第33話 桃から生まれた《もものん》、鬼退治にいく(なお尻)
「まのん。
……学食のおばちゃんから、何をもらったんだ?」
悠斗が、警戒半分・嫌な予感半分の目で私を見る。
「あぁ、これ?」
私は紙袋を掲げた。
「おばちゃんがね、
町内会で奥多摩の“川へ”遊びに行ってね。
ゲームの景品でこのセットを“選択”したらしいんだけど――
要らないから、くれるって」
『川へ』 『選択』
……嫌な単語が並んだ。
「ご主人のおじちゃんは?」
「それがね。“山へ”勝手に入って、町内会長さんに怒られて、
罰として“芝かり”させられたんだって」
この情報、いる?
『山へ』 『芝かり』
さらに追撃。
「なんでも、ゲームの景品を川に流して、
『流れてきた桃』セット『を持ち帰った』らしいよ」
……役満である。
『流れてきた桃』『を持ち帰った』
「……そのTシャツ、まのんに似合いそうだな(嘘)」
悠斗が、わざとらしく言った。
「そうかしら? じゃあ、ちょっと着てみるね」
その後。
「……ぷっ」
「なんか、“桃から生まれた”もものん”みたいだな」
悠斗は腹を抱えた。
「でも、めちゃくちゃ似合ってるよ! まのん!!
惚れ直すなぁ~♡」
(こんなダサいTシャツも まのんが着ると――
可愛く見えるのは何故だ!?)
景品セットその①
桃から生まれたもものんTシャツ
……この流れ。
絶対、アレだよな?
新しいコント始まるやつやん。
キタのぽん わくわく
「あら、そう?
じゃあ今日一日、これでいこうかしら♡」
悠斗君……
お主も、ワルよのぉ。
石焼ビビンバを食べ終えた、その時だった。
「ちょっと!
まのんちゃん、悠斗君!!」
血相を変えて現れたのは、大学事務の大谷さん。
「オタ研にクレームよ!」
「えっ?」
悠斗が固まる。
「朝からずっと、
部室から鬼みたいな奇声と唸り声が聞こえるって。」
「うるさいし気持ち悪いから、
何とかしてほしいって言われてるの」
「ちょっと見てきて!」
「……男なんだから、悠斗が行ってよ!」
私は即座に振る。
「悪い!俺、教授に呼ばれてる!」
(部室のカレンダー裏に、お札貼ってあったよな……怖)
「まのん!頼む!!」
「ちょ、ちょっと待ってよぉ~!」
(お尻が痛くて動けないんですけど!)
『オタ研へのクレームや。行くしかないやろ』
『……ぽんちゃん、一緒に行くよね?』
こうして私は、
重い腰(正確には痛いお尻)を上げ、部室へ向かった。
桃Tシャツ――“もものん”姿で。
通路ですれ違う学生たちは、
指をさして笑っている。
恐怖と尻の痛みで、私は気づいていなかった。
『ホラー苦手なんだから!
悠斗のヤツ、逃げやがって……!
今朝以上のイタズラ、絶対やる!!』
『また自爆せんとええけどなぁ』
そんな時。
『あっ♡ 守乃ちゃんちゃう!?
あの犬柄カバン、可愛いなぁ♡』
『犬』
(あっ、まのん先輩!
そのTシャツ……なるほど、桃!)
「もものんさん。
どこに行くのですか?」
「あぁ、オタ研の部室で鬼が出るらしくてね。
退治に行くところなの」
「……それなら」
守乃ちゃんは、ちらっと私を見る。
「お昼がまだです。
何かくれるなら、行きます。」
「きびだんごならあるけど?」
景品セットその②
きびだんご
「それでは、ひとつくだされば」
「ありがとう!守乃ちゃん!」
「ところで、その歩き方は?」
「あぁ、ダイエットに効くらしいの(嘘)」
(自爆してケツが痛ぇんだよ!)
さらに。
「もものんさ~ん!どこ行くんですかぁ~」
香純ちゃんが合流。
「部室へ鬼退治よ♪」
「それなら、
そのきびだんごをひとつくだされば♡」
「香純ちゃん、そのサルのキーホルダー可愛いね」
『サル』
そして二階から。
「もものんさん。どこに行くんだね?」
彩夏ちゃん。
「鬼退治よ」
「では、きびだんごをひとつ」
「それ、コスプレ衣装用の生地を買ったの?」
「そう、今週末のね」
『生地』
『……家来、揃ったな』
「さぁ、みんな!
鬼退治に参りますわよ!!」
「ワン!」
「キー!」
「グー、グー!」
『キジの鳴き方、それで合っとる?』
神様でも知らない。キタのぽん
その頃。
(ビビって逃げたくせに……)
悠斗は、こっそり後をつけていた。
(俺、こんなんで守れるのか……)
(……あれ?怖すぎて、尻の痛み感じない)
そして――
部室の前。
ドアの隙間から、
薄暗い光と、なま暖かい風にのって聞こえてくる奇声
「ぬぅおぉぉ!」
「抜かれ!!」
「このゲーむずぅぅぅ!!」
全員、絶叫。
「ぎゃあああ!」「ワン!」「キーッ!」「グー、グー!」
……カオスである。
(……だけど、この声?)
さて。
奇声と唸り声の正体は――
鬼か?
それとも、オタクか?




