『死を纏う四枚目』【9】
――No.A VS 師匠――
A「行け」
シオン「…………」
A「シオン」
A「こいつは――」
A「俺に戦わせろ」
シオンは――
一瞬だけ。
Aを見る。
そして――
シオン「…………分かった」
ダッ――!!
シオンが――
No.4へ向かって駆け出す。
残された――
A。
その正面には。
一振りの剣を持った――
男。
A「…………」
男は――
何も言わない。
ただ。
静かに――
剣を構えた。
A「…………」
A「その構え――」
A「変わらないな」
ゆっくりと――
Aも。
剣を抜く。
A「…………」
A「まさか――」
A「あんたともう一度」
A「剣を交える日が来るとはな」
男が――
動く。
次の瞬間。
ドンッ――!!!
地面を蹴り砕き――
Aが。
一気に――
間合いを詰めた。
一撃。
ただ――
それだけ。
これまで。
幾人もの強者を――
沈めてきた。
Aの――
必殺の一振り。
ブォンッ――!!!
だが。
男は――
受けない。
ガッ――
刃が触れた――
その瞬間。
僅かに。
剣の角度を――
変える。
ギィン――!!!
A「――!」
Aの剣が――
男の身体を逸れ。
その勢いのまま――
地面へ。
ズガァァン――!!!
大地が――
抉れる。
A「…………」
男は――
もう。
Aの懐にいる。
スッ――
A「――っ」
首元を通り過ぎる――
刃。
Aが――
身体を引く。
一筋。
頬から――
血が流れた。
A「…………」
指で――
血を拭う。
そして。
ほんの僅かに――
笑った。
A「やっぱり――」
A「あんただな」
剛と――
柔。
何度。
剣を交えても。
この男だけは――
Aの剣を。
真正面から――
受けなかった。
――まだ。
《凶宴》も。
《A》という名も――
存在しなかった頃。
彼がまだ――
一人の少年だった頃――。
その少年の名は――
ヴァン。
まだ。
剣を握ることも。
強さを――
求めることも。
知らなかった頃。
「ヴァン」
朝。
聞き慣れた声に――
振り返る。
母「私たち――」
母「今日は隣町まで」
母「仕事に行ってくるから」
ヴァン「今日?」
父「ああ」
父「帰るのは――」
父「少し遅くなるかもしれない」
ヴァン「…………」
父「なんだ?」
父「一人じゃ怖いか?」
ヴァン「は?」
ヴァン「別に――」
ヴァン「怖くないし」
父「ははっ」
父「そうかそうか」
ヴァン「笑うなよ!」
母「もう――」
母「からかわないの」
母は――
ヴァンの前にしゃがむ。
母「ご飯は置いてあるから」
母「お腹が空いたら食べるのよ」
ヴァン「分かってるって」
母「それと――」
ヴァン「戸締まりもする」
ヴァン「知らない人が来ても開けない」
母「…………」
ヴァン「あと――」
ヴァン「暗くなったら外に出ない」
母「ふふっ」
母「ちゃんと覚えてるじゃない」
ヴァン「毎回言うからだろ」
父「じゃあ――」
父「留守番」
父「頼んだぞ」
ヴァン「うん」
父と――
母が。
家を出ていく。
ヴァン「…………」
それは――
いつもと変わらない。
何でもない――
朝だった。
そして。
昼が過ぎ――
夕方。
ヴァン「…………」
窓の外を見る。
空は――
赤く染まり始めていた。
ヴァン「遅いな……」
父は――
少し遅くなるかもしれないと。
言っていた。
だから。
まだ――
気にするほどじゃない。
ヴァン「…………」
テーブルに置かれた――
食事を見る。
けれど。
手は――
つけなかった。
もう少し待てば――
帰ってくる。
そう思っていた。
やがて。
赤かった空が――
暗くなる。
ヴァン「…………」
まだ――
帰ってこない。
ヴァン「…………」
窓を見る。
誰も――
いない。
ヴァン「…………」
その時。
ガタン――
ヴァン「――!」
扉の向こうから――
音。
ヴァン「帰ってきた!」
椅子から飛び降り――
タッ――!!
タッ――!!
玄関へ――
走る。
ヴァン「遅いって――!」
勢いよく――
扉を開ける。
ガチャッ――!!
