第七十二話:八犬士と武田上杉連合
伊賀九曜衆が闇夜に散った直後、健太の絶叫がミッドナイト基地に響き渡った。
「目撃者情報含めて、追跡していた九曜衆の石川五愛萌ちゃんからだ!敵は新宿の都庁方面へ向かっている!」
「新宿…!」
そこは【仁】の宝玉を守護する、犬江さくらの拠点。敵は、あえて八犬士の本拠地の一つを、次なる舞台に選んだのだ。
「私のホームとはいい度胸じゃない!」桜親がニヤリと笑う。コンカフェでは見せない顔だ。
「行くぞ!」
ユウマと、霊力を振り絞った八犬士たちが、すぐさま新宿へと向かう。
だが、都庁前の広大な広場にたどり着いた彼らを待っていたのは、誘拐犯の姿ではなかった。
「―――待ちかねたぞ、八犬士」
そこに布陣していたのは、武田の赤備えを彷彿とさせる「風林火山」と、毘沙門天の旗を掲げる「龍神毘沙門天」。
甲斐の虎・武田嵐花と、越後の龍・上杉聖流が、それぞれの配下を率いて、八犬士たちの行く手を完全に塞いでいた。
「愚かなり、八犬士!」
武田嵐花が、嘲笑うように言い放つ。
「力の効率化を図り、その源を一人に集約したが故に、それが奪われた今、貴様らは致命傷を負ったも同然よ!」
「お前たち、何を知っている!?玲奈をどうするつもりだ!」
興奮するユウマに、今度は上杉聖流が冷徹な視線を向ける。
「お主の『共鳴』という戦術は、確かに革命的であった。だが、一点に集約した力は、一点を突かれれば崩れるという脆さも孕んでいたということよ。
今日この時、我らが貴様ら八犬士を打ち破り、がら空きとなった東京魔法陣を破壊して、三種の神器に辿り着いてみせるわ……!」
「…!」
星荘と桜親筆頭に、八犬士が即座に武器を構える。
その言葉は、彼らの行動が全て、玲奈の誘拐と連動した計画であることを示していた。
(間違いない…!こいつらの裏にも、やっぱり八咫烏がいる!)
ユウマは確信する。だが、玲奈を追うためには、目の前の二つの軍勢を無視することはできない。
その、絶望的な状況下で、ユウマの耳元に、影のように寄り添った服部夜刃が囁いた。
「―――お前たちは、ここで決戦に耐えよ」
「服部さん…でも、玲奈が!」
「玲奈殿の救出は、我ら九曜衆にお任せあれ。追跡は、既に始まっている。忍びの戦場は、我らが御庭番が引き受けた」
夜刃の言葉に、ユウマは奥歯を噛み締める。分担するしかない。今、自分たちが成すべきことは、信じて、ここで目の前の敵を叩くこと。
「…分かった」
ユウマは、覚悟を決めた目で、武田と上杉の軍勢を見据えた。
「嵐花さん、聖流さん。あんたたちの相手は、俺たちだ」
八犬士は、玲奈を欠いた絶望的な状況で、かつて敵対した二大勢力を同時に相手取るという、最大の試練に直面する。それぞれの向き合うべき敵との、決戦の火蓋が切られた。




