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164 お鍋の締めはコレに限ります

 その後、ますます楽しくなった食事が続いた。やがて具材も無くなり、〆の雑炊の段階となった。


 私は嬉しそうに微笑む。

 二人も調子を取り戻している。


「これこれ! やっぱお鍋の締めはこれだよ!」

「ですねえ!」

「早く早く!」


 え「女の子なのに、そんなに食べるのか」って? こちとら高校生だよ、女の子だって食欲すごいんだよ!


 アリスがお鍋の残り汁にご飯を入れると、しばらく温め直す。

 最後に火を止めて、とき卵を掛けて蓋をする。

 この待ってる間のワクワク感も大好き。


 蓋をしめたアリスが「そういえば」と話題を出してくる。


「涼姫がヒドラに出会ったことで、ヒドラを狩ろうとする人が押し寄せてるそうですよ。回収出来なかったですが〈無敵〉を出しちゃったせいです。――〖無敵〗の効果は0.2秒間使った人自身と機体が無敵になって、使用者や機体に触れた物を弾き返すらしいです。ちなみに弾丸でもレーザーでも当たると真逆に進むらしいです。運動を逆向きにするみたいですね。クールタイムは1分」

「本当に凄い印石だった――惜しかったな。でも――三裂星雲の中、危なすぎるよ。あんな場所に、人が集まってるの?」


 とんでもない暴風が吹いてるのに、大丈夫なのかな。


「そうなんですよ、ヒドラも強いですし。どう考えてもあそこは一般プレイヤーはお断りなんですが。戦艦とか空母で無理やり飛んで、なんとかヒドラを狩ろうとしてるそうです。でもそもそもレア・モンスターらしいですし、ヒドラが見つかるのかどうかクエーサーに落ちたら出てこれませんし」

「事故らないでほしいなあ」

「ただ、一匹でも見つけたら〈無敵〉が出るまで何度でも狩れば良いんですよね。昔涼姫がドミナント・オーガにやったみたいに・・・・ただまあ、もう一匹いる可能性がほぼ無いんですよね」

「なるほど」


 私が納得するとみずきが、タブレットを取り出し、検索を掛けだした。


「ストリーマーズのクランが、ヒドラ狩りやってるみたい」


 タブレットを立てて、音子さんの配信を流すみずき。

 音子さんの、


『おらんや~ん! ヒドラどこなん~!』


 という声が聞こえてくる。

 すると、ダンくんが操舵しているようで、悲鳴が挙がった。


『音子さん、戦艦の操舵手伝って下さい! マジでここヤバイっす!』

『信じてるで、ダンくん! スウは簡単に飛んでたし! ダンくんはさくらくんと互角位らしいから、ダンくんにもさくらくんみたいな操舵が出来るはずや、ほらバレルロールしてみ!』

『で、できない事はないですが、こんな場所じゃできません! あとスウさんみたいな、あんな化け物と一緒にしないでくださいよ!』


 私はダンくんに『化け物』と言われたことを、心の日記帳にメモっておく。

 あと、そっとスマホを取り出して、ダンくんの配信に行って、

 コメントで、❝Ꙭ❞と打ち込んでおく。


 すると、コメントに大笑いが巻き起こった。


❝wwwwww❞

❝スウも、よーみとるwww❞

❝スウおるwww❞

❝●~* きたwww❞


『まあ、スウは化け物やけども』


 音子さんがなんか言ってる。

 すると、コメントで気づいたのか、ダンくんがまた悲鳴を挙げた。


『スウさん!? 見てたんですか!?』

『え――ス、スウおるの!? アカン! ――ス、スウって子ほんま可愛いよな~!』


❝モデレイター(スウ):音子さん、今度またコラボしましょうね❞


 あ、なんかダンくんのチャンネルのモデレイターにされた。


『いやっ、今回は遠慮しとくわ! にしてもスウって子、可愛すぎん?』


❝ビビり散らす音子www❞

❝いつも思うんだが、この人の手首には、ベアリングでも付いてるんじゃないのかwwwwww❞


 ダンくんが、私に質問してくる。


『ス、スウさんは、なんで星雲の中をフェアリーテイルみたいな軽い機体で平然と飛べるんでしょう。戦艦ですら飛ぶの大変なんです。コツとかありますか?』


❝モデレイター(スウ):無理しないことかなあ❞

❝無理しない(無茶しないとは言っていない)❞

❝無茶苦茶な軌道描いてるのに❞

❝無理しないというか、真似するのが無理❞

❝〈アイアン・ノヴァ〉であんなに必死だったのに❞


『アドバイスになってません・・・』


「涼姫、雑炊できましたよ」


 アリスの声が、私に掛かった。

 お鍋の蓋が開けられて、良い香りの湯気が舞う。


❝モデレイター(スウ):あっ、雑炊できたみたいなんで、じゃあ❞


『雑炊?』


❝モデレイター(スウ):アリスとリッカと、お鍋食べてて❞

❝今日の事を、雑談配信でよろ!❞

❝配信で食べてくれたら良かったのに!❞


 いや、泣いちゃったし配信して無くて良かったよ。


❝仲いいなあホント、あそこの3人❞


 仲いいなんてそんな「でゅふふふふふふふ」。

 アリスとリッカは、なんてったって私の友達だからね!


