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65/454

62 鬼軍曹になります

◆◇Sight:三人称◇◆


 要人を地球に送り届けた次の日の朝。

 鈴咲 涼姫は、スワローテイルのワンルームで、朝食にハムエッグを食べながら考えていた。


「この間送った転居のハガキ、お義母さんと、お義姉ちゃんに届いたかなあ」


 届いてはいた。だが、涼姫に興味のない二人は読まずにゴミ箱に投入した。


「あ! ・・・・そうだ・・・お父さんの口座にまだ入金してたんだよね。引っ越しのゴタゴタで見つからなくなっちゃったし。振り込むの止めてってフーリに言わないと」


 そこでスマホが震えた。アリスからだ。


 昨日は無事を確認するメールが大量に送られて来ていたが、今日は一緒にやる配信を催促するものだった。


 アリスは、なんとしても涼姫本人を触って無事を確認したいらしい。


 涼姫が『学校で会えるじゃん』と返すと『今日は撮影で学校に行けないんです!』との事だった。


「なるほどそれは学校じゃ会えない」


 涼姫はマスタードに辛子を混ぜて、それをハムエッグに掛けるというあまり見ない食べ物を錬成して口に運ぶ。




 数日後の話だ。


 涼姫の元義母、佐里華は涼姫の父親の遺産で買ったマンションで、青ざめていた。


 涼姫の父の残した通帳の様子が可怪しいのだ。


 近くに居た娘に、震えながら告げる。


「折姫、ど、どうしよう!」

「何? どうしたのお母さん」

「今月の分が振り込まれてないのよ、この通帳」

「え。そんな・・・・嘘」

「借金してお店建てちゃったのに、このお金が無いと借金が返せないかも!!」

「ど、どうするの・・・?」

「わ、わかんない。なんで急に止まったの!?」

「お店の様子はどうなの?」

「あんまり芳しく無くて・・・・」

「ほんとにどうするの、お母さん!!」


 二人の足元に何か崩壊の音が近づいていた。




 ◆◇Sight:3人称◇◆




 放課後、スワローさんのワンルームで、私はアリスにネオジム磁石みたいにくっつかれていた。

 まだ配信は始めていない。


「すごくすごく心配したんです。涼姫が衛星軌道に隠れてるのは知ってましたけど――お昼にスマホでゲートの開通式を見ていたら、急にフーリが現れてビックリして。それで、まさかと思ってスウチャンネルを見たら、涼姫が世界中の要人を連れて、ケルベロスなんていう新種と戦ってるじゃないですか! しかも、ケルベロスっていうのが厄介極まりなくて・・・ほんとにもう、怖くて・・・・怖くて」

「・・・し、心配掛けて、ごめん」


 私は、アリスの必死な様子に平謝り。


「やっぱりわたしも学校なんか行かずに、涼姫と一緒に宇宙にいればよかったって」

「それは・・・」

「で、わたしも急いでハイレーンに飛びましたけど、全然間に合わなくて・・・・」

「え、学校は!?」

「当然、早退しましたよ!!」

「――いやいやいや、駄目だって!」


 アリスが頬を膨らます。


「わたしが学校にいない事なんてしょっちゅうじゃないですか。涼姫のピンチの方がずっと大事です――でも、全然間に合わなくてごめんなさい・・・」

「いや、アリスが謝ることじゃないよ・・・!」

「というわけで、後で昨日の授業の分教えて下さいね」

「それは、うん」


 アリスの磁力がさらに強まって、私の腕を抱いてくる。

 近い近い近い!


「そうだ。一緒に、この前の配信を観ませんか?」

「う、うん。あの――顔が近いです」

「この感触を今、わたしは実感したいんです」

「感触て。で――でも・・・こんなに近いと、ハビタブルゾーンが」

「なんですか、ハビタブルゾーンって」


 息も掛かりそうな距離で、太陽風がヤバイ。体温という熱がヤバイ。


「陽キャは太陽で――いや、説明したら鬱になるから止めよ?」

「良くわからないですけど、じゃあアーカイブを開きますね」

「り、りょ」


 そうして出てきた画面で、私は脳神経が絡まるかと思うほど混乱をきたした。


「な、5千万回再生――!? 一日で―――!?」

「みたいですね」

「こんな事ありえるの!?」

「政治関連の再生回数としてはトップクラスの記録ですね、最高は一日で1億回再生らしいですが。しかし各国の大統領を戦闘機に乗せて、大立ち回りを繰り広げたんですからこの位は行くでしょうね。世界中からコメントが来てますよ」


