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SideB レイド戦の礼儀って大事だと思います09

 以下の会話は夕飯前の共会荘きょうかいそう、その食堂でのワンシーン……ということをご理解した上で聞いて欲しい。色々突っ込みどころ満載な面子あふれるこの状況を順に説明していきたい。


「つまり……暗躍するエージェント集団ということですね!」


 はい、今発言されたはじめましてのお嬢さん。違います。俺たち……特に俺に関してはそのような秘密組織とはもっとも程遠い平穏無事な人生を望む一般人です。


「ゆ、裕子ゆうこちゃん、違うから。この人たちは私と同じアパートに住む住人の方々です。あ、ちなみにあっちが私の兄様です」


 そういってどこか誇らしげに兄である力也を紹介するのは飛鳥ちゃん。いやほんと誇らしげだな。あまり突っ込まないようにはしていたがもしかしてブラコンの……?


「ふふ、妹君の学友の前で柄にもなく照れてますの? り・き・や・さん?」

「我のどこが照れているというのだ、零華よ」


 ほんと子供たちがいないと冷たい……いや、いても冷たいか。志亜さんのところに子供たちを預けている解放感からか、少々声色が高いお嬢様ボイス……零華な。んでその横でむすっとした表情のまま腕を組み押し黙っている力也。


「ねえねえ十字さん。エージェントって何ですか? 巡回騎兵クルーラーの暗部みたいなものです?」


 俺の横に座る零華のお子様たちに負けない幼女……レディの有栖。睨むなって、悪かったよ。あと巡回騎兵クルーラーって暗部とかあるの? 怖い。


「俺たちはただ命の危機に瀕した君を救おうとするただの人族ヒューマンレイスだ」


トントンッ


『この世界で人族ヒューマンレイスと言ってわかるか馬鹿が。あと私はそんなんじゃない』


 不機嫌そうにホワイトボードで机を小突く少しお疲れ気味の女性、摩子さん。んでその横で決め顔で少しずれたこと言ってたのが響。ほんと仲悪いのに今思えば毎度隣に座ってるなこの二人。


「あー、今回の黒い画像の騒動には俺たちも少し思うところがあって調べててな。宗太君が亡くなってもう一週間は経とうというのに中々進展がなくってさ。そんなところに飛鳥ちゃんからよかったら力になれないかって連絡をもらって……ええっと……黒川さんだっけ?」


 たぶん一番この中で常識的な対応した自信あるぞ俺。でも残念なのは……ニューカマーのお嬢さん、黒川裕子くろかわゆうこさんもまた少し常識からは遠い存在だった。


「なるほど……秘密組織にそうですかと聞いてはいそうですなんて返事、ありえませんよね。そこは触れずに行きましょう」


 どちらかというとその辺白黒はっきりというか身の潔白を証明してから進めたいんだけど? この事件後の関係性がいびつにならぬよう?


 そんな俺の苦労する横で秘密組織と呼ばれ少し目を輝かせ鼻を鳴らしてる有栖さん。やっぱお子様だわ、うん。


「とりあえず、"あれ"をみんなに見せてあげてよ裕子ちゃん」

「ええ、そうですね」


 苦笑いを浮かべた飛鳥ちゃんに促され、黒川さんはスマホを取り出し、操作したのち俺たちが囲むテーブルの上に画像が映るスマホを置いた。


 スマホは最初スリープしているのかと思ったがそうじゃない。真っ黒な画像……そしてそこにクレヨンででも書きなぐったような歪な楕円。いや……なるほど……。


「これが"卵”か」


 俺のつぶやきに先の事件のときにいなかった零華や摩子さん、響の表情が険しさを帯びる。はは、力也もどこか戦闘時のような表情だ。かくいう俺の顔もそうなのだろう。


「宗ちゃんが亡くなる前の日にこの画像、私も見せてもらってたんだ……。まさかこれが原因かもしれないなんて飛鳥ちゃんに聞いたときはびっくりしたよ」


 そういってテーブルの上に置いた自身のスマホをどこか慎重に手に取る黒川さん。手に落とした視線はどこかもの悲しい。


「この画像が宗ちゃんを殺したのなら私は犯人を知りたい……そして宗ちゃんでも消せなかったこの忌々しい画像を……この世からDeleteデリートしてやる」


 力のこもった宣言にもとれる声とともに彼女の頬に涙が一筋。随分と感情がこもっているがもしかすると愛称を使っているようだし……。


 俺が確認するようにそっと飛鳥ちゃんに目配せする。彼女はもらい泣きをこらえんと必死に笑顔を浮かべ黒川さんを慰める。そして視線を黒川さんに向けたまま……小さく頷いた。


 亡くなった有賀宗太ありがそうたは同じく飛鳥ちゃんの友人である篠田結衣しのだゆいから相談を受け黒い画像を"受け取り"、クロエラにより殺された。パソコン関係に詳しかったということもあり彼は善意で引き受けたのに……それで亡くなったというのだからあまりにも不憫すぎる。


「なあ黒川さん、悲しみに暮れているところすまないが教えてほしい。この画像はどうやって手に入れたんだ? というかその口ぶりだと君はこの画像がどういった意味を持つのか薄々知ったうえでこの画像を手に入れたんだよな?」


