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一体何が起きたのだろう。
どうして俺たちは跳べなかったのだろうか。
縄の回し方に問題はなかった。
だから、誰かが足を引っ掛けたのだ。
一体、誰が失敗したのか。問うものも、白状するものもいない。
俺たちは黙ったまま部屋を移動した。
また、この血で汚れた忌々しい部屋へ戻ってくる。
「――第三ゲームは失敗しました。脱落者を一人、投票で決めて頂きます。制限時間は三十分。鬼を探しだすよう、話し合ってください」
その声が終わると、ゴッという鈍い音がした。
不二雄が床を殴ったのだ。拳を押し当てたまま、心底悔しそうな顔をしている。
大縄跳びに失敗した時、俺はそこにへたり込んでしまった。目の前が真っ白になった。現実を受け入れられなかった。それは俺だけではなかったようで、みんなも同じようにその場に伏せてしまった。だからあの時、誰が足を引っ掛けたのは分からない。失敗した状態で静止していれば、誰が足を引っ掛けたのか分かったかもしれないが、あの瞬間はそんなこと考えられなかった。少なくとも、俺はそうだ。
「どうする?」不二雄が言った。
それはきっと、投票のことだ。
また誰かを選ばなくてはならない。
もう考えるのがいやになってきた。このまま眠ってしまって、眠ったまま殺されてしまおうか。痛みは感じるのだろうか。田村や裕太は、苦しまずに死ねたのだろうか――。
「俺は誰が足を引っ掛けたのか分からない」
そう池田の声が聞こえた。俺は思考を中断して、そちらへ目を向けた。
「俺も分からなかったな」と不二雄。
大縄跳びを失敗に導いた犯人探しを、しなくてはならない。そんな気配が漂い始めた。池田と不二雄がそういう空気を作っているのだ。
きっとこの投票、足を引っ掛けたものが死ぬ。選ぶ材料は、それしかないからだ。全員が分かっていることだと思う。
回し手の彼らは、安全な立場だと言える。だから、そう言えたのだ。
――卑怯だ。俺はそう思った。
「わたしも違うわよ」と恵美子。
「違います」葵が言った。
次々と違うと口にする。
俺も首を横へ振った。
結局、全員が違うと答えた。
「ふん。これじゃあ、誰を投票していいか分からねえな」池田が言った。
「……もうやめようや。こんなこと」水谷はさっきからしかめっ面をして口を閉ざしていたが、とうとう声を出した。
「じゃあお前は誰に投票するつもりだ」
池田の問いに、水谷は黙る。
「だんまりかよ……仕方ねえな。それじゃあ、誰が引っ掛かったのかは、もういいよ」
「え?」
池田から出た言葉に驚く。俺や、周りのものも驚いた顔をしていた。
「失敗したのは、残り時間がなくて焦っていたからだ。そうだよな、真世」
池田は真世を睨みつけた。もう仲間だった時の眼差しではない。
「は? ど、どういう意味?」その視線に押されたように、真世が一歩下がった。
「そのまんまの意味だよ。お前があの時、あんな風にならなかったら、みんなもっと落ち着いていた」
「……ふざけないでよ。確かにわたしは時間を削っちゃったけど、絶対に引っ掛かってないから」
「しょうがないだろ。白状するやつがいないんだから」
「はあ? 意味、分かんないから」
真世は視線を左右へ振った。狼狽えているのだ。「ね、ねえ。なんとか言ってよ。誰か」
誰も言葉を発さなかった。残酷な沈黙だ。
真世は一番近くにいた恵美子の肩を持った。
「ねえ、恵美子。お願い。何か言って」
恵美子は眉をぴくりとさせ、顔を背けた。
「え……」
真世が恵美子の顔を覗き込む。田村が見せたものと同じ、哀願の顔だ。
恵美子はあからさまに真世を避けていた。さっき見せた優しい笑顔は、もう跡形もない。
「……最低」
真世がくるりと体を反転させた。
トイレに続く扉へ走る。彼女は一度も振り向かず、素早い動きでトイレに消えていった。彼女の最後に放った一言は、ひどく震えていた。真世は涙を流していた。