❝モデレイター(スウ):とりあえず、そちらが危なそうな事になってたら良かったら助けに行きますね。引き続き配信は、拝見してます。じゃあ食べてきます❞

❝おお、さスウ❞


『た、助かりますー!』

『よっしゃ、もう安心や。ダンくん、大船に乗ったつもりで操舵しいや!』

『本物の大船(戦艦)に、乗ってるんですけどね』


 雑炊は栄養的に無敵で、美味しさ的に究極だった。


「はぁ。おいししすぎる」


 私がハフハフしながら息を吐くと、アリスが「でも」と言った。


「ユニレウスは、まだ食材が高いんですよね。本来豊かな惑星のはずらしいんですけど、流石に入植し始めたばかりでは厳しいらしくて」

「あー」

「まだこの惑星であまり食材を取ったり作ったりする人がいないんで、供給が追いついてないんですよ。でも開拓さえ終われば銀河連合全体の食料事情を良くするらしいです。そのためにも早く首都を奪還したいみたいですね」

「ストライダー協会にも、食料確保や首都調査のクエストが一杯あったね」

「首都調査はかなり大変なクエストらしいですけど。食料の方はバーサスフレームで採りに行くんで大変ではなくて初心者向きらしいです。が・・・・やっぱり自然から採ると、取れる量も限られますし、あとクエストを受ける人が足りないみたいです。食材は、現状ほとんど星間を跨いで運ばれているみたいです。まあわたし達は地球から持ち込めば良いんですけど、最近は地球も食料品が高いんですよね」


 そこで私の頭に、珍妙なアイデアが浮かぶ。


「この骨に〖再生〗を使ったらどうなるんだろう?」

「なるほど? ですね」

「欠片からでも元通り再生できるなら、無限に食料を生み出せるかも。やってみようかな・・・・」


 私は椅子から立ち上がり、眼の前の鶏の骨に手のひらを向けて〖再生〗を掛けてみる。

 しかし、これは間違いだった。


「〖再生〗―――う―――っ?!」


 やばい、立ちくらみがした。私の右膝がガクンと折れた。


 なんか世界がめくられるような物をみて、気付くと電車に乗っていた。


「あれ!?」


 周りは湖面――ウユニ湖みたいになっている。

 鏡のような湖に空が映し出されていて、いっそ幻想的でもあった。

 静寂の中を電車の音だけが響く。


「ちょ、ちょちょちょちょ――これヤバくない!?」


 やがて花畑についた。


 駅名には「レーテ川」と書かれていた。レーテ川って、ギリシャ神話の黄泉の世界と現世のはざまに有るっていう、忘却の川じゃん。


 飲んだり、入ったりしたら全てを忘れるっていう。来世に転生する前に入る川。


 周りで寝るだけでも、記憶を失ったりもするらしい。

 じゃあ、あの川の向こうは黄泉?

 つまりあれは、三途の川的なもの!?


 え、既に死んだ鶏に〖再生〗掛けちゃったから、黄泉の寸前に来ちゃったの?


 やばいやばい――私、死んだ者を引き戻そうとしてるの!?

 なんか川の向こうで、三つ首のおっとろしい顔した黒い狼が唸ってる――その後ろには半透明な鶏。


 明らかに地獄の番犬ケルベロスと、〖再生〗掛けちゃった鶏じゃん! も、戻らなきゃ。


 と「戻らなきゃ」って思った途端、世界が切り替わった。


 私は床に尻もちをついて、アリスとリッカに支えられていた。


「だ、大丈夫ですか涼姫!!」

「どうした、急に倒れかけたけど!!」

「あ、あれ? ――私、私なにしてたの?」


 ――物凄い体がダルい。スキルで体力を消費するのは知ってたけど、ここまで疲労したのは初めてだ。

 あと、自分が今まで何をしてたのかも思い出せない。


「何してたって、チキンの骨に〖再生〗を掛けたんですよ!?」


 机の上に、見事なチキンレッグ。

 あ――そうだ。チキンレッグをもとに戻そうとして、黄泉の川を見たんだった。


「やばい・・・私いまさっき黄泉の川的な物を見たんだよ。――多分〖再生〗って、死んだ生き物に掛けちゃ駄目なんだと思う」


 私は、冷や汗を流しながら荒い息を吐いた。


 私を支えていたみずきが、吃驚(ビックリ)して咥えていた箸を落とした。


「黄泉!? だ、大丈夫!?」


 アリスも心配そうに私の顔を覗き込んでいる。


「本当に大丈夫ですか!? ・・・・顔が真っ青ですよ」

「ちょ、ちょっと怖かっただけだと思う。う、うん。大丈夫だから心配しないで・・・・」


 私は言って二人の手を離れる、みんな席に戻ったので、わたしも椅子に座って背もたれに体を預けた。


「とりあえず、食べ物を無限に生み出すのは無理みたい」


 アリスとみずきも頷いた。


「これは、やっちゃ駄目ですね」

「うん、駄目」


 私は、ちょっと再生された(なま)いチキンレッグを見て呟く。


「これどうしよう」

「食べる!」


 みずきが、勢いよく手を挙げた。まだ胃に入るのか、この子。

 あと私が食った骨を、このチキンレッグは内包してるんだけど。

 いや、すずさ菌とは謂わんけど、流石に他人の食った肉の骨が入ってるは気にならん?


