マッチ売りの少女がクリスマス・イブを焼き尽くすようです
当然ですが、放火は重罪です。
絶対真似しちゃいけませんよ!
とある、クリスマスイブの朝の事です。
降りしきる雪に負けじと、天まで焦がし尽くさんばかりの炎柱が、轟轟と音をたてて立ち上っていました。
水族館が。
スキー場が。
遊園地が。
クルージング船が。
人が。
命が。
すなわち街が燃え上がり、それらは片っ端から真っ黒い土塊に還っていきます。
悲鳴をあげて逃げ惑う人の群れの中で、ただ一人。
みすぼらしい服を着たマッチ売りの少女が、寒さに震えながら一生懸命、道を行き交う人々に声を掛けていました。
「マッチは、いかがですか。
マッチは、いかがですか」
しかし、誰も立ち止まってくれません。
「マッチがあります、マッチがありますよ。
だれか、マッチを買ってください」
しかし人々はそれどころではないのか、少女に見向きすらせず、目を血走らせながら、全力疾走で目の前を駆け抜けていきます。
少女は深い溜め息を吐きました。
なんとかマッチを売らねば。
いや、でも、その前に。
周りのカップル達が暖かに見えるせいで。
自分が、凍えて、死んでしまう!(相対的に)
「も、もう一本だけ……もう一本だけ……」
少女はそう呟いて売り物のマッチに火を付けると、まだ燃えていないお洒落なカフェテリアの中に投げ込みます。
乾燥した風に煽られて、たちまち店はゴオゴオと燃え上がりました。
「……ああ、いい気持ち」
少女の心は少しだけ暖かくなるのでした。
「マッチで、こんなことが出来ます。
マッチがあれば、こんなことも出来るんですよ。
だれかマッチを買ってください」
気を取り直して始めた少女の声かけは、しかし激しく燃え盛る炎の音に掻き消されるのでした。
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お昼を過ぎました。
少女が映画館やプラネタリウムなどを中心に燃やしていると、イケメンイケ女のカップルさん達が、スポーツカーに乗ってやってきました。
こんな雪の中、オープンカーで走っても寒くないほどに、2人は楽しそうに笑っています。
「こんにちは、お兄さん、お姉さん」
少女が話しかけると、イケメンイケ女のカップルさん達は、優しい声で言葉を返します。
「こんにちはお嬢ちゃん、こんなところで何をやって……」
次の瞬間、イケメンイケ女のカップルさん達は少女に向けてアクセルを踏みました。
出会ったばかりの少女に、この様な暴挙に出たのには、理由がありました。
イケメンイケ女のカップルさん達には、見覚えがあったのです。
少女の瞳に宿る仄暗い光は、放火愛好者の持つそれと瓜二つだったのです!
何が何でも少女の息の根をここで止めなくてはいけないと確信したイケメンイケ女のカップルさん達でしたが。
スポーツカーで轢くと思われたその瞬間に、少女が消えたのです。
……そして、車の後方にある給油口を、何者かが力ずくで抉じ開けた音がしました。
「マッチで、こんなことが出来ます。
マッチがあれば、こんなことも出来るんですよ。
だれかマッチを買ってください」
同じく後方で、そんな間抜けな言葉が聞こえた次の瞬間、まるで数リットルのガソリンに火でも投げ込んだような激しい衝撃とともに、イケメンイケ女のカップルさん達の意識は永遠に失われることになるのでした。
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夕ご飯の時間が近づいてきました。
少女が素敵なレストランやジャズバーなどを中心に燃やしていると、カジメンカジ女のカップルさん達が現れました。
カジメンカジ女のカップルさん達は、楽しそうにご飯の材料を運んでいます。
自宅で食事を作りクリスマスをしよう、ということなのでしょう。
「こんばんは、お兄さん、お姉さん」
少女が話しかけると、カジメンカジ女のカップルさん達は、優しい声で言葉を返します。
「こんばんは、お嬢ちゃん、こんなところで何をやって……」
次の瞬間、カジメンカジ女のカップルさん達は少女に向けて、持っていた万能包丁で斬りかかりました。
出会ったばかりの少女に、この様な暴挙に出たのには、理由がありました。
カジメンカジ女のカップルさん達には、見覚えがあったのです。
少女の瞳に宿る仄暗い光は、大量殺人鬼の持つそれと瓜二つだったのです!
