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ピンク色の月

 虹色の兎が飛んできた。泥の腕で僕を掬い上げ、灰の混ざった液体を押し付けてきた。

 飲み終えたのを見届け、兎は言う。

「死の神が来るよ」

「それは誰?」

僕はなにも知らない幼児だ。

「誰でもない。神様だから。大海の一滴みたいなものさ」

「わかんないな」

「山の落ち葉の裏から、虫の卵を見つけるより簡単さ、知ることなんて」

「やっぱりわかんないなー」

 黒より黒い腕で兎はひらりと埃のように舞い上がる。僕は飛べない。芋虫だから。

 寝起きに冷水を掛けられるかのように、それは突然だった。

 白熱した鎌が僕に向かって降り下ろされる。避けようと身体を捻った時、思い出す。

 僕の足は地面に縫い付けられていることを。赤い糸で。

 あっ------。


 緋色のマントが揺れる。黄色の兜がドロドロに溶けていく。土星を駆け巡る塵のように、僕は引きずられていく。その脇で、虹色の兎が頬杖をついている。

「だから逃げろってね」

「雨を避けるようなもんだよ。永遠に生きるなんて。大変だし、疲れる」

土やら草やら鳥やらが僕の口に飛び込んでくる。飲み込みたくはないが、取り敢えず飲む。不味い。

「そのままじゃ死ぬね」

兎は楽しそうだ。明日遠足に行く前のように。

「死ねない。生まれたばかりの子が寿命では死ねないようにね」

「簡単さ。そう願えばいい。願うことは叶うことだ」

僕は兎に従うことにした。

 死の旅へ。------------。


 やっぱり、というか当然だけど、僕は地獄に墜ちた。なぜか。天国に行くだけのことをしていないからだ。

 兎は白い羽を持つ裸の子供たちと談笑している。まるで旧知の友ように。彼は天使なのか?それともただの話す兎?

「なぜそんな渋い顔をしているの?まるで空を飛んでいたら、羽に泥を引っかけられたようじゃないか」

「まずもって」僕は口をひらく。「空を飛んだことがないね。それに羽もない」

兎はちょんと首を不思議そうにかしげる。パン屋がパンなんてしらないと騒ぎ立てているのを端で聞いているみたいに。

「空も飛べないなんて、人生損してるね。いくらでも風に乗れるじゃないか、君は。君たちは」

「空想の中でならね」

「それで十分さ。それが、君たちと虫との違いだよ」

なるほど。僕はふっと息をつき、血で汚れた腕をばたばたと動かした。雛鳥が巣から飛び立つように。そのイメージで。さぁ!

--------。


 と、まあ、ここまで。あとはまあ、おきに召すまま。

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