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SideB テンプレ嫌いの組織ども12

 さて、今の俺には三つの選択肢がある。


 一つ目、相手の誘いに乗り俺も戦いに参加する。まあ、一番かっこいいんだがたぶんあの動きについていけそうにないし一番情けない最期を迎えそうだ。なので……却下!


 二つ目、敵の挑発に乗らず一旦下がる……ふりをしてもう一回こそこそと迂回してあの燃えた小屋あたりに移動する。一番かっこ悪いかもだが一番俺らしいので……一旦保留。


 三つ目、まあ折衷案というわけではないが相手にかまをかけて本体の場所を聞き出し、そのまま響と印野さんにお任せ。一応ちょっとはかっこいいとこ見せれる……かもしれないけど失敗したらものすごく場の空気が冷えそう。うーん、これも保留。


「どうした門番重兵ガドナー? その武器は飾りか」

「飾りって言うな、あと武器じゃない、工具だ。どこからどう見てもバールだろこれ」

「バール?」


 ふ、モノを知らない奴め……と多少見下した目を向けておいたがあまり挑発してヘイトがこっち向いたら嫌だしすぐさま表情を引き締める。オッケー、もうこの流れだと三つ目の選択肢、プランCだ。


「おまえこそ、その体は飾りなんだろう? なあ? トライド」

「……そうだな。私はあの時確かにあの男に……"ルーカス"によって討たれたはずだ」

「ルーカス? 誰それ俺知らない」


 あれ、プランCは脱線ルート? なんか管理人さん、もとい、シーア以外になんか因縁じみたやつがいるのか? 俺が知らぬ男の名前に頭に疑問符を並べていると有栖がなんか横で驚いているご様子。


「ルーカスさんが……あなたを倒したというんですか?」

「なんだ聞かされてはいないのか? ふふ、あの男らしいといえばそうか」

「どうして彼が……そういえばあの会議で三組織で協力して討伐に向かわせようと提案したのも彼。まさかあの時すでに何かをつかんで……」


 あー、有栖が珍しく難しい顔をしてぶつぶつと一人考察している。これじゃあ聞くに聞けないな。


「おい十字……」

「ん? あ、はい、なんです印野さん?」


 トライドから距離を取り、俺のそばまで下がってきた印野さんがちょいちょいとまた俺に耳を貸せと合図する。


「前に"ライトライト"を最もうまく使う人族ヒューマンレイスの話をしただろう」

「ああ、そういえば言ってましたね」

「それが奴が口にしたルーカスという男だ。まあ、あいつを純粋に人族ヒューマンレイスと呼んでいいかは謎だが、それでも戒律等兵プライアの第一位に君臨した手練れだ」

「ええ!? 第一位って……めちゃめちゃ強キャラなんでしょたしか?」

「ああ、人族ヒューマンレイスの国セントガルドでも間違いなく五本の指に入る実力者だ」


 それほどの男ならまああの化け物みたいなトライドも軽くあしらえたのかもしれない。だが……俺にそんな力はない! なので……。


「印野さん、俺が思うに、奴のあの体はかりそめの体。いくら攻撃してもおそらく意味がないのだと思います」

「ふむ、そうだな。奴が不死身ではないという割にはまるでダメージを負っている様子がない。別に本体か、あるいはそれに準じる何かがありそうだ」

「俺が思うに、あの燃えた小屋の中に何か見られたくない何かがあるんじゃないかと思います。それが嫌で俺たちが来たのを察知し、あの小屋を燃やしたんじゃないかと」

「なるほど……だが、燃やされたのならもうそこには奴にとっての望ましくないものはもうないんじゃないのか?」

「む……そういえば」


 たしかに見られてまずいものも燃やされたら終わりだ。というかそれができるならそもそも俺たちが来るのを待たずに燃やすなり隠すなりするはずだ。


 俺だけでなく印野さんまでも胸の前で腕を組み、頭を悩ませ始める。一人でダメなら二人で……という精神。


「おい摩子、何を呆けている。まだ戦闘中だぞ」

五月蠅うるさい。今考え中だ、そっちは一人で何とかしてろ」


 目を向けることもなくぴしゃりと響に言い放ち、引き続きシンキングタイム。響もきょとんとした様子でそのままトライドへと向き直り武器を構える。許せ、響。


「十字さん? 何してるんですか、摩子さんまで一緒になって」

「今あいつの本体とやらとあの小屋が燃えた理由を考えてるんだ。お前もルーカスとやらの件が片付いたなら知恵を貸せ」

「ふむふむ……任せて下さい。こう見えて結構博識なんですから!」


 俺と印野さんに続き有栖も頭をこつんこつんと小突きながら目を閉じ熟考の構え。三人そろえばなんとやら……の精神。


「おいお前たち何をしている。相変わらず私を前にふざけた連中だな」

「ちょっと真面目に考えてるんで邪魔しないでくれます?」


 放置プレイ気味のトライドさんも何やらいたくご立腹のようだが、それ以上の苛立ちに満ちた口調で応える有栖。その今までにない冷たい反応にトライドまでもどこか気後れした様子で響へと手にした極大剣グレートソードとご自慢のしっぽを向ける。