 私はスマホをスクロールさせる。


「よ、読めない」

「わたしも無理ですね、翻訳機能がありますし使いましょう」


 私は翻訳ボタンを押しながら、読んでいく。


❝彼女は、今地球上で最も有名な女性の一人です❞

❝このストリームは、本当にムービーのように衝撃的な出来事だ。我々は現実にムービーに出てくるような英雄の誕生を目撃している❞

❝これがたった16歳の少女によって成された偉業だと、我々は認識しないといけない。だがそれは、非常に難しい問題だ❞

❝彼女がこの時代に生まれたことが、今を生きる我々にとっての最大の福音なのかもしれない❞

❝モデレイター(音子):スウたん、ハースーハースー❞


「あれ? おかしいな。最後のコメントが、日本語に翻訳できない」

「ですね」

「アリス、最後の宇宙語を削除しといて」

「はい」


 アリスが私と腕を組んだまま、スマホを操作する。


(にしても・・・・あのアリスさん、控えめだけど柔らかいのが当たっております)


「ア、アリスさん。そろそろ腕を離しませんか?」


 アリスが私を無視して、さらに驚愕の事実を教えてくる。


「そういえば配信時も、同時視聴数が300万人だったんですよ」

「無視なn――そ、そんなに!?」

「政治関連で最高の同時視聴数は、800万人ですからね。少ないくらいでしょう」

「世界怖い」

「チャンネル登録者数も1000万人に届こうかという感じです」

「急に伸び過ぎ!」

「スウの名前は、地球ではもうすっかり世界に知れ渡りましたね」

「この前まで、クラスメイトも私の名前間違ってたのに・・・」

「もう、クラスメイトに名前を間違われる事はないでしょう」

「それはそうだけど。――そもそも、スウって呼ばれるんですよ」

「あはは、有名人の悩みですねえ。にしても国際的に人気のある100万人の登録者の人が年間1億以上稼ぐと言いますから、単純計算なら、涼姫は月間1億近く稼ぐかも知れません」


 ホントニ?? マジデ??


「いや、でも・・・・流石に」

「政治系チャンネルは人気とかではなく情報のために登録されるのですが、涼姫は人気で登録されています。そこに1000万人のファンが居る、この場合の儲けは非常に恐ろしいことになります。このパターンの場合年間10億以上稼ぐ人もいる」

「これ本当に私のチャンネル? いや、アリスと私のチャンネルか」

「そう言って頂けるのは光栄です。でも涼姫のチャンネルですよ、伸びたのは涼姫の力ですから。そしてわたしって考えたら一式 アリスチャンネルがあるんですよね、ちなみにスウさんのお陰で爆伸び中です。ありがとうございます。わたしってネットではあまり存在感無かったのに、200万人に届きそうですよ」

「あ、私も登録してるよ!」

「何となく知ってました。だからわたしも今後は自分のチャンネルで活動しようと思ってます」

「えっ、やだ・・・」

「そんな、捨てられた子犬みたいな目をしないでください・・・」


 私、どんな顔してんだ―――。


 私が自分の顔を粘土のようにこねていると、アリスがなぜ自分のチャンネルで配信するつもりになったのか、教えてくれる。


「わたしのチャンネルで配信するのはですね、その方が収入が伸びるからです。わたし達は大きなチャンネルを2つ所持しています。この場合片方だけで配信するより、2つで配信するほうが収益が増えるんですよ」

「それは・・・・そうなのかな」

「納得できませんか?」


 うん、できない。

 このチャンネルが2人の物じゃなくなるなんて、辛い。


「やだよぉ」 

「別に、わたしがいなくなるわけじゃ無いですから」


 嫌だけど、納得するしか無い。


「そ・・・・だね」

「では、配信を始めましょうか」

「わかった。じゃあ、私はパイロットスーツの上に服を着てくるね」

「駄目ですよ?」


 アリスに、恐るべき速度で肩を掴まれた。


❝始まったー!!❞

Her(ハー) スウ Her(ハー) スウ❞

❝Her スウ Her スウ❞

Her(ハー) (スー) Her(ハー) (スー)

