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第22話 ビスチェと手配書

「おいっ!」


 そう叫びながら俺はそちらに背を向ける。


 ルウリィが壁魔法を張ってくれているはずの部屋に戻ると、着替え途中の2人が下着姿で談笑していたのだ。


「あれ、ノイクさん? どうなさったのですかー?」


 ルウリィが、壁の向こうに話すように間延びした声で俺に話しかけてくる。


「どうなさったも何も……壁魔法、張れてないぞ!」


「何おっしゃってるんですか? 張れてますよ。現に、わたしからはノイクさんが見えません。ねえ、フレアさん?」


「うん。なんのために見えるフリなんてしてんの? 見えてるものを見えないフリするならスケベ心だって分かるけど、見えないものを見えるフリするなんて意味のないことだわ」


「本当か……? そっち向いても大丈夫ってことか……?」


「今どちらを向いているのですか?」


 どうやら本当に見えていないらしい。


 たしかに、フレアの言うことはもっともで、2人においても、本当は俺が見えているのに見えないフリする意味はないはずだ。


 そこまでいうなら……と、再度そちらを向く——


「いやいや!」


 ——が、やっぱり着替え途中の二人がそこにいただけだった。


「ノイク、あのねえ……うるさいわよ? 夜中に非常識だわ」


「一番非常識なやつに言われたくないよ!」


「あーもううるさい。本当に見えるっていうなら、あたしが今どんな姿か言ってごらんなさい」


「な、なんでそんなことしなきゃいけないんだよ」


「いいから。あたしが、あんたが変になっちゃったのか判断してあげるわ」


 気は進まないが、とにかく、異変が起きていることを信じてもらう必要はあるだろう。


「…………赤いビスチェ」


「んなっ……か、勝手に見ないでよ!!!!!」






「こほん……つまり、こういうことですか」


 ちゃんと服を着たルウリィがあからめた頬を誤魔化すように咳払いをして、話を続けた。


「ノイクさんは先ほどから、魔法が視認できない、と」


「ああ、そういうことになる……らしい」


 食堂に向かう道中の壁。

 食堂の光魔法での照明。

 炎魔法での調理。

 

 どうやら俺は魔法が見えず、しかし、その結果だけはちゃんと現れるという奇妙な現象に見舞われているらしかった。


「で、わたしの張っている壁魔法が透過して、わたしたちの着替えをみてしまった、と」


「……はい、すみません」


「別にノイクさんが悪いわけではありませんから」


「ああ、ありがとう……!」


 優しいなあ、ルウリィは……と感動していると。


「それで…………どこまでみました?」


 彼女は真っ黒な目で聞いてくる。


「どこまでって……」


「フレアさんだけを見ましたか?」


「いや……」


 …………いや、って否定する必要あったか?


「じゃあ、わたしのことも見たんですね……?」


「見たというか、視界に入ったというか……」


「くっ……!」


 ルウリィは自分の身体を抱く。その仕草がかえってその体を強調する形になり、先ほどの年下とは思えないスタイルが脳裏のうりに甦りそうになり、必死に首を振って振り払う。


 俺の動きから何かを察したらしいルウリィがまた真っ黒な目でぼそっとつぶやく。


「……忘却魔法、試してみようかな」


「それは禁忌きんき魔法だが?」


 "禁忌魔法"。すなわち使ったことが発覚次第、逮捕されてしまう魔法だ。


 姿形を変える"外殻がいかく魔法"や、相手の意識を奪う"催眠さいみん魔法"などもそれに類する。


「冗談です。それにしても、どうしてなんでしょうね。ノイクさんにだけ魔法が見えないというのは……。ちなみに、いつからですか?」


「この町に入ってからだな。他の人には見えてるってことは、魔力値がゼロってことは無関係ではないんだろうけど……もしくは俺だけが気づかないうちに呪いにかけられてる?」


どなたが何のために……?」


「それなんだよな……」


 恨みを買った覚えもないし、俺を攻撃したいにしては、内容が地味すぎる。


「ノイクが考えても分かんないなら分かんないんじゃない?」


 うんうんうなっている俺とルウリィに、フレアがからっと声を掛ける。


「もう寝ましょう? 明日になったら治ってるかもしれないし。そもそも明日にはこの町を出るんだからいいじゃない」


 そういってフレアは真ん中のベッドに腰掛ける。


 まあ、たしかに一理ある。壁魔法が効かないことは気になるが、それがどうせ解決しないならとっとと寝た方がいい。もう深夜なのだ。


「そうするか……」


 俺も自分のベッドに座る。


「え、わたしが一番奥でいいのですか? 通常一番偉い人が一番奥なのですが……」


 ルウリィは戸惑ったように言ってから、


「……ああ、なんだ、そういうことですか」


 なぜか生温かい微笑みを浮かべるのだった。


「フレアさんは、ノイクさんの隣がいいんですね」


「はあ?」と、フレアが半目になる。


「何言ってんの? あたしは真ん中(センター)がいいのよ」


「……寝てる時まで誰に対して目立ちたいんですか?」





 翌日。


 宿屋で支払いを済ませて、リュックを背負う。


「それじゃあ、療法塔りょうほうとうに行くか」


「おー!」


 昨日のことは気になるが、この町を出たら治るかもしれないのだから、ここでとどまっていても仕方ない。


「登山道の入り口までお見送りに行きますよ」


 すると、宿屋の店主に声をかけられる。


「療法塔に行くのかい? 今は少し物騒みたいだから気をつけてね」


「物騒?」


「それ、見てみ」


「ん……?」


 店主が親指で指す壁を見やると、カウンターの脇には。


「手配書……?」


「療法塔の魔法医師が一人、研究資料を持って脱走したんだとさ」


「ええ……」


「へえ、昨日は気が付かなかったわね。お腹空いてたからかしら……って、あれ」


『アムーノ』という名前と似顔絵が描いてるその手配書を見て、フレアが珍しく目を見開く。


「ねえ、ノイク、これ……」


「あ、ああ……」


 俺も思い当たり、リュックから理事長からもらった紹介状を取り出す。


 そこに書かれていた名前は。


『拝啓 アムーノ様』


「この人、あたしたちの尋ね先なんじゃない……!?」


「『お尋ね者』の意味が違うな……」


「ノイクさん、そんなこと言ってる場合です……!?」


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