 ほんと考えてるときはちょっと黙っててほしい。そっちにはイケメンの響もいるしよろしくやっといてくれよ。あ、できれば武器の衝突音もやかましいからお静かにどうぞ。


「おい摩子! 十字! それに有栖まで、どうしたというんだ?」

「そうだぞ貴様ら。それだけ人数がいてなにを押し黙っている」


 さっきから全然考えがまとまらない……それもこれも横槍よろしく何度も邪魔してくるやつがいるからだな。俺と印野さん、そして有栖がこくりと互いの顔を見てうなずき、歯ぎしりを立てる。

 

「おい、お前たち!」


 今のが響とトライドの二人の台詞。んで次のがその他の三人からの台詞な?


「うるさいっ!」


 響とトライドの体が今日一番の驚きに震えた。


「ほんとお前ら少しは静かにできんのか? 今そこのトライドの討伐方法について考えてんだろうが! 少しはブンブン剣振り回すだけじゃなくて頭動かせ頭!」

「そうだぞ、ややこしい術式だか能力だか知らないがその対処を考えるほうの身にもなれ馬鹿が! あと響、お前図書館以外でも静かにするってことを知らないのか? 今はもう夜だぞ? わかってるのか? あ?」

「そうですよっ! というか不死身じゃないとか言っておいて全然死なないじゃないですかあなた! なんなんです? なんなんですか? まったく、志亜さんといいルーカスさんといい、報連相って言葉わかってます?」


 響は若干引き気味なほどに委縮してそのまま固まっている。トライドの尻尾もなんだかテンション下がったのかぺたりと地面についている。手にした剣共々な。


「あー、なんだその、すまない」

「あ、ああ、そんなに考え込んでいたとは」

「ほんと詫びとかいいからもうおとなしく元の世界に帰れよ。あるいはさっさと本体とやらの場所を教えろ」

「……そうだな、先ほどお前が示した三種の紋章のおかげであの小屋の中にあった私の本体も三本になっていただろう。ちょうどあの小屋を焼き払った炎で焼かれたことだし、今なら本体である私の剣だけ残っているはずだぞ? それを砕けば私は死ぬ」

「お前そんな言い訳で俺が許すとでも……はい?」


 思わぬ言い訳というかカミングアウトに俺サイドの三名が今度は固まる。


「なんだ? せっかく私の殺し方を教えてやったのにその態度は」

「い、いや、そういうのってふつう隠しておくもんじゃないのか?」

「そうだな、この世界にきてすぐの私ならそうしただろう。だが、"存在"が安定したのか徐々に以前の世界のことを思い出すにつれ、この世界に私がいる理由がないとわかったのさ」

「この世界にいる理由?」


 背後から両手でしっかりと俺の腰をつかみ、有栖がにょきっと顔だけ出す。うん、いまさらながらちょっとテンションおかしくなってたけどあいつは敵で命のやり取りしてたんだよな。怖いよな。でも俺を盾にするのをデフォにするのやめような。


「お前たちも知っているだろう。元の世界で私が巡回騎兵クルーラー門番重兵ガドナー、そして戒律等兵プライアを襲っていたことを」

「ええ、正気の沙汰とは思えませんでしたよ。まとめて三つの組織に喧嘩を売るような真似をして」

「ふふ、先に私たち家族に喧嘩を売ったのはそちらなのだが、知らないのだろうな、聖女とはいえあの事件は」

「どういうことですか? まさか……私たち組織の中に何か不正を働きあなたたちの家族に危害を加えたものが」

「……そういうことだ。もっとも、その後事件は闇のまま片付けられたのだろう。あの男……ルーカスによってな」

「うぅ……そんな。それじゃああなたたちはそもそも加害者じゃなく……」


 細かい事情は知らないが、察するに本来"正義"を掲げた国の組織の中に腐った連中がいたのだろう。そして、これまた俺の想像だがおそらくトライド、いや、トゥーレを含め家族はその不正に気付いた。そして……そのせいで殺された。


「もとは復讐のために始めた襲撃だが、ルーカスに諭されたよ。私がやっていたことはただの法に背くだけの蛮行。私は……獣だと」


 トライドはゆっくりとした足取りで今なお激しく燃え盛る小屋の中へと入っていった。しばらくして戻ってくると先ほどまでの極大剣グレートソードはなく、新たに双刃剣ダブルソードを手に戻ってきた。だが、手にしたその剣はずいぶんと古びており、以前手にしていたそれとは明らかに異なる。


