結した合同軍の兵站は完璧なだけでなく異様に手厚い部隊編成だった。

通常の偵察部隊の三倍近い馬車と護衛兵。充分以上の食糧や水、医療品といった通常の物資に加え、魔導具の予備部品や大規模な掘削作業に用いるような特殊な資材が大量に積み込まれていた。要塞や橋頭堡でも築くつもりかのような荷だ。とても探査部隊の編成とは思えない。


「探査任務にしては荷が勝ちすぎだ」


思わず口に出た呟きに、言葉が重なる。


「伍長、お帰りなさい。千騎長の話は何でした?新たな話は聞けましたか?」


 俺を補佐している兵士長が歩み寄る。

そうだ、俺たちの隊の長は『千騎長』なのも引っ掛かる。外征部隊の長は通常『万騎長』が務める。万騎長は一万人以上の兵士を預かるとともに多様な権限を持ち、軍権に留まらず外交権の一部も有する将軍だ。ただ総勢六〇〇〇人という大規模な部隊とはいえ、探査や偵察部隊であるならば古参の千騎長が隊長というのも無くはない。

ここでの問題は、合同軍の各国全ての部隊長が我が国の千騎長に準ずる上級士官だということだ。

国は違えど軍隊であれば序列は絶対だ。部隊長が全て同位で、取り仕切る将官が居ないのは拙い。敵襲等の緊急時に合議などしていたら間に合わない。先程の軍議でさえ遅々として進まなかった。


「・・・」


 首を振る俺を見て肩をすくめる兵士長。序列絶対の部隊にあっては些か気安すぎるところはあるが、同郷ということもあり馬が合った。他人の目もない今ならば問題は無い。こちらも気楽な相手のため饒舌になる。


「新たな話は全く無い。予定ルートを通り、逐次探査の一点張りだ。この街での聞き込みの内容の共有も一応はしたが、新たな話は無いな。旧リンカ王国の辺境伯がこの街にフラシリカ東部辺境伯として居を構えてから三年。難民の流入は全く無いらしい。旧リンカ王国領に出入りする者も皆無で情報もない。昨日までの行軍行程で入手できた話とも齟齬はない。普通に考えれば…」


「リンカ王国は解国。国民も危険域から逃げ出したといったところですかね?」


「探査部隊である俺たちですら把握している情報だ。これまでも各国の間者からと同様の報告は上がっているはずだが…」


「誰一人見つからないなら完全に滅亡したと考えるのが妥当でしょう?」


 兵士長は敢えてだろう、素直な思考と明快な物言いをする。それ故に俺は状況整理がしやすい。


「完全に滅亡か…。そうだとしても、辺境伯がこの街に居を構えてから後、一人も流民の流入が無いなんてありえるのか?王都以東の国民はどうしたんだ?」


「王都の北東に避難したんじゃないですか」


「王都北東部は山岳地帯と外洋に面した沿岸地域だ。ミスリルが取れる様にはなったが、元々は穀物も取れず貧しい地域だと聞いている。そんな場所に避難をするだろうか?」


「好き好んでは行かんでしょうね。しかし魔力量の少ない平民が、魔力欠乏が猛威を振るう王都を迂回したとしても、南東部に避難するのは距離もあり魔力欠乏の危険が高過ぎます。緊急事態ですし、単純に王都から離れた場所に避難するのは当たり前だと思いますが」


 兵士長は平民出身のため市井の事にも詳しい。俺が考える以上に普通の人間の魔力量は少ないのかも知れないな。


「そうだな。魔力量の少ない人間を基準に考えるべきか…。そうだとして、旧リンカ王国民相手のことには一旦目を瞑ろう。そうなると今度はこちらの話だ。行軍計画は慎重過ぎる程に緻密だが作戦行動の指示は曖昧。にも関わらず、各国の部隊長は自らの判断で戦端を開く権限さえある上級士官だ。極めつけは各部隊の荷・だ。正直ちぐはぐ過ぎて…何が何だか俺には分からん」


「何かありましたか?」


思い当たる節はあるのだろう、兵士長の声も硬くなる。


「各国の部隊の話だ。各部隊に巧妙に割り振られて隠蔽されてはいるが、お前も気付いているだろう?どう見ても探査隊の荷なんかじゃない。あれは占領や陣地を確保するための装備だ」


「確保ですか。吸血鉱の除去や探査でもする気なんじゃないですか?鉱物資源でも見つかれば大隊規模で即座に採掘作業に入れて大儲けかも知れませんよ」


冗談で笑い飛ばすには兵士長の声は余り頼りなかった。伍長には兵士長の不安がよく分かった。

これから六〇〇〇名の探査部隊(特殊部隊)が大量の馬車群で向かう先は、精霊が去り、魔力欠乏禍によって滅んだとされる国だ。何もないはずの場所に、これほど完璧な準備をするのは、あまりに不自然だった。


「国のお偉方も今回の件、何が何だか分からないのかも…他国に遅れを取らない様に準備だけさせておこうってかんじですかね?」


気楽に発せられた言葉に息を飲む。

俺の表情を見て慌てて兵士長が言葉を濁す。


「冗談ですよ。怖い顔して睨まんで下さい」


「いや。兵士長、お前の言う通りだとすると辻褄が合う。合うんだが…」


そんな作戦に付き合わされているとしたら、尖兵である俺たちは溜まったもんじゃない。立場上はばかられる感想を、俺は何とか飲み込んだ。




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