はじまり の はじまり
少女は、菊の花に水をあげていた。
作られたモノである彼女はそれをするように命令されていて、それしか知らなかったのだ。
今日も独り、訪れるはずのない製作者のために、この核シェルターの住み心地を良くしようと腐心する。
そうして、いつの間にかシェルターは一面、菊の花畑になっていた。
……トントン……
ふと。
何年も訪れるものがなかったシェルターの扉を、叩く音がした。
「ここであってるの、スネイク?」
『“アップル”と同じ最新技術を使ってるのは、ここだけだからなあ。
ここに誰かいなきゃ、もうどこにも誰もいないさ』
そんな声が、扉の向こうから聞こえる。
『……旅して思ったけどよお。
お前ら有機体は疲れたり燃費が悪かったりで、マジで面倒臭いのな。
俺や製作者みたいに機械だったら良かったのによお』
「ははっ、まあね。
お陰で、コピーして増えることも出来ない」
『……ん?
おい、アダム。
お前、人間の増やし方、知らないのか?』
製作者に作られた人間の少女……イブは、初めて聞いた、自分以外の声に衝撃を受けた。
そして、そのままフラフラと扉へ近づいて。
取っ手を、ゆっくりと、握りしめる。
不思議と、怖さはなく。
これから、何もかもうまく行く……そんな気が、していた。
他にも変な小説書いております。
短編 『市販の水素水には健康に良いと言う科学的根拠は全くない』とか言う無知蒙昧な人々に『私が間違っていました』と泣いて全裸土下座させることを目的とした小説
http://ncode.syosetu.com/n6297eb/
中編 『ブレーメンの屠殺場』http://ncode.syosetu.com/n9431ct/
長編 『豚公爵と猛毒姫』
http://ncode.syosetu.com/n8014ci/