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第19話 壁

「ルウリィのお母さんが結界士だって、そんな話したっけ?」


 …………おっと、俺としたことが。


「……ねえ、ノイク?」


 じいっと俺を見つめてくるフレア。


「ノイクさんったら……」


 ルウリィが俺の表情を見て何かを察したのか、少しため息をついてから、


「フレアさんが試合してらっしゃる時に、お話ししたんです」


 と割って入ってくれる。


「わたしが『フレアさんほどの魔法もしっかり封じるここの演武場の結界は、わたしの母が建設したんですよー』って自慢しちゃって」


「なあんだ、そうなの! てっきりあたしが寝てる間に二人が会ったりしてたのかと思っちゃったわ」


「「…………」」


 二人の沈黙と、アイコンタクトののち


「あはは、マサカソンナワケナイジャナイデスカー」


「そうよね! でも、なんかカタコトじゃない?」


「ソンナコトナイデスヨ?」


「そうかしら? まあいいけど!」


 フレアが解放してくれて、ルウリィはほっと胸を撫で下ろす。ありがとうルウリィ……。と感謝をしながらも、俺は相変わらずなんのために隠しているのかよく分からなくもなっていた。


「あのあの、ちなみになんですけど……万が一そうだったとしたら、フレアさんはどうするんですか? 怒るんですか……?」


「怒らないわよ!」


 フレアはなぜか胸を張って続ける。


「でも、寂しいわね!」


「そう、ですか……」


 寂しいわ! ってそんなに快活に言う人いるんだな。逆になんだか申し訳なくなってくる。


「……とにかく、建造物としての"結界"を張るのは高度な技術と資格が必要なんだ。"結界魔法"はそれよりは簡単に張れる。……まあ、俺に出来るわけじゃないし、どっちもすごいことには変わりないんだが」


「ふーん。とにかく、結界と結界魔法は違うし、フクザツな形の結界魔法はすっごく難しいのね。覚えたわ! 旅してると色々勉強になるわね!」


「旅っていうか、普通に授業でやってるわけだが……。その知的好奇心があってどうして授業全然聞いてないんだよ? フレアの知りたいことたくさん教えてくれてるぞ?」


「あのねえ、あたし授業中はノイクの倒し方を考えるのに忙しいのよ」


「なるほど、フレアさんはノイクさんのことで頭がいっぱい、と……」


 ルウリィがジト目でつぶやくと、


「そんなこと言ってないだろ……」「まあ、たしかにそうなのかもしれないわね」


 俺が否定すると同時、フレアが肯定する。


「はあ……はいはい、分かりました分かりました。お子様はテントの中で寝床でも整えてますよ」


「そんなことも言ってない」


 俺の弁解(?)を無視して、ルウリィはテントの中に入ってしまった。


「あ、そうだフレアさん、そこにさきほど組んだまきに火をけていただけますか?」


 テントの中からルウリィが指示をする。


「え? あたしがやっていいの? 任せて!」


「おい、フレア、——」


「さあ、燃えなさい!」


 フレアは俺の制止も聞かずに、例の最強魔法を撃つ。


 ……と。




 ドガァァァァン!!!!




「ちょっとちょっと、すごい音しましたけど!? ……って、大きな穴開いてますけど!?」


 ルウリィがテントから飛び出してくる。


「……これでも途中で止めたんだよ」


 えぐられた地面が直径5メートルくらいの窪みを作っていた。当然、まきも跡形もなく文字通り微塵みじんになってしまっている。


「ええー……何やってるんですか……」


「ごめんねルウリィ、でもルウリィがやっていいっていうから……!」


「はあ…………まあ、かまどってことにしましょうか……。あ、点火はわたしがやりますから、フレアさんは絶対に手を出さないでください」


 ルウリィ、穏やかなフリしてかなり怒ってそうだな……。


「……で、なんでノイクさんはフレアさんと手繋いでるんです?」


「…………誤解だ」






「なるほど。ノイクさんはなぜかフレアさんの魔法を無効化できる。そのために手を握っていた。あと、フレアさんは常に最大出力の魔法を撃つことしか出来なくて、制御が出来ない……と」


 焚き火を囲んで、ルウリィが作ってくれた美味しすぎる料理を食べながら、先ほどの一件について話していた。


「フレアさんはとことん演武(バトル)に特化していらっしゃるのですね……」


「ええ、だから強いわけ!」


「そうなりますか……?」


 ルウリィがしかめっつらを俺に向けるので、


「……そうなるのかもな」


 と答えた。


 実際、評価軸が一つしかないということは『強さ』に直結する。


「ステータスを全てそこに振り分けられるから、どうしてもその軸においては強くなる」


「ステータス? 振り分け? ……ですか?」


「ああ」


 俺たちはステータス振り分けを常に行っている。


 もちろん、先天的なステータス——いわゆる初期ステータスは変更できない。それができるなら俺は真っ先に魔力値を自分に付与している。


 しかし、時間や金といった限られた資源を何に使うか決めるということは、すなわち、後天的にステータス振り分けを行っていると言えるだろう。


 小市民たる俺たちは、ある程度バランスよくそれを振り分けていくが、フレアみたいな一つしか評価軸のない人間の場合は人生のすべてを『魔法演武で勝つ』ということに振り分ける。


「——結果として、他はからっきしでも、魔法演武だけは最強ということになる」


「なるほど……じゃあ、わたしもフレアさんみたいに何かの魔法に特化して鍛えていたら、もっと早くアティックに合格出来たんでしょうか……?」


 と、言ってから自嘲的にふっと笑う。


「なんて、そんなの天才のせる技ですよね。わたしみたいな凡人には到底無理な話です」


「……どうだろうな」


 そんなことを言えてしまう——自分を凡人だと断じてしまえるところが、彼女や俺が乗り越えないといけない一番高い壁だったりするのかもしれないが。






「このままいけば、今夜にはふもとの町・ウスプラにつけそうですね」


「そうか、良かった……」


 野営を終えた翌日のお昼過ぎ、俺たちは谷底の道を進んでいた。左右には切り立った崖。


「にしても、ここに落石とかきたら一発アウトだな」


 崖の上では、今にも落ちてきそうな大岩たいがんが俺たちを見下ろしていた。


「そうなったらわたしかユニコーンさんが防御魔法で防ぐのでご安心ください」


「あたしたち、最強のパーティね! この感じなら夜といわず、夕方には着いちゃうんじゃないかしら」


 勝ったなガハハ!と笑うフレアを見て、なんとなく不安になる。そういうことを言って成功した試しがないんだよな……。


 と思った途端、馬車が急停止して、俺たちは進行方向につんのめる。


「ユニコーンさん、どうしましたか?」


 馬車から降りると、俺とルウリィが同時に苦笑いをする。


「はあ、フレアが無駄に強気なこと言うから……」


「まあ、そんなに順調にはいかないかもですね……!」


 案の定、目の前に立ちはだかったトラブルを見やる。



「何? あのでかいの」


 俺たちの視線の先には。




「……ボムスライムです。衝撃を当てると爆発する厄介な魔物です」


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