ブルーブラッド
「青い血ってしってる?」
「しらなーい」「なにそれー?」
「『こーき』な人はね、あんまり日に当たらないから流れる血の色が青いんだって」
「うそー」「ほんとにー?」
「確かめてみないとね」
隅で気配を消していた私を、数人の女子が取り囲む。
賑やかな教室のなか、どろりと空気が重くなっていくのを感じた。
かたん。
私の机に、小さなハサミがおかれる。まつげを切るためのもので、刃先は丸い。
「見せてよ。『こーき』な血を」
刃先は丸くても、切れないわけではない。
「血は、赤いよ」
私は喉からなんとかその一言を絞り出した。
「やってみなきゃわかんないじゃーん」「はやくー」
私はハサミを手に取った。可愛らしいピンクのそれを。
「やれよ」
保健室の先生は、またかと呆れ顔だ。もう声すらかけてはくれない。
私は絆創膏を手に取り、自分で消毒し、手当てをした。
保健室には、いれない。先生はそれを許さない。
私は女子トイレに、いつもの場所に逃げ込んだ。
私の肌が白いのも、眼が青いのも、髪が金色なのも、ウェーブしてるのも、生まれもったものだ。私のせいじゃない。
泣き声が漏れれば、この場所に隠れているのがバレる。
私は声を殺し、必死に黙って涙をこぼした。
じんじんとキズが痛む。絆創膏をしたのに、血が滲んできた。深く切り過ぎたらしい。
傷つけた指先を見る。赤く染まった絆創膏。
私の血が青いなら、私が本当に『こーき』な人なら。
「卑しいお前らなんか、コロシテヤル」
突如、隣からははは、と笑い声が響いた。
「やっちゃいなよ」
私は焦った。心の叫びが思わず漏れていたらしい。それを聞かれたのだ。きゅっと身を小さくする私に、姿なき隣人はさらに呼び掛ける。
「青い血のあなた。やれよ、やってしまえよ。殺したいんだろ?」
「…」
「なんで躊躇うの?あなたは高貴な人。卑しい連中のことなんて気にすることはないよ。それに」
ぐっと間を溜めて、見知らぬ隣人は続ける。
「あなたを傷つける連中に、どうしてあなたが萎縮しないといけないの?」
ばたん。隣の個室のドアが開く音。かつかつと靴音が鳴る。私の個室の前で立ち止まったらしい。
「私はあなたの味方だよ。青い血の人」
どのくらい私は個室にいただろう。足がしびれてきた。
私はそっとドアを押し開いた。
気づく。外側のノブに、袋が吊り下げられている。
なかをみる。一本のハサミ。黒色の、刃先の尖ったハサミ。
私はそれを手に、教室に歩を向けた。
ガラリ。教室のドアを開く。みんなが、私をみる。
「つっ立ってんなよ」
うねうねと蛸を彷彿とさせる触手をうねらせ、女子の一人が黒い牙をむき出しに唸る。
「なにガンつけてんだよ」
八つの光る目が、私をとらえている。ガチガチと歯をならして威嚇してくる。
黒い羽をばたつかせるモノ、蹄をならすモノ、背中から生えた四つの手を器用に動かすモノ。…。
卑しい連中。人間を嘗めるなよ。私はハサミを握る手に力を込めた。




