SideB レイド戦の礼儀って大事だと思います03
以下の会話は日を跨いだ深夜のコンビニ、その勤務上がり前のワンシーン……ということをご理解した上で聞いて欲しい。先に言っておくと無駄に長いしどうでもいいくだりだと思う。
「先輩先輩」
「なんだ?」
「二十歳ぐらいの女性がもらって嬉しいものって……なんすかね」
「知らん、他を当たれ。それより今日は商品が多いから黙ってさっさと陳列業務に集中しろ」
「せ、先輩そう言わずに相談に乗ってくださいよ~。こんな心苦しいままじゃつらくて商品にも手が伸びないっす」
「そこは死ぬ気で手を伸ばせ」
「あ、よかったら以前一緒にいた彼女さんに聞いてみてくださいよ」
「待て山崎、俺に彼女なんていないぞ」
「え? 以前いたあのお嬢さん先輩の彼女さんじゃないんすか?」
「違う違う」
「え、じゃあ……幼女誘拐とその犯人……いてっ!?」
「名誉棄損罪でお前には懲役商品棚五列陳列刑を言い渡す。しっかりやれよ。じゃないと七辻にお前のないことないこと、あと……ないことを言うぞ」
「それ百パーセント嘘ってことじゃないっすか!? あ、あとなんでそこで七辻さんの名前が出るんすか」
「ああ、そういや以前七辻がバイト代で買いたいものを教えてくれたな」
「先輩、ちょっとその辺詳しく?」
「バイトを時間通りで終えれたら帰るときにでも教えてやれる余裕が出るかもしれん」
「絶対っすよ!? ほんと絶対っすよ!? 今日は自分それを支えに本気出しますからね?」
なるほど、"七辻"という呪文はバフ効果があるようだな……おもに山崎限定で。その後覚醒した山崎は過去一番の機敏さを見せ、商品の陳列を終わらせた。うん、便利な呪文だし今度また使おう。
「それで、七辻さんって今何が欲しいんすかね?」
シフト交代の店員が来てレジ裏の事務所スペースで着替えていると山崎が目を輝かせて俺を見てくる。まあなんだかんだ商品が多いのにこいつの頑張りで無事シフト内で仕事も終わったしな。
「七辻がパソコンでイラストや絵を描くのが趣味なのは知ってるか?」
「もちろんっす! その辺はぬかりないっすよ」
先ほどまで七辻に好意を寄せているのを隠す素振りがあったはずだが、切り替え早いなこいつ。
「最近彼女が使ってたペンタブとやらが調子が悪いらしく買い替えを考えてるみたいだ」
「ペンタブ……それが彼女の閉ざされた心を開く鍵……ってことっすね!?」
「お前心閉ざされてんの? まあ、最後まで聞け。彼女は次はペンタブを買うか絵を描ける高性能のタブレットを買うか迷っているらしい」
「ふむふむ、それで七辻さんはどっちを買う予定なんすか?」
「そこまではわからない。だが、聞けばいいんじゃないか? たまたま俺から聞いたとでもいえば話す口実にもなるだろう」
「なるほどっ! さすが先輩、仕事だけじゃなく恋まで自分の先を言ってるっすね!」
「恋というか単なるコミュニケーションだろ」
「今度聞いてみるっす。先輩マジ感謝!」
拝むように顔の前で手を合わせぺこりと頭を下げる山崎。意気揚々とバイトの制服から私服へと着替え店を出ていこうとするが、ふと何かを思い出したのか事務所のドアの前で俺のほうへと振り返る。
「そういえば先輩? 今朝の事件聞きました?」
「ん? なんかあったのか?」
「知らないんすか? あの相手にしたくない客ランキング一位の中年オヤジの武藤が亡くなったみたいっすよ」
「は? 死んだ? てかなんでそれをお前が知ってるんだ? 今朝だとまだ新聞のおくやみ欄にも乗らないだろうしお前そもそも新聞とか読まないだろ?」
山崎が言った武藤という男性はこの店の常連客だが、正直バイトの身としてはあまり来てほしくないタイプの客だ。とにかく威圧的でコンビニ店員を見下している態度が見え見えだ。面倒なことにこのコンビニから歩いて数分のところに家があるらしく、しばしばやってきては問題を起こしている。
