196 第一王子にスキルをプレゼントします
「そして、素晴らしい自信家だな君は!」
自信、それは一番私に似つかわしくない言葉です!
とりあえず賢者と言われて、アドリブな助言とか求められるのは本当に困るので、話を進めさせてもらう。
「えっと。アンドリュー様、貰って欲しい物があるのですが」
私は革袋を取り出す。こんなみすぼらしい(風に作られた)革袋じゃなくて、もうちょっと良い入れ物に入れてくれば良かったかな。
私が中身を出そうとすると、姫の執事さんがサッとクリスタルの豪華な台座に、銀のお皿のような物を乗せて置いてくれた。更にそのとなりに鑑定の水晶まで。
この執事さん、できる・・・。
私は執事さんに頭を下げて、お皿に9個の印石を置いた。
「こちらを献上致したく」
「ほう、見事なスキル石――スキル石をそんなに雑に扱って大丈夫なのかい? ――だけれど弱ったな。僕が貰ってもどうしようもない。それは手に入れた人間にしか使えないのだよ」
「いえ、私はこれをアンドリュー様のスキル石に変化させるスキルを持っています」
私の言葉に、くすりと笑うアンドリュー様。
「僕のスキル石にできるスキル? 賢者様ご冗談を、そんな事有り得るはずがない。いくらなんでも簡単な誂いには乗れないかな。これでも王子だから、この世界で出現したというスキルはほとんど知っているんだ。王家にはそういった情報を記した蔵書が何冊か有るからね」
「では実際にやってみますね。一つ手に持って下さい」
「ん!? ――――本気でいっているのかい?」
「アンドリュー様のスキル石になれば、その石からほんのりと熱を感じるはずです」
「それはもちろん、知っているけれど」
アンドリュー様が疑いながらも、青い印石を拾い上げた。
「では、少し失礼します〖サイコメトリー〗」
私は〖サイコメトリーμ〗で、私に繋がっている印石の糸を切って、王子に付け直す。
すると、王子が印石を凝視した。
やがて驚きの声を挙げる。
「嘘だろう! 本当に暖かくなった!」
「これで王子の石になりました。砕いてみて下さい」
アンドリュー様が印石を握りしめて砕く。すると、アンドリュー様の体が淡く輝いた。
「こんな事が有り得るのかい・・・・」
若干、呆然とした様子で呟いたアンドリュー様の方へ執事さんが、水晶を動かした。
唖然としたままのアンドリュー様が水晶に手をかざすと、きちんと〖空気砲〗のスキルが表示された。
「本当に憶えられている! しかも何だいこれは? 僕の知らないスキルだよ? 賢者スウ、君は一体どこからこのスキルを持ってきたんだい!?」
「いえ・・・それはちょっと言えないと言うか。あと秘密にして下さい、決して口にしないでほしいです」
言ったら王子の記憶が消されそうというか。
「そうか、賢者スウがそう言うなら、追求するのは止めておこう。そして秘密を守ることは約束しよう」
「あの、その賢者という呼び名は止めて欲しいと言うか」
リッカの視線が痛いというか。
「はははっ、無理だよ?」
あ、この人の笑顔アリスに似てる。これ言っても無駄なパターンだ。
「で、では、続けて失礼しますね」
私は9つすべての印石を、王子の物にし終える。
王子がすべてのスキルを憶えて、水晶に手を載せて唸った。
「〖ショートスリーパー〗、〖毒無効〗、〖マッピング〗、そして〖空気砲〗どれも文献にないスキルだ」
「あ・・・・〖毒無効〗もないんですか・・・?」
「毒〝耐性〟は存在するが――〝無効〟とは、これは凄まじいな」
・・・そうか無効はたしかに凄いよね、さくらくんって物凄いもの見つけてたんだなあ。
「あの、あまり詮索は」
「もちろんしない。ほんの数年前から、どんなモンスターが出すか分からないスキルを所持している人間が、チラホラ発見されていると聞くし」
なるほど、多分プレイヤーの人だ。
「しかし本当に素晴らしい贈り物だった。いや言葉だけでは感謝が表しきれないな――金銀財宝を与えようにも、これはもうどれだけ積んでも足りない」
王子が急に立ち上がる。
(ん?)
