ドラグーナ城
「〈聖竜の守り手〉?」
何のことだろう……?
思わず首を傾げると、男性は大きく頷いた。
「そうです。……っと、時間だ。事情を説明する前に、あなたを王城に案内します」
魔物の森のはずなのに、それから魔物に会うことはなかった。
……トカゲが怖いのかしら?
先ほどの魔物の様子を思い出しながら、考えているうちに、一気に森を抜けた。
「聖竜、ここから城までの道はわかるな?」
「キャーウ!」
トカゲはまるで言葉がわかるかのように、頷く。
――すると、一陣の風が吹いた。
その激しさに思わず目を閉じる。
そして、再び目を開けると……。
「え?」
そこは先ほどまでの森ではなかった。
磨き上げられた天井、ふかふかの絨毯、煌めくシャンデリア……。
「城の中……ということは、転移魔法」
転移魔法は、かなり高度な魔法だ。
それを動物が使えるだなんて、聞いたことがないわ。
私が呆然としているうちに、男性はトカゲと共にすたすたと歩いて行ってしまう。
「待ってください!」
このままでは、はぐれてしまうわ……!
慌てて息を切らしながら追いかけると、男性が振り返った。
「すみません。いつも周りが男ばかりなもので、気遣いが足りませんでした。……速かったですね」
今度は私に合わせてゆっくりと歩いてくれる。
「ありがとうございます」
「いいえ。……つきました」
大きな扉の前だ。
扉の前には衛兵が立っている。
男性が衛兵に取次ぎを頼むと、すぐに扉は開けられた。
「……アーノルドか。聖竜ユークリッドは捕まえたか?」
扉の中は執務室らしく、美しい青年が書類から目線も上げずに尋ねる。
――どこかで見覚えが……。
記憶を手繰り、はっとする。
彼は、隣国ドラグーナの第一王子だ。
隣国ドラグーナは、人の王と竜の王。王が二人いる。
「それが……実は、――まして」
「聞こえない。お前は、都合が悪いと、口ごもる癖をやめろ」
アーノルドと呼ばれた男性は、気まずそうに視線を動かす。
そして、観念したようにため息をついた。
「実は、〈聖竜の守り手〉が現れました!!」
「……は?」
そこでようやく、第一王子は顔をあげた。
「待て……予定では、ナンシー公爵令嬢が翌月より務めるはずでは」
「聖竜が! 舐めてしまったんです!! このお嬢さんの頬を!!」
びしっとアーノルドが、トカゲを指さす。
「キャウ!」
トカゲは、どこか誇らしそうな顔で鳴いた。
「……聖竜自ら守り手を選んだだと? そんな例は……ないわけでもないが、まさか、そんな」
王子はそこで初めて、私を見た。
「……リリカ嬢?」
――懐かしい、青の瞳が、私を映した。
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