赤い手
その日も僕はひとりぼっちだった。※※小学校では放課後にクラブ活動があって、ほとんどの子はそれに参加していた。でも、僕は入っていない。一緒にクラブ活動をするともだちがいないからだ。
僕は靴のつまさきをぼんやり見ながら歩いていた。おかあさんからは直しなさいとよく言われるが、僕は猫背らしい。ひとの目を見るのが怖くて、そして見られるのも嫌で、視線を避けているうちに自然と背中が丸くなってしまった。
10分くらい、灰色のくすんだアスファルトを歩けば家に着く。はずだった。いつも通りなら。
おかしい。そう思ったのは道路の色が変わっているのに気づいたからだ。
黒い。どうしてだろう?こんな色の帰り道なんて知らない。それにいつもはうるさいくらいないてるからすの声も、はしゃいでいる低学年の子たちの声も聞こえない。嫌な汗が背中をつたう。黒い道はどこまで続いてるか?道の両側に並んでいたはずの住宅はどこに消えたのか。
僕はいつの間に黒い一本道に迷い混んでしまったのか。
心臓がどくどくと脈打つ。僕は爪先にいっそう視線を集めた。目の前に誰かがたっている。
誰か、は僕のすぐ前に、たっている。むき出しの足首までしかみえない。見たくない。僕は知らない。赤錆色をした足の人なんて知らない。足首まで届くほどの長さの手を持つひとなんて、知らない。
僕の足は止まる。誰かは僕の前に、まるで通せんぼでもしてるみたいにたっている。押し退ける勇気なんてない、顔をあげる気も、ない。
不意に誰かの手が、赤い、その手が動いた。ゆっくりと、赤い手は僕の視界から消えた。
僕は、まるでひっぱられるように首を後ろに向けた。
黒い道が続いている。道の両脇にはなにも、ない。
だらりと力なく伸びる赤い手はその先を指差していた。伸び放題の爪、逆剥け、傷がついた指先は、黒い道の先を指していた。
微かに見える、見慣れたアスファルトの道。
いけ。
そういわれた気がした。僕は駆け出した。今まで歩いてきた黒い道を。もう、下は見ない。ひたすらに前を、見慣れた道だけを目指して駆けた。
どれくらい走っただろう。僕は※※小学校の校門まで戻っていた。息を切らす僕に、クラブ中の子たちが集まる。
どうした?大丈夫か?
ぜいぜいと息をしていた僕は顔をあげた。
「ありがとう。、、大丈夫だよ」
僕はもう下をむいて歩かない。どんなに傷ついても辛くても。
二度とあの世界に迷い混まないために。もう二度と赤い手に会わないために。




