第25話 ――お嬢様、降臨(※ただし別人)――
翌日。
悠斗くんのパパとママは、意気揚々と――
まのんの家を訪ねた。
……のだが。
肝心のまのんはというと。
元気いっぱいに、
お菓子とジュースをもらいに出張中である。
運命とは、かくも残酷。
さて。
「……ねえ、パパ。見て。あの車」
「あれは――っ!?
幻の限定モデル、
名車・ボルジョ999!!
希少過ぎて値段が付けられない……」
「パパも欲しがってたのに、
手に入らなかった名車じゃない!!」
――その視線の先。
まのん家の敷地に、
場違いすぎるほどの高級車が鎮座しておった。
『いや……その車、違うんだけどなぁ~』
――まのん(※後日談)
「この村に、ここまでのお金持ちが……」
「でも、お家は意外と質素ね。
“能ある鷹は爪を隠す”ってやつかしら」
「謙虚で、家柄もよさそう……!」
『いやいや。
父親は普通の会社員で、
農家と兼業ですけど』
――まのん(※不在)
勘違いは、
止まらない。
「ごめんくださ~い。
尼砥さんのお宅でしょうか?」
「はい」
――現れたのは、
長い黒髪を揺らす、
清楚で上品な少女だった。
(……まのんちゃんだ♡)
――悠斗パパ&ママ
「突然、すみません。
悠斗の両親です。
いつも息子がお世話になっております」
(ぬぉおお……!!
なんだこの、清楚で可憐で、
スタイルまで完成された超絶美少女は!!)
――悠斗パパ
(WOW……。
あの悠斗には、
もったいなさすぎる大和撫子だわ……)
――悠斗ママ
「申し訳ございません。
ただいま、家の者が全員外出しておりまして」
「よろしければ、お上がりください」
(礼儀も、気遣いも、完璧だ……!)
――悠斗パパ
「今、お茶をお出ししますね。
少々お待ちください」
(きゃあ……
お嬢様オーラが、
抑えきれてない……!)
――悠斗ママ
「お熱いので、お気を付けください」
(所作まで洗練されとる……!
これはもう、
“良妻賢母”の理想像では!?)
――悠斗パパ
(いいわぁ……
こんなお嫁さんなら、
私とも上手くやれそう……)
――悠斗ママ
一時間ほど歓談しても、
少女の評価は限界突破するほど、
上昇するばかり!
――そして。
結局、誰一人帰ってこなかった。
「では、長居してしまい、失礼しました」
「ご両親に、よろしくお伝えください」
「道中、お気を付けくださいませ。
ごきげんよう」
その瞬間。
パパとママは顔を見合わせ――
無言で、深くうなずいた。
「ママ。決まりだね」
「ええ。こんなに素敵なお嬢様、
今まで見たことないわ!」
「服装も、東京のお嬢様以上に洗練されてるし……」
「控えめなネイルに、さりげないリップ……」
「この田舎で、『ごきげんよう』ですって!?
なんて可憐なの!!」
この後、親同士で極秘に許嫁の約束が交わされたのである。
『……この娘。
本当に、まのんか?』
――キタのぽん
『あぁ~。いとこの
舞音ちゃんだよ♪』
――まのん
『これに関しては、私は完全に無罪だからね。
悠斗パパママが、勝手に勘違いしただけだし』
『……確かに』
(言っちゃ悪いが、悠斗パパママ、
ぽんこつちゃうか?)
*あんたもだ。
ちなみに、舞音ちゃん♡は、
まのんと同い年のいとこで隣町在住。
この日、父親と一緒に
たまたま遊びに来ていただけで――
家にいたのは、彼女ひとりだった。
幼い頃は、
酒飲み&ギャンブラーの父親のせいで、
家計は火の車。
……だったが。
宝くじ当選で一発、大逆転。
持ち前の美貌+英才教育により、
県内屈指の名門お嬢様中高一貫校に通う、
正真正銘の――成金お嬢様になった。
……なお。
父親の浪費癖により、
今は……
――。
むしろ……
ギリギリ。
悠斗くんのパパ、ママ……
気の毒にのう。
同じく、
まのんに騙された同士として、
深く同情するぞ。
……だが。
まのんがお嫁さんに来なくなって、
本当によかったな。
まのんがお嫁さんなど――
地獄じゃ。
『あのね。
この件に関して、私は一切関係ないからね。』




