韓流談義
この回は多少不快に思われる方もいらっしゃるかと思われます。
自己責任でお読み下さい。
いつもなら俺の他に2、3組はお客が入っているような時間だが、今夜はさっぱりなようだ。マスターも閑そうにグラスを磨いたりしている。BGMはネコのマクリーン。俺的には、あれは絶対フクロウだと思っているのだが、世間的には“ネコマク”ってことになっている。まぁどちらでもイイことだ。
「ねぇマスター、マスターはネコだと思う? それともフクロウ」
俺は4杯目のマティーニを飲みながら、閑そうにしているマスターに水を向けた。
「私はネコだね。ネコマク。“フクマク”じゃあ盲腸にでもなりそうだ」
「まぁ確かにネコの方が語呂がイイね」
あまりにもどうでもイイ話題で後が続かない。話題を変えるとしよう。
「ところでマスター、マスターは韓流って好きかい。俺はすっかり韓流ブームに乗り損ねちゃって」
「心配することは無いよ、韓流ブームなんて始めから無かったんだから。無いブームには乗れない」
「そうなの?」
「そうさ、全部捏造。韓国の恋愛ドラマやK-POPとかいうヤツの中に韓国らしさなんてあるかい?」
「そうだね。でも韓国らしさって何だろ。キムチとか?」
「“らしさ”ってのは結局文化のことさ。文化が無ければブームになりようもないって話さ」
どうやらマスターはあまり韓流が好きじゃないみたいだ。この話題も失敗かな?
「でも韓国でもお酒は飲むでしょ。韓国の酒文化ってのは?」
酒の話ならマスターも乗ってくるだろう。
「そうだな、酒だったら韓国が世界に誇れる文化があるぞ。“トンスル”ってのがあってな」
ハテ、聞いたことの無い酒の名前だ。良く考えたら韓国の酒って“マッコリ”しか知らないな。何か面白い話が聞けるかも知れない。
「“スル”ってのは朝鮮の言葉で“酒”って意味だ。で、“トン”はウンコのこと。つまりまんま“ウンコ酒”ってヤツだ」
「うわっ、何それ? そんなのホントにあるの?」
「竹筒に穴を開けて、そこに松葉を突っ込むんだそうだ。それを便所に放り込んでおく。もちろん水洗じゃなくて“汲み取り式”ってヤツだ。お前さんの世代だったらお世話になったことあるだろ? そいつを3ヶ月ぐらい置いておくと中に“ウンコ汁”が溜まる。それをマッコリに混ぜて飲むのさ」
「ええぇ~、そんなの飲めるわけないじゃん」
俺はちょっと咽が詰る感じがした。ちょっと胃の内容物が逆流しそうだ。
「骨の治療なんかに効くんだそうだ。でもつくるのに時間が掛かるから、急ぎの時にはマッコリに直接ウンコを入れて飲むんだそうだよ。もちろん私は飲んだことないけどね」
「それってみんなが飲んでるの?」
「田舎の方だけなんじゃないかな。でも今でも飲む人はいるらしいよ。何しろ朝鮮は世界一と言えるほどのウンコ文化の国なんだ。ウンコへの愛着は我々の思い及ぶところではないんだよ。捏造だとかパクリだとか色々非難されてるみたいだけど、これは間違いなく朝鮮が誇るオリジナルの文化なんだ」
「でも、そんなの文化って言われても。その何とか言う酒の話だけなんでしょ?」
ウンコの酒があるからと言って“ウンコ文化”はいくら何でも言い過ぎだろう。
「嘗糞なんてのもあるぞ。ウンコを舐めて病気の診断をしたり、また娯楽としてウンコを舐めて誰のウンコか当てるなんてのもあったそうだ。これは日本が韓国を併合した時に日本が禁じたんだ。そりゃ日本にしてみれば当然だろう。同じ天皇陛下の臣下たる民族がウンコ喰ってたら世界に対して示しがつかないからね。でも一歩引いて考えたら、それだって立派な朝鮮の文化だよ。日本が禁止したのは横暴だよ。日本が捕鯨を守るように、彼らにはウンコを食べる権利がある」
「ちょっとマスター、ウンコウンコって、バーで酒飲みながらはなす話じゃないよ」
「何言ってんだい、お前さんが先に言いだしたんだろう?」
「俺はただ韓国の文化について……」
「韓国の文化を語るってのはウンコについて語るってのと一緒なんだよ。だからそういう話をしてるんじゃないか」
どうも大変な話題を振ってしまったようだ。
「以前、“子犬のうんち”という韓国の絵本が和訳されて日本で発売されたんだ。犬のクソのおかげでタンポポが綺麗に咲いたっていう感動作だ。犬でさえこれだから、彼らが人糞に対してどれほどの愛着を持っているかが伺われるだろう? ここまでウンコにこだわった民族を、私は他に知らない。他国の文化にも理解を示すのが立派な教養人の証しだ。ただ、理解はするけど日本には馴染まないよな。だから韓流ブームなんてのが根付かないのも当然と言えば当然なのさ」
どうやら一回りして落ち着くところに落ち着いたらしい。
「どうだい、次は韓国のスピリッツでも飲んでみるかい? “ムンベ酒”っていうのがある。粟や黍とかを原料にした伝統酒だ」
「う~ん、なんか飲む気がしないなぁ。遠慮しとくよ」
さすがにあの話の後で韓国のお酒を飲むのは気が退ける。話の前に出してくれたら飲めたかも知れないけど……。
「蒸留酒だから大丈夫だと思うけど……大丈夫ってのは変かな。私も飲んだけどそんなにクセもないし、話のネタにはなるぞ」
「いいや、辞めとく」
なんだか随分と酔いが回ってきたようだ。この後は何を飲んでも悪酔いするような気がする。
「マスター」
「何」
「俺さ、日本に生まれてホントに良かったと思うよ。今夜は特に……」