聖竜
「お久しぶりです、ストック殿下」
「十年ぶり、だな」
──絶対、あなたを迎えにいく。だから……。
一瞬だけ、過去のことがよぎり、首を振る。過去は、過去だ。
「もしかして、殿下のお知り合いですか?」
アーノルドの問いに、ストック殿下はため息をついた。
「知り合いもなにも、隣国ソレクルの侯爵令嬢だ。お前は元々が平民だから、仕方ないとはいえ、あれほど、隣国の貴族くらいは頭に入れておけといったのに」
「じゃあ、こちらのお嬢さ……じゃなかった、お嬢様は、隣国の方なんですか! ……困ったことになりましたね」
深刻そうな顔をしているアーノルドに、ストックも頷く。
「ああ。だが、聖竜ユークリッドが自ら守り手に選んだのなら、仕方ない」
だから、守り手って何なんだろう?
深刻そうな二人の会話に私だけがついていけてない。トカゲは相変わらず無邪気に尻尾を振っていた。
「あの」
「すまない。あなたを置き去りにするつもりはなかったんだが……」
ストック殿下は、困ったなと首を振りながらも、事情を説明してくれた。
「落ち着いて聞いてほしい。まず、貴女の横にいるのは、竜だ。正確に言えば聖竜だ。名前をユークリッドと言う」
「え!?」
思わず、トカゲ……ではなく、ユークリッドを二度見する。
ユークリッドは、得意げに鳴いた。
「竜とは、貴国ドラグーナの王陛下たるあの、竜、でしょうか……?」
震える声で尋ねると、ストック殿下は神妙に頷いた。
「間違いない。ユークリッドはまだ子供だが」
え、えぇ! 確かに竜に見えなくもない、なんて、思っていたけれど、本当に竜だったなんて。大人になれば、角が生えて、もっと大きくなるのだろうか。
「あなたが混乱するのも無理はないと思う。成竜と子竜では、見た目がかなり違うからな」
思わずこくこくと頷くと、ストックは少し笑った。
「それで、ここからが本題なのだが。あなたには、聖竜に善悪を教える〈聖竜の守り手〉になってほしい」
善悪を教える……?
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