❝待ってたー!❞


「・・・・でた」

「あはは、本当に定着しましたね」


 アリスは愉快そうに笑ってるけど、私にはたまった物じゃない。


 この「Her スウ Her スウ」言っている人がわんさか居るのは、うちのチャンネルの開始の合言葉みたいになってしまったからだ。


 元ネタは音子さんが、私のパイロットスーツに対して言った発言「ハー スウ ハー スウ」。


 私の配信での意味は「彼女はスウ、彼女はスウ」らしい。今度、音子さんに、お礼のぐーパンをする予定――怖くて予定だけだけど。


 ちなみに元となった音子さんのチャンネルのアーカイブを見に行ったら「ハー、スウ」どころでは済まない、おぞましい光景が展開されて、正気度(SAN値)がガリガリ削れたのでそっと閉じた。

 1D100にクリティカル成功しなかったら、発狂していた。


 あの人はきっと、旧支配者(ヨグ・ソトース)か何かだ。


Her(ハー) スウ Her(ハー) スウ❞


 のコメントにまぎれて、


❝モデレイター(音子):スウ、そのパイロットスーツもウチにくれひん?❞


 などという、名状しがたい宇宙語のような物が目に入った。


 私はスマホを操作する。


「とりあえず、人の道を踏み外した人がいるので、モデレイターからも外しておきますね」


❝いや、冗談や!! ネタやん! こ、これやから関東人は困るわあ―――❞

❝あ、ほんまにモデレイターから外したでこの子! イヤや、もどしてー!❞

❝モデレイター(音子):ウチとスウの繋がりを奪わんといて!❞

❝モデレイター(音子):あ、戻った! 赤い糸が! ほんま冗談キツイわアンタ(じぶん)


「冗談キツイのはどっちですか? だいたい ハー スウ とか誰のせいで広まったと思ってるんですか? ぐーパンしますよ、奥歯を折りますよ」


❝モデレイター(音子):ウ、ウチです・・・まことに申し訳ございません❞


「じょ、冗談ですよ。なんでそんなに怯えてるんですか・・・」


❝モデレイター(音子):自分、〖超怪力〗持ちだって忘れてへんか?❞


「・・・あ、なるほど。じゃあ私って肉弾戦も、結構強いのかな」


 私が音子さんと話していると、アリスが自身で持ち込んだぬいぐるみ(浮かれたモモンガが横からぶん殴られて白目を剥いたみたいな人形)が、無重力を泳いで机の上に逃亡していたので、ベッドの棚のプラモデルの隣に連れ戻す。