「じゃあ焼いてみましょうか。チキンなんで、よく焼きますね」


 ほんとに二人共、気にならんのか。


 アリスが立ち上がり、キッチンに向かった。

 しばらくして、香ばしい香りが届いてくる。


 アリスがふと思い出したような顔をして、話しかけてくる。


「そういえば涼姫って、なぜ爽やか炭酸のペットボトルを凹ました上に逆さにして冷蔵庫に入れるんですか? 何かの儀式ですか?」

「いや、ああしておくと炭酸が抜けにくいんだよ」

「あー、なるほど。溶け出した炭酸は上に上がるから、蓋の隙間からは抜けにくい、また炭酸が逃げるペットボトル内の空間も小さくする――わたしはまた、何らかの暴力的な衝動を発散してるのかと思ってました」

「そ、そんなわけないじゃん・・・・」


 私は、落下した箸を洗って戻って来て雑炊を食べているみずきに「そういえば」と尋ねてみる。


「みずきのダーリン・インフィニティ修理できそう?」


 みずきが「うーん」と唸った。


「修理はできるんだけど、勲功ポイントがカツカツ」

「あー、じゃあ私が修理費だそっか」

「良いの!?」

「うんうん。すんごく余ってるし」

「さスウ!! ありがとう!!」


 にしても、この子、いつも勲功ポイントが枯渇してるなあ。


「じゃあ明日、一緒に補給基地いこっか。私もフェアリーさんに弾薬補充したりしないといけないし。主に〈アイアン・ノヴァ〉と、パージしたワンルーム。それから〈アイアン・ノヴァ〉の爆風受けてフェアリーさん本体が結構ダメージ受けちゃったし」


 自分の補給分は無料だけど、流石に補給基地に行かないで補給できるわけじゃない。

 あと、前のワンルームはきっと〈アイアン・ノヴァ〉で跡形もなく消え去ったんだろうなあ。


「うん!」

「アリスはどうする?」


 私が、チキンを中まで念入りに焼いているアリスに向く。


 生焼けのの鶏は怖いんだよね、あんな辛い目には二度と遭いたくない。


「・・・・明日は、撮影です」

「そっかあ――」


 アリスが辛そうな顔になる。

 そ、そんなに寂しそうな顔しないで・・・。


「お土産に、新しい人形買ってきますね」


 また、変な人形買ってくるのかな。


「いや、それは別に」

「買ってきますね?」

「はい」


 その後、焼けた鶏をみずきとアリスが食べる。

 き、気にならんのかあ。


 ん? ――そこで私は、急にある事柄の関連性に気づいた。


「まって、みずき」

「ん?」

「前にさ、勲功ポイントをVRに変えて地球で売って、お小遣いにするのがトレンドって言ってたよね?」

「ぎくぅ!」


 リアルで「ぎくぅ」は初めて訊いた。


「もしかして、みずきがいっつも勲功ポイント枯渇してるのって、そういうこと??」


 私がビックリしていると、アリスだ。


「みずきッ!!」


 めっちゃ怒ってる!

 アリスに怒鳴られて、みずき真っ青。


「いやっ、そのっ、お小遣いが足りなくて!」

「勲功ポイントの貴重さを、全く理解していないようですね!?」

「ご、ごめんなさい! もう二度としませんから!」


 完全にお怒りママ状態のアリスに、みずきは平謝り。


「本当でしょうね?」

「本当です!」

「・・・・じゃあ今日のところは許しますが・・・! ――だけど約束を破ったらその時は・・・!!」

「はい! 二度としません! 約束を守ります!!」

「まったく、勲功ポイントをお小遣いに変えて機体の修理もできないとか・・・スウさんすみません、みずきがご迷惑を掛けて」

「いやまあ、アリスが謝ることではないし」

「はー・・・信じられないですよ全く。スウさん、みずきをよろしくお願いします」

「うん、大丈夫」


 という訳で、明日はみずきと補給基地に向かうことになった。


 じゃあ、明日は補給配信かな?

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― 新着の感想 ―
更新お疲れ様です。 >骨に『再生』かけたらレテ川にお呼ばれ なるへそ、ナメ○ク星でのベジ○タみたくどてっ腹に風穴空いて死ぬ寸前位なら許されても、人間の分を超えた『蘇生』行為は「神様許しません!」って…
>じゃあ、明日は補給配信かな? ひとまず今回発覚した再生での黄泉がえりも言った方が良いね。
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