しかし、包丁を斬りつけるよりも早く。
少女がカジメンカジ女のカップルさん達の頭上にそれぞれマッチ棒を降り下ろし、そのまま一刀両断にしたのでした。
「マッチで、こんなことが出来ます。
マッチがあれば、こんなことも出来るんですよ。
だれかマッチを買ってください」
カジメンカジ女のカップルさん達は唐竹割りにされながら、消え行く意識の中で、そんな間抜けな言葉が聞こえた気がしたのでした。
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空はすっかり真っ暗になりました。
少女が展望台やイルミネーションなどを中心に燃やしていると、キチメンキチ女のカップルさん達が現れました。
キチメンキチ女のカップルさん達は、楽しそうにライフル銃や機関銃などの武器を運んでいます。
クリスマスにカチコミでもかけるつもりなのでしょうか。
「こんばんは、お兄さん、お姉さん」
少女が話しかけると、キチメンキチ女のカップルさん達は、優しい声で言葉を返します。
「こんばんは、お嬢ちゃん、こんなところで何をやって……」
次の瞬間、キチメンキチ女のカップルさん達は少女に向けて発砲しました。
出会ったばかりの少女に、この様な暴挙に出たのには、理由がありました。
キチメンキチ女のカップルさん達には、見覚えがあったのです。
少女の瞳に宿る仄暗い光は、乱射魔の持つそれと瓜二つだったのです!
しかし、キチメンキチ女のカップルさん達が発砲するより刹那程早いタイミングで。
少女はまるで、忍者の苦無のように、銃口にマッチ棒を投げ入れたのです。
「マッチで、こんなことが出来ます。
マッチがあれば、こんなことも出来るんですよ。
だれかマッチを買ってください」
暴発する拳銃で頭を吹き飛ばされながら、キチメンキチ女のカップルさん達は、そんな間抜けな声を聞いたような気がしたのでした。
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クリスマス・イブが終わりそうな時間帯になってきました。
少女がホテルや旅館などを中心に燃やしていると。
少女のお父さんが現れました。
お父さんは、優しい声色で少女に話しかけます。
「ど、どうしたんだ、一体。
お前はそんな子供じゃあなかっ……」
次の瞬間、お父さんは少女の両手首を鷲掴みにしました。
いつも親の言うことを聞く優しい少女に、この様な暴挙に出たのには、理由がありました。
お父さんには、見覚えがあったのです。
少女の瞳に宿る仄暗い光は、少女の母親の持つそれと瓜二つだったのです!
手に握ったマッチ棒を使えない少女は、「ぐっ……!」と一声吐いた後。
「マッチ棒キック!」
マッチ棒全然関係無いキックを放ち、お父さんは上半身だけになりました。
「マッチで、こんなことが出来ます。
マッチがあれば、こんなことも出来るんですよ。
だれかマッチを買ってください」
お父さんが下半身のあったはずの虚空を眺めていると、そんな間抜けな言葉が聞こえてきたのでした。
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……翌日、クリスマスの朝の、ことです。
焼け尽くされた街の真ん中に。
……哀れな少女の亡骸が転がっていました。
たった一本のマッチすら売れなかった可哀相な少女は、降りしきる雪の中で、静かに息を引き取ったのです。
けれど、冷たくなった少女は、なぜか幸せそうに。
……満面の笑みを浮かべていたのでした。
J( 'ー`)し「クリスマスを楽しんでいると、マッチ売りの少女が出るよ」
(´・ω・`)・ω・`) キャーコワイ
/ つ⊂ \