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ドア

綾曰く、教室の前方、黒板の横にはドアがあり、そこから次の部屋へと進めるみたいだった。私は綾に案内されるままにそのドアの前まで来ていた。

「唯ちゃん。開けるね」

綾は期待に胸を膨らませた声で私に確認を取った。

ドアの前には更なる恐怖が潜んでいるのだろう。

……正直行きたくないわ。

でも、さっき『あの程度全然怖くなかったので、間に合っています』と言ってしまった以上、抵抗は出来ない。抵抗なんてすれば綾が時速70(キロメートル)程のお姉さん風を吹かせながら、私の頭を撫でてきそうだ。綾とは同い年なのよ。そんなの私の羞恥心が耐えられるはずないわ。

だから、私は羞恥心を守るために「ええっ」と返すしかなかった。

綾がドアノブを回し、ドアを開ける。

止めネジの緩んだ蝶番が暴れる音が不吉に響く。そして、私の前に闇に包まれた得体の知れない空間が現れた。

私はそんな闇に光を差すべく、「どうなっているのかしら?」と投げかけた。

綾はつまらなそうに淡々と答えた。

「普通の教室だよ。席の数は今いた教室と同じく12席で、他の要素も今の教室と同じみたい」

綾の声には期待外れだという思いが全面的に出ていた。

同感ね。まったくその通りだわ。期待外れよ……本当良かったわ。

綾はそんなパッと見何のギミックも用意されていない教室に足を踏み入れた。特に何も起きない。踏み入れた瞬間に何か起こるようなギミックはないみたいだ。私は安心して、綾に続こうとした。

「唯ちゃん。ここもドアのところに段差あるから気を付けてね……」

綾はそんな私に警告した。ほんとにおせっかいだわ。仕方がないので、また段差を確実にまたげるような大きめの一歩で中へと入った。

私が教室の中へ入ると、すぐ後ろでバンッと言う乱暴な音が響いた。

私の声帯が勝手に「わぁっ」という声を出し、肩が勝手に竦んだ。そんな私を見て綾がクスクスという笑い声をあげた。

私は「何かあったかしら」と圧を掛けるような鋭い声で問いかけた。

綾は私の意図に従って「何にもないよ」と返した。でも、抑えきれずに笑い声が漏れ出ていた。

ほんの少し、ほんの少しだけ取り乱しただけなのに、笑うほどの事なのかしら。私はそう言う不信感を抱いた。綾に何か言い返してやりたい気持ちになった。でも、今回は揶揄うためにわざと笑っているわけではなかった。何故か純粋にツボに入って抜け出せなくなっているみたいだった。それを責めるのは可哀そうよ。慈悲深く大人な私は、綾の笑い声を聞かなかったことにして許してあげることにした。

そして、私は取り乱してなどいなかったと綾に言い聞かせる様に、平然とした口調で「綾、そう言えばさっき後ろで何か音がしなかったかしら?」と聞いた。

綾の笑い声が少し大きくなった。流石にこれはわざとらしかったかしら。

でも、綾はそんな笑い声を抑えて、呼吸を整えながら「したよ。ドアの閉まる音だよ」と返した。

予想通りだった。

勝手に閉まるドア。お化け屋敷やホラー映画が嫌いな私でも何故か知っているほどの定番ギミック。

「へ~」

私は恐怖なんて一切感じていないと言外に示す様に希薄な反応を返した。そして、綾に気づかれないようにそっと後ろに左腕を回し、ドアへと手を伸ばした。

手には所々ペンキの禿げた木材特有のザラザラした感触が伝わってくる。ドアの上を左手に這わせてドアノブを探す。冷ッとしたものに手が触れ、声を上げそうになる。でも、これ以上綾に笑われるのは我慢ならないので、声を何とか抑える。これがきっとドアノブだ。手で掴んで確認する。ツルツルの質感。円筒形の持ち手。間違えないよくある金属製のドアノブだ。

私は綾にバレないようにそっとドアノブを回して開こうとした。

「どう?開きそう?」

綾がそう聞いて来た。綾にはバレていた。

「開かないわ」

私はそう答えてから、「退路を確保しておくのは大事だからね。それで調べていただけよ」と付け足しておいた。綾は「そうだね。退路は大事だね。でも、確保できないなら、先に進むしかないよね」とうっきうきで言う。本当に綾は楽しそうだ。いや、それ以上に危機感と言うものが感じられないわ。一部の例外を除いて常に落ち着いている綾の性格は、幼馴染として心配になってくる。

そんな私の気遣いも知れず、綾は「先に行こう」と言って歩き出す。私はそれに続いて歩き出す。

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