『機械仕掛けの六枚目』【3】
街へ入った三人は――
行き交う人々へ。
No.6のことを――
聞いて回っていた。
シオン「六枚の黄金の羽を持つ――」
シオン「空を飛ぶ人間を見なかったか?」
男性「黄金の羽?」
シオン「ああ」
男性「いや――」
男性「知らないな」
シオン「そうか」
男が――
その場を離れる。
少し離れた場所では。
セイが――
別の女性へ話を聞いていた。
セイ「黄金の光が――」
セイ「空を横切らなかったか?」
女性「さあ……」
セイ「ものすごい音が――」
セイ「聞こえただけでもいいんだけど」
女性「知らないね」
セイ「…………」
女性も――
足早に立ち去っていく。
セイ「これで――」
セイ「何人目だ?」
シオン「十二人目」
セイ「誰も見てないじゃん!」
シオン「街の上を通ったとは――」
シオン「限らないからな」
セイ「でも――」
セイ「この近くを通った可能性は」
セイ「あるんだろ?」
シオン「ああ」
ヴァン「聞く相手が悪い」
シオン「?」
セイ「どういうことだよ?」
ヴァンが――
街の入口へ顔を向ける。
その先。
門の横に建てられた――
高い見張り台。
上には。
一人の兵士が――
立っていた。
ヴァン「空を見るのが――」
ヴァン「仕事の奴に聞け」
セイ「なるほど!」
三人は――
見張り台へ向かう。
階段を上り。
上にいた兵士へ――
シオンが声をかける。
シオン「少し聞きたいことがある」
兵士「なんだ?」
シオン「この街の上空で――」
シオン「黄金に光る何かを見たことはないか?」
兵士「黄金……?」
シオン「ああ」
シオン「六枚の羽を持つ――」
シオン「人のような姿だ」
兵士「…………」
兵士が――
僅かに。
眉を寄せる。
兵士「人かどうかまでは――」
兵士「分からない」
セイ「見たことあるのか!?」
兵士「ああ」
シオン「いつだ?」
兵士「一度じゃない」
シオン「…………」
兵士「何度か――」
兵士「この街の近くを通っている」
ヴァン「どっちへ飛んでいった」
兵士が――
街の向こう側を指差す。
兵士「あっちだ」
ヴァンが。
すぐに――
地図を広げる。
シオン「見た時の様子を――」
シオン「詳しく教えてくれ」
兵士「詳しくと言われてもな……」
兵士は。
腕を組み――
空を見上げる。
兵士「最初は――」
兵士「流れ星かと思った」
シオン「流れ星?」
兵士「ああ」
兵士「空を――」
兵士「黄金の光が横切った」
兵士「見えたのは――」
兵士「ほんの一瞬だ」
シオン「音は?」
兵士「光が消えたあとに――」
兵士「聞こえた」
シオン「あとに?」
兵士「ああ」
兵士「空が裂けたような――」
兵士「大きな音だった」
シオン「通り過ぎてから――」
シオン「音が届いたのか」
セイ「No.6なら――」
セイ「それくらい普通だよ」
シオン「そんなに速いのか?」
セイ「ああ」
セイ「俺も――」
セイ「飛んでるところは見たことあるけど」
セイ「追いかけようとは思わないな」
ヴァン「追っても無駄だ」
シオン「お前でもか?」
ヴァン「ああ」
ヴァン「空にいるあいつへ――」
ヴァン「地上から追いつくのは難しい」
兵士「お前たち――」
兵士「あれを知っているのか?」
セイ「ああ」
兵士「…………」
シオン「最後に見たのは?」
兵士「少し前だ」
兵士「いつもと同じ方角へ――」
兵士「飛んでいった」
ヴァンの指が――
地図の上を進む。
ヴァン「次の街へ行く」
シオン「ああ」
シオンが――
兵士へ向き直る。
シオン「助かった」
兵士「待て」
シオン「?」
兵士「あれに――」
兵士「何をするつもりだ?」
シオン「話を聞くだけだ」
兵士「話が通じる相手なのか?」
シオン「…………」
シオンが――
セイとヴァンを見る。
セイ「通じるよ」
兵士「本当か?」
セイ「ほとんど喋らないけどな」
シオン「それは――」
シオン「話が通じると言えるのか?」
セイ「必要なことには答えるよ!」
ヴァン「相手を敵だと判断しなければな」
シオン「…………」
兵士「やめた方が――」
兵士「いいんじゃないか?」
セイ「大丈夫だって!」
ヴァン「行くぞ」
三人は。
見張り台を――
あとにした。
◇ ◇ ◇
――翌日。
三人は――
次の街へ辿り着く。
最初の街と同じく。
人々へ――
話を聞いて回る。
だが。
No.6を見た者は――
見つからない。
セイ「また――」
セイ「見張り台を探すか?」
ヴァン「いや」
セイ「じゃあ――」
セイ「どうするんだよ?」
シオン「上空を通っていない――」
シオン「可能性もある」
ヴァン「ああ」
ヴァンが――
街の外へ顔を向ける。
シオン「街の外か」