 目元をぬぐい、黒川さんは大きく首を縦に振る。


「同じクラスの子が騒いでて、事情を聴いたら身に覚えのない黒い画像があるって……だから宗ちゃんがそうしたように、画像をSNSで送ってもらったの。そしたら"彼女"のスマホからは画像が消えて……」

「おいおい、それはあまりにも危険だろ!?」


 俺の遮るような問いに刹那、ビクンと体を震わせたように見えたが黒川さんはまっすぐと俺へと視線を向ける。


「飛鳥ちゃんと結衣ちゃんの話は私も聞いてた。飛鳥ちゃんは勘違いだって謝ってたみたいだけど……なんだかその時の飛鳥ちゃんの仕草が不自然で……何かを隠してるみたいに見えて」

「え、それじゃ……私のせいで裕子ちゃんはこの画像を……?」

「そ、そうじゃないよ。これは私が自分で決めたこと! 宗ちゃんを殺した犯人につながる手がかりかもって思って」


 飛鳥ちゃんがどこか思いつめたように黒川さんの肩に手を伸ばそうとするが、その頭にポンと大きな手がかぶさる。


「気にするな飛鳥よ。いや、むしろよく彼女を連れてきてくれた」

「に、兄様なんでそんなことを……」

「不安ならその画像、いや、不安なら画像の入ったスマホごと夜が来る前に我が引き受ける。そうすれば"やつ"も餌を見つけれず逃げかえる。それだけの話だ」

「え……あ……」


 黒川さんに聞こえぬようそっと飛鳥ちゃんの耳元で囁く。そうだな、そんな命の危険につながるもの、彼女に持たせたままじゃいけない。ほんとたまにかっこいいなこいつ。


「宗ちゃんから相談を受けてあの晩、私も黒い画像の形をとったマルウェアなんてあるのかなって調べてた。もちろんそんな手口の情報は出てこなかったし、宗ちゃんもあの日はお手上げって感じだった。学校の課題も出てたしまた明日学校で直接相談するねって。あの晩は画像については諦めて他の話をしながら一緒に学校の課題を考えてた。はは、結局雑談ばかりはずんじゃって夜遅くまでかかっちゃて」

「ま、まったまった。え? あの晩黒川さんは彼の家に一緒にいたの!?」


 こんな事件じゃなかったら大人としてそういうのはもっと大人になってからとツッコミを入れてただろうが、彼女はふるふると首を横に振った。


「あの夜、宗ちゃんとはずっとパソコンを使って通話してたもん。だから、あれは単にカラスの異常発生なんてものじゃないって……私知ってる」

「それ初耳だよ! 裕子ちゃん!」

「通話してたって……まさか彼が亡くなった時もか?」


 飛鳥ちゃんが驚きの声を上げるなか、まさかと思い尋ねたが……彼女は再度首を縦に振った。いつでも人とつながれるネット技術だが……ときとして残酷だな。


「宗ちゃんは……窓にだれか小石を投げつけてくる悪戯でもしてるのかなって言って……そのあとガラスが割れる音と宗ちゃんの悲鳴が聞こえて……ノイズのようなバサバサって音が聞こえて……助けてって……助けてって何度も……うぅ、ひどいよ……こんなのって」


 あの時の記憶を思い出し悲嘆に暮れる黒川さん。その背に手を添え励ます飛鳥ちゃん。それを見る俺をはじめとした共会荘の住人たち。わかるぞお前ら……これは……駄目だよな。


 すっと音もなく立ち上がり、小さく呼吸をする。


「今晩動けそうなのは何人いる?」


 ぽつりと顔をうつむけたままの囁くような呟き。無意識な行動にその台詞が俺の声なのか"俺の中"の声なのか……この際どうでもいい。


「わ、私は付き合いますよ! 十字さん!」


 俺の服の袖をぎゅっと握り、俺の顔を覗き込むように見上げる有栖。その背後からぴしゃりと手にした扇子を閉じる音が聞こえた。


「夜更かしは美容の敵ですが……そうも言ってられませんわよね」

「返事などもとより決まっている」


 零華は遠くを見るような視線で誰にあてるでもなくぼやく。その横で少し表情を和らげた力也が俺へと視線を向け小さくうなずく。


「まさかお前に先陣を切らせるとはな。ふふっ、無論俺も付き合うぞ、十字」


 頼もしい返事とともに響がほほ笑む。その横で小さくあくびをしながら摩子さんがテーブルに手にしていたホワイトボードを投げ捨てだらんと椅子にもたれかかる。


『バイト先のフェアで今日は客の入りが多かったのに散々だ。目にもの見せてやる』


 テーブルの上に投げ捨てられたホワイトボード。いつもと違いどこか怒りに震えた手つきで書かれたような文字。


「裕子ちゃん、大丈夫だよ。きっとこの人たちが守ってくれるから」


 俺たちの様子にあっけにとられ棒立ち状態だった黒川さんのそばに駆け寄る飛鳥ちゃん。亡くなった彼氏のために無理やり自分を奮い立たせていたのかもしれない。飛鳥ちゃんに支えられ泣き崩れる彼女が本来の彼女だ。


「今晩迎え撃つぞ。俺たちが餌じゃないってことを鳥どもに教えてやる」


 俺の宣戦布告ともとれる台詞にその場にいた皆が小さく頷いた。

拙作をお読みいただきありがとうございました^^

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