「アリスも私のプラモみたいに、ぬいぐるみを固定したら?」


 私が何気なく尋ねると、コメントが騒がしくなった。


❝モデレイター(音子):あのおっきいプラモデル、やっぱスウのやったんやw❞

❝結構ガチな塗装してあるんだけどJK(ジェーケー)ワロワロワロ❞

❝こんど、組み立て配信してよワロw❞


 ふふふ。最近作ったんだけど、なかなかの出来だろう、褒め称えたまえ。

 もちろん視聴者に自慢するために、ワンルームに無理やり設置した。


 アリスがぬいぐるみを抱きしめながら口をとがらせる。


「ぬいぐるみを固定したら、抱っこできなくなるじゃないですか。というかスウさんのプラモデルは、あの強烈なGに耐えられるとか、どんな固定の仕方をしてるんですか」

「プラモ用の瞬間接着剤・・・――」


 アリスが「マジですか」みたいな顔してる。


 私も「今の瞬間接着剤ってすごいよねぇ」とビックリしていると。


 音子さんのコメントが見えた。


❝モデレイター(音子):――ていうかほら、今日はアレやるんやろ? みんな楽しみにしてるで! ウチは抽選落ちたけどな!!❞


 私は、憂鬱な事実を思い起こさせられて若干苦い顔になる。


「私は、全然気が進まないんですけどね・・・・」


 すると反応を示したのはジェームズさん。


❝Missスウ既に私の部下は集合しているぞ! 早く行ってやってくれ!❞


「・・・・はい」


 実は今日は、前から予定していた「私が戦闘機のレクチャーを行う日」なんだ。――軍人さんが多くて気が進まないけど。


 だって、あの人ら空中戦機動とか完璧に理解してる人間だよ。むしろなんか秘密のテクニックとか絶対知ってるでしょ。

 それに対して、私が何を教えるの・・・・座禅位しか思いつかなかったんだけど。


 私達は、スワローさんでハイレーンの衛星にある訓練場へ向かう。


 今日のために、銀河連合から訓練場を借りたんだ。ちなみに訓練場の重力は、ちゃんと1G。


❝オフ会きちゃ❞

❝俺も行きたかった~、抽選もれた~。またやっちくり~❞


 しかし視聴者は、なぜか「オフ会」とか言ってるけど、ふざけないで。これをオフ会なんて決して言わせない。


 どうも参加者が、浮ついた気分でいるようだ、これは正さないといけない。

 だから私は、生易しい訓練ではないと分からせるため、少々サプライズを用意した。


 同時に、「オフ会」とか舐めて参加した人は、後悔させてやる。


 私は、用意した軍帽を被り、ラ◯ドルフみたいな垂れた感じのサングラスを掛ける。

 更にコーンパイプを咥えた。――ちなみにコーンパイプの先っぽはサクサクスナック、軸はチョコクッキー棒で出来ている。


 これで、どう観ても恐ろしい鬼軍曹だ。


 なんか違う人に似てる気もするけど、見た人は怖すぎてブルっちまうはず。


 後ろでアリスが「何を仮装してるんですか・・・・スウさん」とか呆れている空気があるが、気にしない。


 私なら鬼軍曹が現れたりしたら、チビッちゃうね


 私は衛星に着陸させたスワローさんのタラップから飛び降りて、左右に並んだ訓練生たちを見回す。


 なんか吹き出した人が視えた気がしたが、タブン恐ろしかったんだろう。きっとそうだ――そうだと思いたい。


 ちらりと見えた、マイルズ・ユーモアさんが隈だらけのジト目で「お前は、なにをやっているんだ」と呟いた気がしたけど、訊かなかった事にしよう。


 アリスは、彼女が担当するロボットコースのエリアに向かって歩いていった。

 向こうから黄色い歓声が挙がる。


 うわっ、女の人ばっかりじゃん。しかもモデルであるアリスのファンに相応しいオシャレで綺麗な陽キャばっか。


 あー、陽が眩しい。あんまり輝くな、たまにはガイアに反骨心を持ってみせろ。


 私は、眩しい光どもから目を背けて、自分の訓練生に向き直る。


 眼の前に広がる筋肉の森――流石軍人さんたち筋肉ムキムキ、むさ苦しいな。

 やっぱ私もアリス側が良かった――駄目だ、アレはアリスにしか集められない・・・そうか私に集められるのは、ムキムキだけだった。


 でもまあ、筋肉は嫌いではない――というかむしろ好き。お母さんもムキムキだったし。

 なのになんで私はこんなに貧弱なんだ? どうした、私の遺伝子。 


 私は男性のムキムキマッソー達に母性を感じながら、全員を見回す。

 ふと目に入るマイルズさん。目が合った。


 あ、マイルズさんだけはヒョロイ。

 私が彼を観て「ぷ」と笑うとギロリと睨まれた、私は怯えた。


 とりあえず、鬼軍曹として訓練生のヒヨッコどもに喝を入れる。


「貴様りゃ」


 私はコーンパイプを口から外す。


「喋りにくい・・・」


 コーンパイプを、むしゃむしゃした。


 気を取り直して、私は宣言する。


「貴様ら! 今日この訓練の指導を担当するスウだ。私に返事をする時は、言葉の最初と最後にサーをつけろ!」


「サー・イエッサー!!」

「サー・イエッサー!!」

「スゥ・イエッスゥ!!」

「サー・イエッサー!!」


 みんな返事するけど、マイルズ・ユーモアさんだけは「アホか」とか呟いている。


 だけど、まって? 今変なの有ったよ?


