『すべてを失った日』【3】
シオンは窓際へ駆け寄り、王都を見下ろした。
シオン「…………嘘だろ」
そこに広がっていたのは、つい先ほどまで眺めていた景色とはまるで違っていた。
王都の正門。
何百年もの間、幾度となく外敵を退けてきた巨大な城壁。
その一角が――
消えていた。
崩れた、という言葉では足りない。
巨大な何かに抉り取られたように、門も、城壁も、その周囲にあった建物さえ原形を失っている。
辺りには凄まじい土煙が立ち込め、王都中に警鐘が鳴り響いていた。
シオン「第一守備隊は!?」
兵士「正門周辺にいた兵は……ほぼ壊滅したと……」
シオン「たった十三人に……?」
アルヴェリア王国第一守備隊。
王都防衛を担う精鋭たちだ。
並の軍勢なら、正門へ辿り着くことすらできない。
それが――
たった十三人を相手に、壊滅した。
シオン「……何者なんだ」
その時だった。
風が吹き、正門を覆っていた土煙がゆっくりと晴れていく。
その奥に――
人影が見えた。
シオン「……!」
一人。
二人。
三人。
シオンは無意識に、その数を目で追っていた。
四人。
五人。
六人。
まだいる。
七人。
八人。
九人。
十人。
十一人。
十二人。
そして――
十三人。
間違いない。
軍勢などどこにもいない。
魔物を従えているわけでもない。
そこにいるのは、本当に十三人だけだった。
だが――
奇妙だった。
王国へ攻め込んできた者たちとは思えない。
誰一人として急いでいない。
怒号を上げる者もいない。
勝ち誇る者すらいない。
ただ十三人は、破壊された正門を越え――
ゆっくりと王都へ入ってきた。
まるで散歩でもするかのように。
まるで――
この国に、自分たちを止められる者など存在しないと知っているかのように。
シオン「…………」
背筋に冷たいものが走った。
理屈ではない。
王子として学んできた戦術でもない。
生き物としての本能が告げていた。
――あれを、この国に入れてはいけない。
シオン「全軍に通達しろ!」
兵士「はっ!」
シオン「城下の民を王城の反対側から避難させろ! 戦える者は正門へ集結! 魔術師団には防衛結界を最大出力で展開させろ!」
兵士「承知しました!」
兵士が部屋を飛び出していく。
シオンも壁に掛けられた剣を掴んだ。
その時――
十三人のうち、一人が足を止めた。
シオン「……?」
その人物はゆっくりと顔を上げる。
向いている先は――
王城。
あまりにも遠い。
互いの顔など見えるはずもない距離。
それでもシオンは、窓から離れることができなかった。
シオン「…………」
見られている。
なぜか、そう確信した。
やがてその人物は何事もなかったかのように顔を戻し、十二人の後を追って再び歩き始める。
シオンは剣を強く握り締めた。
この時の彼は、まだ知らなかった。
王城を見上げたあの一人と――
再び相まみえる日が来ることを。