すると王子が、不意打ちのように私に〝頭を下げた〟。深々というものではなかったけど。
私は慌てて立ち上がって、王子を止めようとする。
周りもギョっとしている。
王子は直ぐに頭を上げたけど。私はちょっと大きな声を出してしまった。
「王子何してるんですか!? 頭を簡単には下げられないってさっき言ったじゃないですか!」
「そう、だから下げさせてもらった。賢者スウがしてくれた事は、どんなに褒賞を出しても見合わない、もちろんできるだけの褒賞は出したいと思っているけれど――」
そこまで言って王子が茶目っぽくウィンクを笑うと、唇に人差し指を当てた。
「――でも、頭を下げたのは誰にもナイショだよ? 母上に怒られてしまうから」
陽気に笑う王子だった。
こうして私はファンタシアでも小金持ちになった。
◆◇Sight:三人称◇◆
「なんなのだ、あの高炉というのは!」
第三王子 グロウ・リメルダは、自室で部下の騎士を怒鳴りつけていた。
「最も強力だった第二王子兄が失脚して、大量の支援者が今後の動きをうかがっている時にあんな物を発明しやがって!」
怒鳴りつけられているのは、丸い黒メガネの騎士だ――この世界では珍しいサングラスを掛けている。
彼は何処かから流れてきた人物で、〝絶対にドッグファイトで負けない機体〟という強力な特機のバーサスフレームを持っていたので騎士として取り立てられた。
怒鳴るグロウに、しかし丸い黒メガネの騎士は飄々とした態度で頭をかく。
「いやあ、あて等に言われましてもなあ――あっちが勝手に強よおなっとるわけやし」
「ニクサお前がなんとかして、高炉の作成権を奪えよ!」
「王子はんは、ほんま無茶言いはるわ」
ニクサと呼ばれた男は両手で壁を作って、王子を宥めるように動かした。
だがグロウは、宥められて余計に頭に血が上る。
「なら作成方法を盗めないのかよ!!」
「無理やなあ。高炉の壁に使っているレンガの材料を、高炉を使っているドワーフに訊いても『レンガを作ったのはワシ等じゃないから分からん』としか、言いはらないんですわ。どこの何方が作りはったんやろうなあ?」
「他人事みたいに言いやがって――相変らずお前は機神以外無能だな!!」
「王子はん、そないに怒らんといて。あては怒鳴られるの、もう堪忍やわー」
「ほんに、こわいこわい」と首を振る、黒メガネの男。
グロウは黒メガネの男では埒が明かないと、別の人物に視線を送る。
そこには妖艶な美貌の女騎士が立っていた。
「サルタ、お前はどうだ!」
「無理ですね。情報が完全に追えなくされています。ほんの僅かな人間で作ったものだと思われます」
サルタもまた流れ者だ。グロウはわざと流れ者で身辺を固めている。貴族の息子だからという理由で騎士になった様な者は、実力が信用できないからだ。
サルタは3年前、グロウが馬で遠出した時に出会った謎の凄腕の剣士だった。
グロウはサルタの美貌と実力にやられ、すぐに彼女を召し抱え騎士に取り立てたのだった。
「あれだけのものを、僅かな人間で考えだしたと云うのか!? ならお前等でも何か作れないのか!?」
「うーん。そうですねえ・・・無理ですねえ」
サルタは急に歯切れ悪くなる。
何か方法を思いついている感じもあった。
「私も高炉の実験はさせていますが――使用を続けると、熱に耐えきれずレンガが割れてしまうようですね」
「クソッ、どいつもこいつも――!!」
「まあ、そう仰らず。お怒りを収めて下さいグロウ様」
サルタがその豊満な体でグロウを抱きしめると、グロウの癇癪が落ち着き始めた。
「サルタ、お前は俺が死んでも構わないのかよ」
「クロウ様、それは嫌です」
「なら何とかしてくれよ、このままじゃ俺は第一王子に殺されてしまう」
「うーん。あの方はそういう事をしない気もしますけれど」
「なんでだよ! リメルダ家の血と殺戮の殺し合いの歴史を知らないのかよ」
「そうですね――その辺りについて、もう少し探りを入れてみましょうか。そういえばグロウ様」
「なんだ?」
「最近、大勢の冒険者が城下街の冒険者ギルドに詰めかけているそうです」
「は? そんなのは初耳だぞ、何かが有ったわけでもないのに」
「なぜでしょうね。私にも分かりませんが――気をつけて下さいね。特に暗殺の邪魔が入りそうですし――でもクロウ様・・・・本当に妹を暗殺しないと駄目なのですか?」
「駄目だ。アイツだけは本当になんとかしないと、派閥勢力が大きすぎる。あれが居る限り、俺は殺される」
サルタは扉を開けたところで少し悲しそうな顔になり、部屋を辞去しようとする。
しかしノブに手をかけたところで、ふと振り返り、
「・・・お父様まで殺すのですか?」
「早く王にならなければ、ならないんだよ」
「そうですか」
サルタは静かに扉を閉じて出ていった。
ニクサが肩をすくめる。
「ほんまに信用できはるんですか? あの女狐はん」
そんな言葉でグロウがニクサを睨みつける。
「お前だって流れの剣士だろう。いくら古参でも、サルタを悪く言うやつは許さないぞ―――」
「嫌やわ、こわいこわい」
ニクサはますます肩をすくめるのだった。




