非の打ち所のないパートナー
AとBはレストランで食事をしていた。
AとBは恋人同士。互いに20代の後半を迎え、そろそろ結婚も視野に入ってきた頃だ。
しかし、なぜか今日に限ってAが固く口を閉ざしているのだ。当然、空気も重くなる。
意を決してBが口火を切った。
「Aさん、わたしは今日のお食事を本当に楽しみにしておりました。それなのに、どうしてそんなに沈んでらっしゃるのでしょうか?」
当初、Aを疎ましく思っていたBだったが、彼の熱心さ、時おり見せる誠実さに次第に惹かれ、結婚前提の交際を考えていたのだ。それだけにAの態度に少なからず傷ついていた。
Aは箸をおき、静かに口をひらいた。
「Bさん、僕たち、今日でお別れしましょう」
「そんな、なぜ…?」
「きみが、平均から外れているからです」
Bは絶句した。Aは淡々と続ける。
「しばらく付き合ってわかったことですが、きみは同年代の女性の平均値からずれている。例をあげましょう。20代女性の平均友人数は28人なのに、きみは10人程度。他にも平均化粧時間は15分ほどなのに、きみは10分と短い。さらに、20代の女性は平均的に言って美容やファッションに関心が高いはずなのに、きみは資格習得などの自己研鑽に時間を費やしている」
Aは一息に言い切ると、ワインをぐっと飲み干した。
「…なにより僕が許容できないのが、20代女性が平均4人の男性と交際経験があるのに対し、きみは僕が初めての恋人だということです。平均よりも3人も少ないなんて、信じられない」
Bは口もとをおさえ、必死に嗚咽を堪えていた。しかし、Aの最後の言葉に怒りを押さえきれなくなったのだろう。きっとAを睨み付けた。
「もうたくさんだわ!平均の話ならわたしにだってあってよ!例えば、20代男性の平均年収が260万なのに、あなたは400万でオーバーしてるわ。それに平均身長が170㎝に対して、あなたは180㎝。これもオーバーよ」
Aの顔色がさっと青ざめる。おさえが利かなくなったのか、Bは早口でまくしたてた。
「他にも、週のデートの回数が4日なのに、あなたは3回。初キスの平均が4回目のデートなのに、あなたは2回目だったわね。これは早すぎるんじゃないの!」
Bの目から涙がこぼれ落ちる。バッグをつかみ、Bは席をたった。
「平均から外れた人とお付き合いすることが、どれほど世間から後ろ指さされることか、あなただってご存じでしょう?…それでもわたしはあなたが好きだったのに…。さよなら。次にお付き合いする方はもっと平均的な人にするわ」
Bはレストランから出ていった。
残されたAはふうっと深い息をついた。
「やれやれ、非の打ち所のない、平均的な女性ってのいないもんかね」




