ナナとカオリ3
厄妖の攻撃を全てはじき返して、お互いに膠着状態になった間。後ろからいてはいけない人の声がした。
「ようやく会えた」
『着物の少女』を探している武がそこにいた。
オレの意識が後ろに向けられた瞬間を厄妖は見逃さなかった。
触手が襲い掛かってくる。
慌てて武の方へ飛んで襟を掴み、近くの柱の陰に隠れてから武を放る。
掴みっぱなしだと症状が出るからな。
そのあと陽動のために広間を高速で飛び回ってから武の元へ戻った。
厄妖もオレのことを見失ったみたいで見当違いのところを攻撃しているから少しは時間を稼げるだろう。
「馬鹿野郎。お前は自分が危険な場所にわざわざ向かっているって分からねぇのか」
いつの間にか柱の陰にいて、探していた人に怒鳴られたせいか武は呆けていたが、説教の内容に反省したのかしゅんとした様子で
「ごめん。君に会えたことが嬉しくてつい」
ついじゃねえよ。普通の女子ならその顔で謝られたら落ちるだろうがオレには効果なしだ。さらに怒鳴りたくなる気持ちを抑え、冷静にオレは話す。
「あの化け物は前にお前を襲ったやつよりも危険なんだ。今お前と長々と話している暇はないから皆のところに行くぞ」
「待ってくれ!」
こいつは自分の恐怖症のこと忘れているんじゃなかろうか。移動しようとしたオレに縋りつくように向かってきたので回避した。避けられると思ってなかったのだろう、武は勢いよく転んだ。
「うわっ」
「なにやってんだ」
「君と二人で話したいんだ」
「だから今はそんな暇ないって言ってるだろ」
「皆のところに行った後、また君と会えるか?」
「……」
「どうにかして会えないだろうか」
この顔は適当にはぐらかそうとしても無駄だな。ここで言い合ってこいつを危険な目に遭わせるわけにはいかないか。
「はぁ……わかったよ」
ため息をつきながらオレはそう言った。女と会うのにそんなに顔輝かせやがって。
「お前の友達に連絡するから、待ってろよ」
「そうか。ありがとう」
「わかったなら避難するぞ」
「すまないな」
「謝るならそもそも言うなっての」
さて、面倒な約束を取り付けてしまったが今はそんなことより武をここから安全なところに移動して厄妖を倒さないと。
『ナナ』
『カオリ……何かあったの?』
『一人逃げ遅れたやつがいてそっちに送りたいんだが』
『避難が終わったからすぐ向かうわ』
『場所は……二階の服屋の前の柱だ。オレはやつの相手をしてくる』
『了解』
委員長と連絡をとってから武にここで待つように伝えた。
「俺なんかが言うのもあれだけど、気を付けてな」
「ああ」
武の言葉に頷いてオレは厄妖の元へ飛び出した。
オレに体の一部を切り抜かれたのがそんなに腹立たしいのか、オレのことを見つけた途端一斉に攻撃が飛んできた。
怒りのせいか物量は多くても軌道自体は単調だ。
避けてもいいのだが今のオレは機嫌が悪い。
たくさんの人が傷つけられたというのもあるがまた武を危険な目に遭わせるところだったのだ。
「オラァ!」
全力の一振り
飛ぶ斬撃は襲ってきた触手ごと切り伏せて本体へと向かい縦一閃。
厄妖を切り裂いた。
そして厄妖は息絶えたのか黒い塵になって消えた。
結局こいつはでかいだけで大して強くなかったか。人がたくさんいるショッピングモール内に現れたから全力で攻撃できないで手間取ったのだから。
穴の開いた天井を見上げると結界が消えたのか青い空が少し見えたが、すぐに何事もなかったように塞がった。
これだけ人がいる中で厄妖と戦ったのだ。倒してはい終わりというわけにはいかない。
壊れたショッピングモールは結界が消えたことで元通りだが人はそういうわけではないため、怪我を治してから厄妖の存在で起こる混乱を避けるためにほとんどの人の記憶を消した。
その作業はできないので後から来た二人と委員長で必死にやっていた。人数が人数だからな。氷の壁で人を囲って記憶を消す作業は正義の魔法少女とは言い難かったが。
ほとんどの人ということで消されなかった人がいる。武だ。
記憶を消して会う約束も、そもそも最初からカオリとして会ったことすらなかったことにしてもいいのだが、それでも消さないのは恐怖症のあいつがお礼を言いたいとはいえ女子に興味を持つのは珍しいと思ったからだ。武一人くらいなら厄妖について知っていても混乱は起きないだろうしな。
武とは後で会うってことにしたのでオレは立ち会わずにナナ達が説明してくれた。あんなこと言ってすぐに会うのはなんかな。
全ての作業が終わったときには夕方になっていた。
「お疲れ様。カオリ」
「お疲れ、ナナ。本当に疲れたよ」
「……こんなに人がいる中で現れるのは初めて。後処理疲れた」
「カオリも記憶処理の魔法が使えたらよかったんだけどな」
「戦うことしかできなくて悪いな」
「戦力になってくれるだけでも十分助かってるわよ。今回の妖魔はいくら強くないとは言ってもあの場所であの大きさだもの。私たちが大技を使ってたら避難した人も巻き込んでしまってたから倒すのにもっと時間がかかってたわ」
「そう言ってもらえるだけで助かるよ」
静永さんが気になることを言ってたな
「こういうところで妖魔が出るのは初めてなのか?」
「そうね。多くても十人くらいだったかしら。突然人ごみの中に現れるなんてなかったわ」
「……これが何かの予兆じゃなければいいけど」
今までにないことが起きればそう考えるのも無理はないけどな。
「ラナ、不吉なことを言うんじゃないよ」
「ふむ、ラナの言う通りこれから妖魔の動きがさらに活発になってくるのかもしれない。他にもこのような事例が起きているか他の妖精にも聞いてみよう」
他の妖精ってことはこの街以外の魔法少女か。妖精の世界からっていうからこの街だけじゃなくて世界中にいるって聞いたけど、改めて思うとよくそんな危ない存在の中今まで生きてきたな。
「カオリ」
「どうした?」
「せっかくのお買い物だったのに台無しになっちゃったわね」
「それは仕方ないさ。あそこに突然出てきたのは予想外だしな。また今度行けばいい」
「そうね」
委員長との買い物は厄妖のせいで大変な日になってしまったが、それまでも十分楽しかったしまた行ける機会はあるだろう。薫っていう事実を隠したままなのは騙しているようであまり気分はよくないが。いずれこのことも話すときがきてしまうのだろうか。
「……カオリ、暗い顔してる」
「ああ、そんな顔してたか」
「……私たちに黙って二人きりでの買い物がそんなにつまらなかったの?」
「そうですよ、私たちを置いて二人きりで行くなんて。今度は私たちも誘ってください」
「黙ってたのは悪かったわよ。今度は四人で行きましょうね。ところでカオリ……本当はやっぱりつまらなかった?」
「考え事してただけでつまらなかったとかではないよ」
委員長の言葉をオレは即座に否定した。戸惑うことは多かったがつまらなかったわけではないから。
そしてオレたちは少しの雑談を経てから解散した。
そうだな。こういう問題はうだうだ悩んだって仕方ない。とりあえず今は目先の問題、武にカオリとして会うってことだ。




