『機械仕掛けの六枚目』【2】
――数日後。
家の外。
シオンは――
ゆっくりと。
剣を振る。
ヒュン――
風を斬る音が。
森の中へ――
響く。
続けて。
もう一度。
身体を捻り――
横薙ぎに。
剣を振る。
ヒュン――
シオン「…………」
傷口に――
僅かな痛みが走る。
だが。
身体の動きに――
問題はない。
シオンは。
剣を――
鞘へ収める。
ヴァン「どうだ?」
木にもたれながら。
ヴァンが――
シオンを見ていた。
シオン「ああ」
腹部へ――
手を添える。
シオン「もう大丈夫だ」
ヴァン「戦えるか?」
シオン「必要ならな」
ヴァン「そうか」
それだけ言うと。
ヴァンは――
背負っていた荷物を持ち直す。
セイ「シオン!」
家の中から――
セイが飛び出してくる。
両腕には。
いくつもの袋を――
抱えていた。
セイ「準備できたぞ!」
シオン「…………」
ヴァン「多いな」
セイ「仕方ないだろ!」
セイ「どれだけかかるか――」
セイ「分からないんだから!」
セイが。
荷物を――
地面へ置く。
袋の中には。
食料だけではなく――
鍋。
皿。
毛布。
そのほかにも。
旅に必要なのか分からない物が――
いくつも入っていた。
ヴァン「置いていけ」
セイ「なんでだよ!」
ヴァン「邪魔だ」
セイ「途中で――」
セイ「必要になるかもしれないだろ!」
ヴァン「鍋を三つも使う旅が――」
ヴァン「どこにある」
セイ「…………」
シオン「三つも入れたのか……」
セイ「大きさが違うんだよ!」
ヴァン「一つにしろ」
セイ「……分かったよ」
セイが――
不満そうに。
袋の中身を――
取り出していく。
その音を。
椅子に座ったNo.5が――
静かに聞いている。
やがて。
荷物をまとめ終えたセイが――
勢いよく立ち上がる。
セイ「よし!」
セイ「今度こそ準備できたぞ!」
ヴァン「行くぞ」
シオン「ああ」
シオンが――
No.5へ顔を向ける。
シオン「リオン」
No.5「何?」
シオン「No.6が飛び去った方角を――」
シオン「教えてくれ」
No.5「うん」
No.5が――
椅子から立ち上がる。
四人は。
家を出て――
森の奥へ進む。
木々の間を抜け。
辿り着いたのは――
小さく開けた場所。
No.5が。
足を止める。
No.5「ここ」
シオン「ここに――」
シオン「No.6が来ていたのか?」
No.5「うん」
No.5「いつも――」
No.5「ここへ降りてきた」
No.5が――
数歩。
前へ進む。
No.5「手紙を読んだあとも――」
No.5「少しだけ」
No.5「ここに立っていた」
セイ「何をしてたんだ?」
No.5「分からない」
No.5「何も話さなかったから」
ヴァン「それで――」
ヴァン「どっちだ」
No.5「…………」
風が――
木々を揺らす。
サァァ――
葉と葉が。
擦れ合う音。
鳥の声。
遠くを流れる――
川の音。
No.5は。
その場で――
ゆっくりと向きを変える。
そして。
木々の向こうを――
指差した。
No.5「こっち」
シオン「間違いないか?」
No.5「うん」
No.5「羽が開く音も――」
No.5「飛び立つ音も」
No.5「毎回、ここで聞いていた」
No.5「少しずれることはあったけど――」
No.5「向かう方角は」
No.5「いつも同じだった」
セイ「どれぐらい遠くまで行ったかは――」
セイ「分からないんだよな?」
No.5「うん」
ヴァンが――
鞄から。
一枚の地図を取り出す。
近くの岩へ広げ――
No.5が示した方角を。
指で――
なぞっていく。
ヴァン「この先には――」
ヴァン「いくつか街がある」
シオン「一番近いのは?」
ヴァン「ここだ」
ヴァンの指が――
地図の上で止まる。
セイ「そこで聞くのか?」
ヴァン「ああ」
ヴァン「目撃した奴がいなければ――」
ヴァン「次へ進む」
シオン「見た者がいれば――」
シオン「飛んでいった方角を聞く」
ヴァン「ああ」
セイ「それを繰り返せば――」
セイ「いつかNo.6のいる場所まで」
セイ「辿り着けるってことだな!」
ヴァン「見失わなければな」
セイ「そこは――」
セイ「辿り着けるって言えよ」
ヴァン「保証はできない」
セイ「相変わらずだな……」
ヴァンが――
地図を畳む。
シオン「リオン」
No.5「何?」
シオン「俺たちは――」
シオン「このまま行く」
No.5「うん」
セイ「じゃあな、リオン!」
No.5「うん」
セイ「また来るからな!」
No.5「…………」
セイ「なんだよ?」
No.5「分かった」
セイ「なんだよ――」
セイ「その間は」
No.5「本当に来るのかなって――」
No.5「考えてた」
セイ「行くよ!」
No.5「うん」
セイ「絶対だからな!」
No.5「分かったって」
シオンとセイが――
歩き始める。
ヴァンも。
二人のあとに――
続く。
だが。
数歩進んだところで――
ヴァンが足を止める。
僅かに。
振り返る。
ヴァン「リオン」
No.5「何?」
ヴァン「またな」
No.5「…………」
僅かな間を置いて――
No.5「またね」
ヴァン「…………」
ヴァンは――
僅かに笑う。
そして。
再び――
歩き始めた。
三人の足音が――
少しずつ。
遠ざかっていく。
その音が。
森の奥へ消えるまで――
No.5は。
同じ場所に――
立っていた。
◇ ◇ ◇
森を抜け――
三人は。
街道へ出る。
ヴァンが――
再び地図を開く。
ヴァン「こっちだ」
シオン「ああ」
セイ「…………」
シオン「どうした?」
セイ「いや――」
セイが。
来た道へ――
顔を向ける。
セイ「リオン――」
セイ「本当に一人で大丈夫かなって」
ヴァン「今まで――」
ヴァン「一人で生きてきた」
セイ「そうだけどさ……」
シオン「心配なら――」
シオン「また会いに行けばいい」
セイ「…………」
セイ「ああ!」
前を向き――
大きく頷く。
シオン「その前に――」
シオン「No.6だ」
ヴァン「六枚の黄金の羽」
セイ「あれだけ目立つんだ」
セイ「すぐに情報も見つかるって!」
ヴァン「だといいがな」
セイ「だから――」
セイ「そこは見つかるって言えよ!」
三つの足音が――
街道に響く。
その先。
遠く離れた場所に――
いくつもの建物が見える。
空へ昇る――
細い煙。
最初の街だった。




