『変幻の三枚目』【6】
――翌日。
山道を――
シオンとセイは。
ひたすら――
登っていた。
セイ「…………」
シオン「…………」
セイ「まだ?」
シオン「知らない」
セイ「もう結構歩いたぞ」
シオン「山奥って言ってただろ」
セイ「山奥すぎんだろ……」
シオン「文句言うなら帰れ」
セイ「そればっかりだな、お前」
シオン「じゃあ黙って歩け」
セイ「…………」
さらに――
山道を進む。
やがて。
木々の隙間から――
煙が。
細く――
空へ昇っているのが見えた。
シオン「…………」
セイ「お」
その先。
山の中に――
ぽつりと。
一軒の――
工房。
カン――
カン――
カン――
近づくほどに。
金属を叩く音が――
大きくなる。
シオン「ここか……」
セイ「多分な」
二人は――
工房の前へ。
シオン「すみません」
カン――
カン――
シオン「…………」
セイ「聞こえてねぇんじゃね?」
シオン「すみません!」
カン――
…………。
音が――
止まる。
「うるせぇな」
工房の奥から――
一人の老人が。
姿を現す。
鍛冶師「なんだ、お前ら」
シオン「聞きたいことがある」
鍛冶師「帰れ」
シオン「まだ何も言ってないだろ」
鍛冶師「仕事中だ」
シオン「…………」
セイ「感じ悪い爺さんだな」
鍛冶師「なんか言ったか、小僧」
セイ「別に」
シオン「少し前――」
シオン「ここに変わった武器を持ち込んだ奴が来なかったか?」
鍛冶師「…………」
シオン「巨大な鎌」
シオン「二振りの剣」
シオン「それと――」
シオン「巨大な弓」
鍛冶師「…………」
老人の目が――
僅かに。
変わる。
鍛冶師「……誰に聞いた」
シオン「それは言えない」
鍛冶師「なら俺も言わん」
シオン「…………」
セイ「めんどくせぇ爺さん」
鍛冶師「お前さっきから聞こえてるぞ」
セイ「聞こえるように言ってるからな」
シオン「セイ」
セイ「なんだよ」
シオン「黙ってろ」
セイ「…………」
シオンは――
再び。
老人を見る。
シオン「その武器の持ち主を探してる」
鍛冶師「…………」
シオン「ここに来ると聞いた」
鍛冶師「…………」
しばらく――
シオンを見つめ。
鍛冶師「……来たぞ」
シオン「!」
セイ「…………」
鍛冶師「数日前にな」
シオン「どんな奴だった?」
鍛冶師「どんなって――」
鍛冶師「普通の若い奴だ」
シオン「他には?」
鍛冶師「特にねぇよ」
シオン「…………」
鍛冶師「俺が見るのは――」
鍛冶師「人間じゃねぇ」
シオン「?」
鍛冶師「武器だ」
シオン「…………」
鍛冶師「あれは――」
鍛冶師「面白い武器だった」
セイ「…………」
鍛冶師「一つの武器でありながら――」
鍛冶師「三つの姿を持つ」
シオン「《三相》……」
鍛冶師「ほう」
鍛冶師「名前まで知ってんのか」
シオン「…………」
鍛冶師「今は――」
鍛冶師「全部ばらして調整してる」
シオン「じゃあ――」
シオン「まだここに?」
鍛冶師「ああ」
鍛冶師「明日には仕上がる」
シオン「持ち主は?」
鍛冶師「明日取りに来る」
シオン「…………」
セイ「Aの言ってた通りだな」
シオン「ああ」
鍛冶師「…………」
その時。
老人の視線が――
ふと。
セイの腰で――
止まった。
鍛冶師「…………」
セイ「?」
鍛冶師「おい、小僧」
セイ「なんだよ」
鍛冶師「その剣――」
鍛冶師「見せろ」
セイ「は?」
鍛冶師「いいから寄越せ」
セイ「なんでだよ」
鍛冶師「…………」
老人は――
セイへ近づくと。
強引に――
剣を奪い取る。
セイ「あっ!」
セイ「おい!」
鍛冶師「…………」
鞘から――
刃を抜く。
老人の表情が――
険しくなる。
鍛冶師「……酷ぇな」
セイ「は?」
鍛冶師「刃こぼれ」
鍛冶師「歪み」
鍛冶師「細かい亀裂まで入ってやがる」
セイ「…………」
鍛冶師「どう使ったら――」
鍛冶師「こんな状態になるんだ」
セイ「狂の時に――」
セイ「随分、乱暴に使ってたからな」
シオン「…………」
セイ「斬れなくなっても――」
セイ「力任せに振り回してたし」
鍛冶師「…………」
