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「いくぞ。……せえの!」
不二雄の掛け声とともに、縄が回される。
タイミングを合わせて跳ぶ。同時に、床を叩く甲高い音が響いた。
練習を開始してから、まだ一度も失敗していない。何度やっても成功した。当たり前だ。大縄跳びとはいえ、実際に跳ぶのは七人だけ。しかも、たった一回跳ぶだけでいい。
想像以上に簡単だった。
しかしそれでも、練習は繰り返し行われた。きっと、本番に行く勇気が誰も持てなかったのだと思う。本番はたったの一回。失敗すれば、また誰かが死ぬ。そう思うと、足が竦んでしまいそうになる。
額から汗が流れた。拭ってみると、裕太の血が汗で流れ落ちたのか、茶色く汚れていた。
「どうする? 残り時間はあと五分だ」池田が言った。「一回跳ぶだけだ。簡単さ。今回は絶対に成功させよう」
「そうだな。これ以上やっても、時間がなくなって疲れるだけだと思う」と不二雄。
全員に同意を求める。
「簡単よね。簡単……」呪文のように恵美子が呟いた。緊張がありありと見て取れる。
いよいよ時間がなくなってきたと思うと、どうしようもない緊張が訪れた。膝の裏に痺れのようなものを感じる。背中の筋肉が強張り、呼吸も浅くなった。
「ま、待って……」真世が言った。苦しそうにしている。呼吸が荒い。「ごめん……。もう少し待って……」
「大丈夫か?」と不二雄。
真世が凄まじい重圧を受けているのは誰にでも分かった。
真世は答えない。呼吸は収まるどころか、ますます激しさを増した。ついに彼女はその場にしゃがみ込んだ。
「おいおい……。まずいんじゃないのか」池田の顔に焦りが浮かんでいる。
真世の呼吸は尋常じゃない。彼女は胸部を抑えこみ、その場に倒れた。額に汗をびっしょりとかいている。瞼が痙攣し、唇は震えている。
「やばいぞ! 過呼吸を起こしたんだ」
不二雄がモニターを見ながら言った。
時間は残り四分を切った。
「どうするんだ。こんなんじゃ跳べないぞ」
不二雄は右足で床を何度も叩いていた。焦っているのだ。「真世! 大丈夫か? 頑張れ!」
恵美子が真世の側に寄った。唇に人差し指を当て、不二雄を睨む。
そして、俺たち全員へ目線を送った。静かにしろと言っているのだ。
「大丈夫よ。安心して。時間はまだあるから」
恵美子は倒れている真世の上半身を優しく起こし、後ろから抱くように体を重ねた。
背中をゆっくりとさする。
およそ一分ほどだろうか。恵美子は何も言わず真世の背中を優しく撫でていた。俺たちは息を呑んで見守っていた。真世の激しい呼吸の音だけが部屋に鳴っていた。
「落ち着いてきたかな。ゆっくりと息をしてみて」
真世はまだ辛い顔をしていたが、呼吸はさっきよりも大分緩やかになった。
「吸って……」恵美子が真世を抱きしめたまま言った。「吐いて……」
恵美子の言葉に合わせ、真世は呼吸を落ち着かせていく。顔色もよくなってきた。
「ごめん……」真世が立った。「ありがと」
恵美子はいつものように慈愛に満ちた微笑みを見せた。
「やろう」不二雄が言った。
その言葉を合図に並び直す。
時間はあと五十秒ある。真世ももう大丈夫だ。不安要素はない。
「おい! 本番をやる!」
不二雄が天井を見上げて言った。
「――了解しました」
ボイスチェンジャーの声が答えた。
「大丈夫さ。頑張ろう」
不二雄が全員に言った。俺たちは力強く頷く。久しぶりに、連帯感が生まれたような気がした。
「行くぞ! せえの!」
縄が勢いをつけて、回ってきた――。
「――第三ゲームは失敗しました。部屋を移動してください」
縄が床を叩く小気味良い音は、鳴らなかった――。




