125/143
魔法
大きな影が窓をよぎった。
寝る前にカーテンを引き忘れたのだ。ガンガンに差し込む朝日は暴力的ですらある。一日の始まりを思うと気が重い。
大きな影が窓をよぎった。
コーヒーをいれる。砂糖がないことに気づく。ついでにパンも。舌打ち。仕方ないのでブラックのまま飲み込む。
大きな影が窓をよぎった。
電話が鳴る。出る。すぐ出る。そう答える。電話越しに悲痛な叫び声が聞こえる。すぐ、じゃなくて、今すぐ来てくれと。
大きな影が窓をよぎった。
着替えを済ませ、荷物を持って部屋を後にする。鍵はかけない。
大きな影が空をよぎった。
見上げる。見つける。見つかる。
大きな目が空から私をとらえる。私はそれを地上からにらみ返す。
大きな影の下、小さな私は、これから始まる日常に、気を引き締める。