ヴァン「あいつは――」
ヴァン「人の多い場所を避ける」
セイ「そういえば――」
セイ「街の中に降りてくるところは」
セイ「見たことないな」
ヴァン「外へ行くぞ」
三人は。
街を出る。
その先には――
広い草原が続いていた。
草を食べる――
何頭もの羊。
その近くで。
一人の男が――
杖を持って立っている。
シオン「少しいいか?」
羊飼い「ん?」
シオン「この辺りで――」
シオン「黄金に光る何かを見なかったか?」
羊飼い「黄金……」
羊飼いが――
空を見上げる。
羊飼い「ああ」
羊飼い「何度か――」
羊飼い「見たことがある」
シオン「人の形をしていたか?」
羊飼い「そこまでは――」
羊飼い「分からない」
羊飼い「だが――」
羊飼い「背中から」
羊飼い「細長い光が伸びていた」
セイ「六本か?」
羊飼い「…………」
羊飼いが――
記憶を辿る。
羊飼い「おそらく――」
羊飼い「それくらいだった」
セイ「No.6だな」
ヴァン「ああ」
シオン「どっちへ飛んでいった?」
羊飼いが――
草原の向こうを指差す。
羊飼い「あっちだ」
その方角は。
最初の街で――
兵士が示したものと。
同じだった。
ヴァンが。
地図を――
広げる。
羊飼い「ただ――」
シオン「?」
羊飼い「前に見た時は――」
羊飼い「もっと高い場所を飛んでいた」
シオン「前に?」
羊飼い「ああ」
羊飼い「ここからでは――」
羊飼い「姿が分からないほど高い場所だ」
羊飼い「だが――」
羊飼い「最後に見た時だけは」
羊飼い「いつもより低く飛んでいた」
シオン「どこかへ――」
シオン「降りようとしていたのか?」
羊飼い「分からない」
羊飼い「でも――」
羊飼い「少しずつ高度を下げながら」
羊飼い「あの方角へ消えていった」
ヴァンの指が――
地図の上で止まる。
シオン「何がある?」
ヴァン「街が一つ」
セイ「その先は?」
ヴァン「街道は――」
ヴァン「そこで終わっている」
シオン「なら――」
シオン「次はそこだ」
ヴァン「ああ」
ヴァンが――
地図を畳む。
セイ「今度こそ――」
セイ「近そうだな!」
ヴァン「まだ分からない」
セイ「またそれかよ!」
シオン「行くぞ」
三人は――
羊飼いが示した方角へ。
歩き始めた。
◇ ◇ ◇
――同じ頃。
光の届かない――
薄暗い部屋。
金属で作られた台の前に。
一つの人影が――
座っていた。
その背中には。
折り畳まれた――
六枚の黄金の羽。
カチ――
細い指が。
一枚の羽の根元へ――
触れる。
開かれた装甲の奥。
複雑に組み合わさった部品を――
一つずつ。
調整していく。
カチ――
カチ――
その時。
小さな足音が――
部屋へ近づいてくる。
No.6の指が。
止まる。
一匹の小さな動物が――
暗闇の中から現れる。
その口には。
一通の手紙が――
咥えられていた。
動物は。
No.6のもとへ歩み寄り――
足元へ手紙を置く。
No.6「…………」
No.6が――
手紙を拾い上げる。
これまで。
手紙を運んできた者の姿を――
No.6は。
一度も見たことがなかった。
いつも――
気づいた時には。
部屋の前へ――
置かれていた。
だが。
今回。
手紙を運んできたのは――
目の前にいる。
小さな動物だった。
No.6が――
封筒へ目を落とす。
そこには。
差出人の名も――
印もない。
いつもと――
同じだった。
No.6は。
封を開け――
中の紙を広げる。
そこには。
短い文章だけが――
書かれていた。
『No.5も敗北した』
『敵は現在――』
『A、No.2と行動している』
『お前のもとへ向かう可能性がある』
『引き続き――警戒せよ』
No.6「…………」
手紙を持つ指が――
僅かに止まる。
No.6「No.5……」
薄暗い部屋に。
その声だけが――
小さく響く。
No.6「これからは――」
No.6「手紙を届けに行く必要も――」
僅かな間が空く。
No.6「なくなりましたね」
足元では。
手紙を運んできた動物が――
No.6を見上げている。
No.6は。
台の上から――
小さな食べ物を取る。
それを――
動物の前へ置いた。
動物が。
嬉しそうに――
食べ始める。
No.6は――
再び。
金属の台へ向き直る。
カチ――
カチ――
部品が――
正しい位置へ戻る。
六枚の黄金の羽が――
一斉に開く。
ウィン――
羽の内側を。
黄金の光が――
駆け抜ける。
No.6は。
その光を――
静かに確認する。
そして。
六枚の羽が――
再び。
背中へ折り畳まれた。
カチ――
薄暗い部屋に。
小さな咀嚼音と――
機械の音だけが。
響いていた。




