第七十三話:裏新宿・忍法チェイス
新宿都庁前の広場で、八犬士たちが武田・上杉連合軍と激しい戦いを繰り広げている、その直下。入り組んだ路地裏やビルの間を、三つの影が常人離れした速度で疾走していた。
「―――見つけたぞ、誘拐犯め!」
九曜衆の一人、自来也妃花が、ビルの壁を駆け下りながら、先を行く二人の忍びの背中に向けてクナイを投擲する。彼女こそ、伊賀の中でも随一の追跡能力を持つ「足」のスペシャリストだ。
「ちっ、流石は伊賀の忍び、優秀だな」
玲奈を小脇に抱えながら走る霧隠才蔵の子孫、霧隠才霞が舌打ちする。だが、彼女に焦りの色はない。
「だがな、嬢ちゃん!忍びの戦は、単独とは限らんぞ!」
その言葉を証明するように、全くあらぬ方向から、数本のクナイが自来也妃花の死角を突いて飛来する。
「ちっ!仲間か!」
妃花は空中で身を翻し、飛来したクナイを全て弾き落とす。その着地地点に、まるで猿のように軽やかな身のこなしで、もう一人のくノ一が姿を現した。
「―――『忍法・猿飛の術』!猿飛佐助が末裔、活発で可愛らしいツインテール、フリルたっぷりのエプロンドレスがチャームポイント猿飛佐沙見参!あたいとの追いかけっこで、勝てると思わないでよね!」
「二人掛かりとは、卑怯なり!」
「問答無用!」
佐沙が再びクナイを放つ。だが、妃花はもはやそれを避けない。
「―――『忍法・召喚の術』!来たれ、我が僕、大蝦蟇蛙!」
妃花の足元に巨大な魔法陣が展開し、そこから軽自動車ほどの大きさもある、巨大な蝦蟇蛙が出現する。蝦蟇蛙は、その巨体に似合わぬ俊敏さで跳躍し、妃花を背中に乗せて再び追跡を開始した。
「やるな!おい、霧隠、連携だ!」
「うるさい、猿飛!指示をするな!」
二人の真田忍者が仲間割れを始めた、その隙を突いて、蝦蟇蛙が大きく跳躍し、一気に距離を詰める。
「む…!?視界が…!」
霧隠霞が最後の抵抗とばかりに、周囲に濃霧を発生させる。
「―――『忍法・霧隠五里霧中』!」
視界が遮られる中、ビルの谷間を縦横無尽に疾走する、三人のくノ一と一匹の蝦蟇蛙。激しいチェイスと忍法の応酬は、新宿の街に物理的な被害をもたらし始めた。派手な看板が砕け散り、電線が切れ、ゴミ箱が吹っ飛び、駐車中の高級車が無残に凹んでいく。
その様子を、ミッドナイト基地のモニターで見ていた健太が悲鳴を上げた。
「まずいぞ!結界も張ってないのに、こんな派手な忍術を使ったら、一般人に犠牲者が出る!」
「今は事態を止めることが最重要だ!」
モニターを睨む服部夜刃の声は、苦渋に満ちていた。
「玲奈殿を、場所も分からぬ敵の本拠地へ連れて行かれたら、その時点で我々の負けだ!」
新宿の夜を切り裂く、三人の忍びの死闘。果たして、妃花は玲奈を救い出すことができるのか。それとも、全ては八咫烏の描いた筋書き通りに進んでしまうのか。戦いの行方は、誰にも分からなかった。