そういや昔七辻もあの客のクレームで困ってて、ちょうど前のシフトで残ってた俺が代わりに対応してやったっけかな。山崎が絡まれてる時は……そっと邪魔をしないよう外の掃除とかに行く気遣い。
「言ったでしょ、事件っすよ事件。なんでもあいつ、自宅にいるときにカラスの群れに襲われて亡くなったらしいっす」
「なんだそれ? ホラー映画でもないし、ありえないだろ」
「でもあいつが死体で見つかった時、ちょうど自分も通り道なんであいつの家の前を通ったんすけど、黒い鳥の羽がそこら中に落ちてたっすから嘘じゃなさそうっすよ」
「まじか。でも……もしかしてだけどそれってカラスの羽を誰かがまき散らしてその上でカラスの犯行に見せかけて殺したとか?」
「先輩もそう思います? 実は自分……見ちゃったんですよねぇ」
山崎は口元に手を当て、たいして意味はないであろう意味深に深刻な表情を浮かべる。
「あのオヤジが亡くなる前日の早朝なんすけど、その日は夜勤明けで早朝に帰ったんす。そのときいたんですよ……武藤の家の前でおかしな紙切れをポストに突っ込んでいる……黒いレインコートで姿を隠した不審者がね!」
「どうせ新聞配達とかいうオチじゃないのか?」
「いやそれがね、そいつは自分に気づくとすぐに逃げるように走っていったんすけど、ポストを見たらまるで焼け焦げたような真っ黒な紙が入ってたんすよ」
「真っ黒な紙?」
なんだろう、嫌な予感がした。どうやら適当と怠惰がよく似合う男第一位の山崎だが嘘はついてなさそうだ。それに……。
「その紙にはなんか書かれてたのか?」
「さ、さすがにひとんちのポスト勝手に漁れないっすからよくはわかんないっすけど」
「けど?」
「まるで白いクレヨンで描いたような不思議な絵の一部みたいのが見えましたね」
そこまで聞いて俺はスマホを手に外へと出る。山崎はぽかんとしていたがそれどころじゃない、急いで有栖の番号にかける。すでに深夜だがそうも言ってられない。とにかく言いようのない不安がふつふつと湧き上がってくるんだ。
「ふぁ~い、なんですか~こんな時間に?」
どうやら寝ていたところを起こしてしまったみたいだ。眠たげで間延びした声が聞こえてくる。
「すまん有栖。それよりも、急いで教えて欲しいことがある」
「なんです~? 明日じゃダメなんですか? てかもう日を跨いでるじゃないですか」
「マジですまん。だが教えてくれ、"希源種"で黒い紙に描かれた絵にまつわる奴はいないか?」
「え?」
しばらくの沈黙。だがやがて電話の向こうでごそごそという音が聞こえる。
「何かあったんですか十字さん?」
どうやら緊急事態ということを察してくれたようだ。有栖に先ほど山崎に聞いた内容、そして……バイト前に飛鳥ちゃんからきいた真っ黒な背景に書かれた奇妙な白い絵の話を伝えた。
「それって……"クロエラ"の特徴そのものですよ!?」
「クロエラ?」
「はい、"憎悪に巣食う鳥"として辺境の村で猛威を振るったとされる希源種です。黒い紙に書かれた不思議な絵、その紙の所有者が次々に黒い鳥の群れに襲われて亡くなったとされています」
「"鳥"なんだな?」
「え、ええ。記録ではまるでカラスのような漆黒の翼を持った鳥の姿が確認されています」
「くそっ! 俺も今からそっちへ戻る。悪いが飛鳥ちゃんを起こしておいてくれないか。彼女の友達が危ないかもしれない」
「わ、わかりました!」
スマホをしまい、俺は急いで共会荘へと向かい走り出す。本当に……バイトのある前は絶対にもう希源種と関わるのはごめんだとトライドのときに愚痴った結果がこれかよ! 仕事前がだめなら仕事後って、そういうことじゃねぇからな希源種ども!
拙作をお読みいただきありがとうございました^^




