第18話 焚き火の火種
「お二人はイジュフ山の上に立っている療法塔を目指しているんですよね?」
親父さんからの手紙を読み終えて少し進んだころ、ルウリィが、この旅の目的地を再確認する。
「ああ」
「となると、わたしとユニコーンさんが同行できるのは山の麓の町・ウスプラまでですね……」
「どうして? 一緒に山登りしましょうよ! あんなに高いんだもの、きっと見晴らしもいいわよ」
「そうしたいのはやまやまなのですが……」
「山だけにな」
「ノイクさん?」
「続けてくれ」
「は、はい……」
『ええ……』みたいな目で見てくるルウリィ。なかなか巧いこと言ったはずだが?
「一緒に行きたいのはやま……ええと、行きたい気持ちはとてもあるのですが、ユニコーンさんは登山は出来ないんです。療法塔まで登って降りてくるまでユニコーンさんを他所の町に置いていくのは難しいです」
「ふーん、残念ね。あなたも登りたいわよね? モロコシ」
「「モロコシ……?」」
今度は俺とルウリィが同時に首をかしげる。
「ユニコーンだからモロコシ。名前をつけたの」
コーンのところを強調してフレアが抜け抜けと言う。
「フレアさん、町のユニコーンさんに勝手に名前をつけないでください……。ていうかアティックの人ってダジャレがお好きなんですか……?」
「なんで名前つけちゃだめなの? そもそもどうして今名前ついてないの?」
「ユニコーンさんはプラ……気位が高いので、人間がつけた名前は受け入れてくれませんよ。わたしが提案したものだって首を横に振ったんですから」
今プライドって言いかけてやめたな、ルウリィ。
「ふーん。まあ、あたしは呼ぶけどね。モロコシが嫌がるならすぐにやめるけど、見たところ全然怒ってないじゃない。ねえ、モロコシ?」
ユニコーンは聞こえているはずだが、特になんの反応も示さず実直に歩みを進めている。フレアの言う通り、どうやらOKということらしい。
「うっ……! なんでですか、わたしもつけたい名前あったのに……。ユウグレノベンチとかワタリロウカデコクハクとか……」
ネーミングセンスだいぶ変だな……。なんでそんな文章みたいな名前なんだ。
「ていうか、あたし思うんだけど、どうせ次の町までしか行けないんだったら、わざわざこっちに来てもらわないで、エボで待っててもらったら良かったのかしら。ほら、帰りにピックアップするっていうか」
「だから最初からそう言ってるだろ……。なのに表彰台でフレアが療法塔に連れていくって……」
「ええ、そうよね……。ノイクの言う通りだったわ。ごめんね、許してくれる……?」
「ああ、いいけど……」
珍しく申し訳なさそうなフレアをこれ以上責められない。こういうところで素直になるのって逆にずるくない……?
「でも、」
俺は気を取り直して話を戻す。
「実際、ウスプラまでユニコーンがいてくれるのはかなり助かるよ」
「そうなの?」
「ああ。ウスプラの町までは丸2日かかるんだ。自分で歩かなくてもいいっていうのは相当楽だ。野営をする必要もあるしな。それに、ルウリィもいてくれるし」
「まあ、不本意ながら、宿屋の娘ではありますからね。生活魔法については一通り使えます。とはいえ、フレアさんがいればそこは安心だと思いますけど。なんせ無限大の魔力値です。一晩中直接煌々と光を灯していても魔力切れを起こさないというのですからすごいです……」
「……と思うよな」
「え?」
「まあいいや、夜になればきっと分かる。ルウリィがいかにここにいて役に立つ人間かということが」
そして、夜が訪れる。
今日は大木の脇で野営だ。
「テントが載せられるのも、やっぱり馬車があると助かるよな」
俺はテントを組み立てながらそんなことを言う。
「ふふ、そうですね。こればかりは魔法で作るのは難しいですし、なかなか大荷物ですから。……さあ、これで完成です」
「わー! あたし、テントって初めて! 今夜はここでキャンプってわけね! 交代で見張り番するでしょ? じゃんけんしましょう!」
「なんでそんなに楽しそうなんだよ……」
「見張り番は必要ありませんよ。ユニコーンさんが結界魔法を張ってくれますから」
「モロコシ、あなた、結界が張れるの!? すごいわね!」
フレアが脇に凛と立っているユニコーンに声をかける。ユニコーンはふふん、と澄まし顔で応じる。
「結界というか、結界魔法ですけどね」
「何が違うの?」
フレアはなぜか俺の方を見て言う。
「"結界"っていうのは、魔法を使って作られている『建造物』なんだ。建った後は術師の魔力は関係ない。でも"結界魔法"は違う。防御魔法を、結界みたいにドーム型に展開してるだけだから、術師の魔力にその強度は左右される。いうなれば、"結界"は堅牢な家で、"結界魔法"はそれこそテントって感じだな」
「なるほどね! 勉強になるわね」
「普段から勉強してくれ……」
いや、別にフレアの成績がどうであろうが構わないんだが、こうも毎度説明させられるとな。
「では、さっそく、ユニコーンさん、お願いできますか?」
ユニコーンは頷くと、そこに結界魔法を張ってくれる。
「すごいわ! それにしても、なんで結界っていつもドーム型なのかしら?」
「同じ低面積を包む時、一番表面積が小さいらしい。あとは角張った形にはより強い魔力と能力が必要になるんだ。……よな?」
「ええ。複雑な形にするのと、薄くするのは、かなりの魔法技術と魔力が必要になるんです。それこそテントを結界魔法で作ろうとしたらとっても大変です」
「だからこうやって一生懸命テントを立ててるわけね!」
「ええ。ドームに穴を開けたりするくらいの簡単な加工ならわたしも習ったことはありますが……まあ、あまり意味はないのでやる機会はありませんね」
「へえ、でもすごいじゃない」
「まあ一応、結界士の子供なので……!」
ルウリィは照れくさそうにする。
「いくらお母さんが結界士だっていっても、生まれながらに出来るわけじゃないからな。ルウリィの努力の結果だろ」
「その通りよ! ……ってあれ?」
フレアが首をかしげる。
「ルウリィのお母さんが結界士だって、そんな話したっけ?」
…………おっと、俺としたことが。
「……ねえ、ノイク?」