「これが私の"信念"だったもの。だが、この世界には私が知るどの組織も存在しない。いや、そもそも争いがないのだろう。それらしき人物に仕掛けてはいたが、まともに戦いになった奴はいない」

「それはそうだろう。この世界には人族ヒューマンレイスしか存在しない。異なる種族がいないのだ、小さないさかいぐらいはあっても、命を奪い合うような争いなど起きるはずはない」


 印野さんが剣をおろし、俺の横に並ぶように立つとどこか哀れんだ目でトライドを見つめる。


「お前はこの戦いを始める際に化け物として死んでしまいたいと言っていた。この世界に居場所などないとも言った。過去に何があったか詳しくは知らないが……今のお前には生きようという気概を感じない」

「私はすでにあの男により倒された身だ。おめおめと生きながらえてはあの男に申し訳が立たない。あの時の奴の態度は淡々としていたが、その顔はひどく辛そうだったからな」


 自殺、とまではいわないが奴があっさりと俺たちに自身の弱点を晒した理由にも納得だ。気が付けば全く異なる世界にいて、人として生きることもできず、そして……生きる目的であった復讐とやらもなく。


 俺はなおも俺の背に隠れる有栖を肘でつつき、肩から掛けた鞄に視線を向ける。俺の意図を今回は間違えることなく察してくれたようで、鞄から古びたペンを取り出し俺の手に握らせた。


「おいトライド」

「なんだ?」

「もし元の世界に帰る気があるなら、俺に任せてくれないか? もっとも、元の世界に帰らせるというだけで生き返らせれるわけじゃあない。それでいいなら俺の"リターン"で……セブンスフィールドに帰してやる」


 手にした"ディペン"の先を向けた先、トライドは手にした自身の双刃剣ダブルソードを見下ろしている。


「元の世界に帰れるのか……」

「あ、ああ。これはさすがに冗談でも嘘でもないから、敵に言うのもあれだが信じてほしい」

「……そうか、ならば帰してもらおう。父と兄が眠るあの世界に」

「お、おう。じゃあ早速……」

「まあ待て、門番重兵ガドナー


 トライドはすっと俺の動きを手で静止し、傍らにいる印野さん。そしてグレイブを手に様子を見る響を交互に見やる。


「この世界に未練などない。この命に未練があるわけでもない。ただ、許されるならあの時のように剣士のような死を迎えたい……間違っても元の世界でまた暴れることのないように、お前たちは"化け物"を殺せ」


 兜に包まれたトライドの顔が再度俺へとむけられる。そこにあの少女の顔が重なる。そんな呆けていた俺の横からトライドへと向けられた刀身。印野さんからはこの場についてから感じていた狂気はなく、どこか戦場の女神を彷彿とさせる凛々しい横顔だけがそこにあった。


「そうだ……元の世界に変えるのは私の亡骸だけでいい。なあ、天魔族ダークレイス、そして天人族セインレイスの剣士よ」


 響も再度グレイブを両手で持ち、トゥーレが構えた剣、双刃剣ダブルソードへとその切っ先を向ける。印野さんも剣を構え、響とともにトライドとの距離をゆっくりと詰めていく。


「マグナだ。今からお前を殺す者の名くらい覚えておけ」

「同じく、ベルーゼだ」

「ふふ、私の最後の我がままに付き合ってくれて感謝するぞ」

「やられたままで勝手に逝かれるのがしゃくなだけだ」

「もとはお前も人族ヒューマンレイスだった存在だ……あまり好きな矜持ではないが、それでも今は天人族セインレイスとしてお前を導こう」


 それがトライドの……いや、トゥーレの望みなら"リターン"の出番はまだだ。この戦いの後でいい。俺は邪魔をしないよう有栖と下がろうと横を振り向くが有栖はすでに離れていたのか遥か俺の背後に……違う、俺が有栖から離れて前に?


「じゅ、十字さんも参加する気ですか!? あ、あぶないですよ?」

「い、いやそんなつもりは……あ、あれぇ?」


 なぜか手にしたバールのようなものを握る拳の力が収まらない。なぜか今なら俺でも戦えるのではないかという気がする。そしてそれ以上に、ただ黙ってみているだけではいけないという強い意志がふつふつと湧き上がる。


《二回もやられたままじゃ悔しいだろ……"僕"も》


 一度目は駐車場……いや、どこか知らない街の中。二度目はあの中華飯店で……いや、ここではないどこかしらない山の中で……。


「はは……しょうがない。付き合ってやるよ、"お二人さん"」


 俺の眼前でどこか嬉々とした雰囲気のトライドと、俺の内から響くどこかお気楽な男の声に俺までつられて口元が緩む。柄じゃないが、今はこの高揚感あふれる戦いに身を投じるとしよう。

拙作をお読みいただきありがとうございました^^

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