鍛冶師「剣が可哀想だ」
セイ「剣に可哀想とかあるの?」
鍛冶師「ある!!」
セイ「…………」
シオン「怒らせるなよ……」
鍛冶師「これは預かる」
セイ「は?」
鍛冶師「研ぎ直す」
セイ「いや、別に――」
鍛冶師「黙れ」
セイ「…………」
鍛冶師「こんなもん見せられて――」
鍛冶師「そのまま返せるか」
セイ「俺の剣なんだけど」
鍛冶師「だからなんだ」
セイ「…………」
シオン「諦めろ」
セイ「なんでお前まで爺さん側なんだよ」
鍛冶師「明日までにはやっといてやる」
セイ「…………」
セイ「勝手な爺さんだな」
鍛冶師「聞こえてるぞ!」
セイ「だから聞こえるように――」
シオン「もう黙れ」
――翌日。
朝。
山には――
薄い霧が。
残っていた。
工房の前。
シオンは――
静かに。
立っている。
その少し離れた場所で――
セイは。
地面に座り込んでいた。
セイ「…………」
シオン「…………」
セイ「先に言っとくけど」
シオン「?」
セイ「俺――」
セイ「手伝わねぇからな」
シオン「…………」
セイ「これは――」
セイ「お前の戦いだろ」
シオン「…………」
シオン「ああ」
セイ「それに――」
セイは。
腰へ――
手を伸ばす。
だが。
そこに――
剣はない。
セイ「俺の剣も――」
セイ「あの爺さんに取られてるし」
シオン「それはお前のせいだろ」
セイ「違う」
シオン「違わない」
セイ「勝手に取ったんだぞ」
シオン「状態悪くしたのはお前だ」
セイ「…………」
シオン「…………」
セイ「まあ――」
セイ「とにかく」
セイ「俺は見てる」
シオン「…………」
セイ「勝てよ」
シオン「…………」
シオン「ああ」
静かな――
山。
風が――
木々を揺らす。
そして。
ザッ――
シオン「…………!」
セイ「…………」
山道から――
足音。
一人の人物が――
ゆっくりと。
工房へ向かって――
歩いてくる。
シオン「…………」
セイ「…………」
その人物は――
二人の前で。
足を止めた。
No.3「…………」
視線が――
まず。
セイへ向く。
No.3「……No.2?」
セイ「…………」
No.3「なんでお前がここにいる?」
セイ「まあ――」
セイ「色々あってな」
No.3「…………」
そして。
No.3の視線が――
シオンへ。
No.3「…………」
シオン「…………」
二人の視線が――
ぶつかる。
シオン「お前が――」
シオン「この工房に《三相》を預けた奴か?」
No.3「そうだけど」
シオン「…………」
なら――
間違いない。
目の前にいる。
この男が――
三枚目。
シオン「…………」
シオンは――
一歩。
前へ出る。
シオン「俺が誰か――」
シオン「分かるか?」
No.3「…………」
No.3は――
シオンを見る。
しばらくして。
No.3「いや」
No.3「知らねぇな」
シオン「…………」
シオン「三年前――」
シオン「アルヴェリアを襲ったのを覚えてるか?」
No.3「アルヴェリア……」
No.3「…………」
僅かに――
考え。
No.3「ああ」
No.3「あの国か」
シオン「俺は――」
シオン「アルヴェリア国王の息子」
シオン「シオン・アルヴェリアだ」
No.3「…………」
シオン「お前たち凶宴を――」
シオン「俺は追ってる」
No.3「…………」
セイ「…………」
しばらく――
沈黙。
そして。
No.3は――
僅かに。
口元を上げた。
No.3「なるほど」
シオン「…………」
No.3「つまり――」
No.3「俺と戦いに来たってことか?」
シオン「ああ」
No.3「…………」
No.3は――
工房を見る。
その奥には。
調整を終えた――
三つの姿を持つ武器。
《三相》。
No.3「いいね」
シオン「…………」
No.3「ちょうど――」
No.3「試したかったところだ」
セイ「…………」
No.3は――
工房へ。
ゆっくりと――
歩き出す。
三枚目――
No.3。
変幻の武器。
《三相》。
そして。
シオン・アルヴェリア。
二人の戦いが――
始まろうとしていた。