ヴァン「…………」
そこにいたのは――
村長。
ヴァン「…………村長?」
いつもなら。
会えば――
笑って声をかけてくる。
けれど。
今日は――
何も言わない。
ヴァン「…………」
ヴァン「どうしたの?」
村長「…………」
何かを――
言おうとして。
口を開く。
だが――
言葉が出ない。
ヴァン「…………?」
おかしい。
子供のヴァンにも――
それだけは分かった。
いつもの村長とは――
明らかに違う。
ヴァン「…………」
そして。
今日――
帰ってくるはずの。
二人。
ヴァン「…………父さんと」
ヴァン「母さんに――」
ヴァン「何かあったの?」
村長「…………」
その言葉に。
村長は――
僅かに俯いた。
ヴァン「…………」
村長「ヴァン――」
村長「よく」
村長「聞いてくれ」
ヴァン「…………」
村長「お前の父さんと――」
村長「母さんが」
一度――
言葉を止める。
村長「隣町へ向かう途中で――」
ヴァン「…………」
村長「魔物に――」
村長「襲われた」
ヴァン「…………」
ヴァン「…………それで?」
村長「…………」
ヴァン「怪我――」
ヴァン「したの?」
村長「…………」
ヴァン「どこにいるの?」
村長「ヴァン……」
ヴァン「俺――」
ヴァン「行ってくる」
家を――
飛び出そうとする。
だが。
村長「ヴァン!!」
その肩を――
強く。
掴まれた。
ヴァン「…………?」
村長「…………」
ヴァン「なに?」
村長「…………二人は」
言葉が――
震える。
村長「もう――」
村長「帰ってこない」
ヴァン「…………」
ヴァン「…………なんで?」
村長「…………」
ヴァン「帰ってくるって――」
ヴァン「言ってたよ?」
村長「…………」
ヴァン「遅くなるかもしれないって」
ヴァン「でも――」
ヴァン「帰ってくるって……」
村長「ヴァン……」
ヴァン「…………」
村長「二人とも――」
村長「死んだ」
ヴァン「…………」
静かだった。
何も――
聞こえなかった。
村長が。
何かを――
話している。
けれど。
その言葉は――
ヴァンの耳には。
入ってこなかった。
ただ。
頭の中に――
帰ってくる。
朝。
母「暗くなったら外に出ない」
父「留守番――」
父「頼んだぞ」
ヴァン「…………」
いつもと――
何も変わらなかった。
だから。
ヴァン「…………」
ヴァン「嘘だ」
村長「…………」
ヴァン「だって――」
声が――
震える。
ヴァン「帰ってくるって」
ヴァン「言ったもん……」
村長「…………」
ヴァン「…………」
ヴァン「父さん……」
ヴァン「母さん……」
それ以上――
言葉は。
出なかった。
――数日後。
村の――
外れ。
二つ並んだ――
新しい墓。
その前に。
ヴァンは――
一人。
座っていた。
ヴァン「…………」
あの日から。
何度――
ここへ来たのか。
分からない。
ヴァン「…………」
二人は――
帰ってこなかった。
どれだけ――
待っても。
どれだけ――
願っても。
カンッ――!!
ヴァン「…………?」
少し離れた――
村の広場。
そこから。
何かが――
聞こえた。
カンッ――!!
カンッ――!!
剣の――
ぶつかる音。
ヴァンは――
ゆっくりと。
立ち上がった。
広場では――
一人の男が。
剣を――
握っていた。
その前には――
数人の村人。
次々と――
男へ斬りかかる。
だが。
カンッ――!!
一人。
剣を――
逸らされる。
ガッ――!!
もう一人。
踏み込んだ勢いのまま――
地面へ転がる。
三人目。
背後から――
剣を振るう。
男は――
振り返らない。
僅かに――
身体をずらす。
ブンッ――
空を――
斬る。
ヴァン「…………」
誰一人――
男に。
触れることすら――
できない。
なのに。
男もまた――
誰一人。
斬っていなかった。
ヴァン「…………」
初めて――
見た。
圧倒的な――
強さ。
ヴァン「…………強い」
気づけば。
その言葉が――
口から零れていた。