「まて、誰だ今『サー・イエッサー』に紛れて、『スゥ・イエッスゥ』と言ったやつは!! 発音がそっくりすぎて、聞き逃すところだったぞ!!」


 私はサングラスを外すと、適当に見繕ったイタリア空軍の軍人さんぽい人に、鬼軍曹らしく顔面を寄せて大声を出す。


「貴様か!」


「サー・ノーサー!! ガチ恋距離ありがとうございます!」

「調子に乗りやがって、私を舐めているのか!?」

「サー・ノーサー! 私はスウ教官を推しています!!」

「ありがとう!」

「サー・イエッサー!! 前回のケルベロスとの戦い痺れました! あと、近くで見るとますます可愛いであります!」

「お前には、眼科を勧める!!」


 私がイタリアの軍人ぽい人から顔を離すと、となりの自衛官さんっぽい人が言った。


「まってください、スウ教官! 言ったのは自分であります! 自分にご褒美をお願いします!」


❝あれ、柏木 総一郎一等空佐じゃねwww この間取材受けてたの見たwww❞

❝相変わらずお茶目な人じゃなwww❞


 私は、自衛隊員さんに鬼軍曹らしく顔面を近づけて大声を出す。


「これはご褒美ではない! 恐ろしい指導だ!! それを貴様、どういうつもりだ!!」

「スゥ・ノースゥ! これはやはりご褒美です! 自分は、貴女にご褒美を貰いたかったであります!」

「そのスゥスゥ言うのをやめろと言っている! お前は人間の言葉が通じないのか?!」

「スゥ・イエッスゥ!!」

「人間の言葉が通じないなら、お前は豚だ! 今後は豚らしくブウだけで返事をしろ!!」

「ブウブウ」

「どんな気持ちだ、豚!!」

「ブゥ・イエッブゥ!」

「おい、私をブゥと呼ぶのはマジで勘弁しろ!!」


❝なんだ、あのご褒美会場❞

❝言葉責め大会か?❞

❝彼らは特殊な訓練を受けています❞

❝まさに今、受けてるんだよなあ❞


「言葉が通じないのは困る、人間の言葉を話していいぞ、今どんな気持ちだ。顔が真っ赤だぞ、(はずかし)めに耐えられないか!!」

「今日は自分の人生で、最高の日であります!! ご褒美をありがとうございます!」

「駄目だお前は! 私なんかで喜ぶとか、度し難い変態のようだな!!」


❝スウが、とことん自虐的なの笑う❞

❝なにかする度、むしろスウ本人がダメージ食らってるのワロwww❞


「ならば、もっと恥ずかしい目に合わせてやる。お前の好きなアニメの主題歌を熱唱しろ!!」

「は! では『胡蝶のバタフライエフェクト』、エンディング曲『あーそーぼ!』を!」

「おい、やめろ、それは私へ被害の方が大きい!!」

「〽いまから ちょっとだけ ちょっとだけ 季節をながめていた~いな♪」


 本来可愛い声の歌手さんが歌っていた曲が、柏木 総一郎一佐のバリトンボイスで展開される。


「ボクが進むには 君の悲しみが ないとだめなんだ

君が悲しんでる そう思わないと 前に進めない

足はもう 未来にすくんで 動いてくれない

こぼした命 こぼれた笑顔

救われて いいなんて 思っている?

誰のせいにして 背負いきれなくて 歩ききれなくて

でも解けなくて だから行けなくて 壊れた心で叫んでる

それでも ボクは 奇跡に たどり 着くから

君に 「おはよう」を しに行くんだ

何度だって 諦めたり しない

また 立ち上がるから

だからいま すこしだけ ほんのすこしだけ

ねがいは ひとつだけ~♪」

「上手いな、お前!!」


 私は、顔から火が出そうになっているのを隠す為にサングラスを掛け直す。


❝柏木ニキ、歌が上手すぎ、バリトンボイス最高www❞

❝元は、可愛い声の歌なのにwww❞

❝スウ軍曹が大ダメージ受けてて草なんよw❞


「私に恥をかかせた罰として、全員腕立てだ!!」


「「「スゥ・イエッスゥ!」」」


❝訓練生、全員が「スゥ・イエッスゥ」って、言い出したwww❞

❝伝染したw❞

❝ワロワロワロwww❞

❝よし、俺も腕立てするぞ――スゥ・イエッスゥ!❞

❝こっちにまで伝染したしワロw❞


「お前ら、全員が言うのか!? 本当にその返事はやめろ!! コメントも止めろ!!」


❝スゥ・イエッスゥ! 1、2、3、❞

❝スゥ・イエッスゥ! 1、2、3、❞

❝スゥ・イエッスゥ! 1、2、3、❞

❝どんどん被害広がるの、お腹痛いwww❞

❝もう食い止めるの不可能じゃんワロ❞


 私は軍帽とサングラスを投げ捨てて、泣きを入れる。


「鬼軍曹ゴッコやめるんで、本当に勘弁して下さい!」


「「「スゥ・イエッスゥ!」」」

❝❝❝スゥ・イエッスゥ!❞❞❞


「あ゛あ゛あ゛」


❝SANチェック入りま~す❞


 私は白目を剥いて、仰け反った。


❝はい失敗した❞

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こっちにも感染ってらぁw
スゥ・イエッスゥ!
スウ イエス スウ ww
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