金色の咆哮! 獣の影が襲い来る!! 4-B
モリー曰く、「紋章入りの鎧を無くした兵士は只の犯罪者」だそうだ。
「帝国騎士」クラスはともかく、一般兵の大半は帝国領で職にあぶれたゴロツキや軽犯罪者、出稼ぎの地方農民だそうだ。
彼らは年単位で派兵としてこの旧ルードレット領に来ることで、賃金を貰い、刑罰があるものは恩赦を貰う。
かといってメリットばかりではなく、色々な制約の元で働かなくてはいけないらしい。
そのひとつが帝国紋章が刻印された鎧の管理。
壊したり無くしたりすると罰金及び刑罰が科せられてしまう。
鎧が彼らの身分証明であり免罪符にもなっているのだ。
鎧の紛失は比較的重罪として扱われるとのこと。
悪用されることも多いからだ。
奪った鎧を本人に高値で売りつけるくらいは可愛いもの。
脅迫の材料に使って色々とグレーゾーンな行いを見て見ぬふりをさせることもできてしまう。
もしも紋章入りの鎧が反抗勢力に渡れば、潜入諜報をやり易くしてしまう可能性だってある。
なので鎧を奪ってやれば、彼らは部隊へと帰らずにさっさと行方をくらます。
そのままどこかのスラムへと姿を隠したり、距離はあるものの帝国領まで帰りつければ身分を偽り再度一般兵として何食わぬ顔で仕事にありつくことさえできる。
「だから鎧を無くしたヤツは真面目に報告しに戻ったりしないのよ。これでこいつらは行方不明になってリリィのしたことは闇に葬られるって寸法よ」
モリーが気絶したままの帝国兵から鎧をはぎ取りながら教えてくれた。
「鎧も武器も闇市場でお金になるからね。中には帝国領とルードレット領を往復して鎧を貰っては売りさばく小悪党もいるらしいわよ」
……帝国の管理体制って結構ザルなのね。
それだけ手広く徴兵してるってことなのかしら。
「……よし収穫完了っと。私たちもこの場を離れましょ」
「モリーも随分と手馴れてるみたい?」
「帝国兵はまともに相手せずお金だけ落としてもらえば十分よ。あとはさっさとトンズラってね」
2人は御者台に飛び乗ると、気持ち早足で馬を走らせ、その場を立ち去るのであった。
……。
…………。
そんな騒ぎから数時間後。
そろそろ日も傾き、空の色が橙から紫へと変わった頃。
「そろそろ野営かしらね。リリィもお腹空いたでしょ?」
こくこくと頷く私を見て、モリーは手綱を引いて街道から少し逸れる方向へと馬車を向け、大きな岩石がごろごろしている岩場へと停車する。
「今日はここで休みましょうか。まずは簡単なものだけど夕ご飯にしましょ」
石を並べた簡易的な炉を作り火を起こすと、鉄鍋に水と干し肉、刻んだ根菜を入れると固形の調味料を溶かしつつ煮立たせスープを作り出すモリー。
すごい手際の良さにびっくり。
私も調理は得意だが、こんな短時間で準備できないなーとモリーの作業を見ながら大きく伸びをする。
流石に半日近い馬車移動はあちこちの関節にコリを生む。
伸びついでにそのまま前屈、後屈と柔軟運動をし、こわばった関節を解してゆく。
ふと。
後屈した180°逆転の視界に二対の光るものを確認した。
何かしら?
身体を起こして確認しようと振り返った時には、目の前に飛び掛かってくる影!
早い……っっ!!
ほぼ勘ではあったが身体を仰け反らせ、ブリッジをすることで躱す。
先ほどまで私の頭があった位置を突き刺すように何かが通り過ぎる。
両足蹴りだ!
咄嗟にブリッジからのヘッドスプリングで逆立ちするように伸び上がり、揃えた両足を影に向かって突き出す。
しかし、その返しの逆立ち蹴りを防ぐでもなく、避けるでもなく、両手で受け止めると共にその蹴りの勢いを利用し、さらに高く飛び上がると間合いを離して着地する。
「何奴!!」
誰何の声を挙げる私を、「え?」と振り返ったモリーがその襲撃者を見て硬直する。
「シャアアアァァァァッッ!!」
肉食獣のような叫びを発したその影は、私と変わらぬ背格好の少女であった。
しかし決定的に違う部分もある。
焚火明かりで艶光る金の体毛に目玉のような黒い斑点模様を浮かばせたその身体。
大きな眼窩から爛々と光る琥珀色の瞳孔がひたとこちらを見すえる。
それはまさに猫科の大型獣、豹のそれであった。
◇◇◇
次回!
傷つき疲れ果てた小さな身体。
それでも尚その高き誇りは色褪せていなかった。
襲撃するは豹毛の女戦士。相対するは龍鉄拳がその拳。
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