111 アリス&リッカvs特機の戦いが激しくなります
❝wwwwww❞
❝笑顔で怒る人だwww❞
リッカは悠長にリスナーと会話しているが、アリスはモールスと交戦中だ。
モールスの繰り出す、攻撃をバリアや盾そしてジャストブーストでいなし続けている。
『トントンツー トンツー トンツー トントンツー』
アリスはリッカの様に複雑な武術の技を知らないが、バーサスフレームの操縦はリッカより遥かに上手いし、熟知している。
三択ブーストを絶妙のタイミングで使い、バリアで敵の攻撃をいなし、相手の火力を封じ込める。
その上に、ここは地球での試合ではないのだから、トップランカーらしくステータスアップもしているしスキルも有る。さらにアリスには生まれながらの〝才能〟があった。
リッカには傑出した才能はないが、アリスはメープルと同じく一種の天才だ。
アリスには相手の意識している場所が光り、意識していない場所が陰って見える。
ドミナント・オーガ戦で得た超能力〖透視〗を使えば、敵のコックピットの中までバッチリ見える。
これらの能力を総合してアリスは、相手の攻撃をバリアや盾で防いでモールスに近づいていく。
また、バリアが砕かれてもすぐさまメープルの回復が入る。
アリスの彗眼に、モールスのパイロットに焦りの光が見え始めた。
❝流石、赤い閃光のアリスだわ。不味いぞ❞
❝スウの陰に隠れてるけど、トップランカーは伊達じゃない❞
❝星の騎士団2000人の頂点だったしな❞
『間合い!』
アリスがモールスの間合いに入った。
アリスは、モールスをメインに操縦しているパイロットの意識を読んで、〈ソード・リボルバー〉を振り上げる。
〈ソード・リボルバー〉は共振剣の一種で、振動し高周波で切れ味を上げる剣。
衝突の瞬間にトリガーを引けば共振作用が増し、ブレードの振動数が飛躍的に上昇して、切断力が上がる。弾数が少ないかわりに威力が高い。
リッカのムシャ・リッカには〈刀マグナム〉や〈小太刀マグナム〉というのがある。これも〈ソード・リボルバー〉と同じ仕組みの武器。ただし、威力は低めで弾数が多い。
『面ェェェン』
面とは言ったが、顔面は狙っていない。この戦いは剣道と違い、どこを狙っても良い。
アリスはモールスの肩口に〈ソード・リボルバー〉を振り下ろした。
しかし、強力なバリアでアリスの剣が弾かれる。
『か・・・・硬い! ――でも、もう敵にはヒーラーがいない。攻撃を続ければいつか!』
すると、ヒナがマシュマロのような機体でモールスを撃った。
モールスのバリアが回復してしまう。
『甘いね』
『そ、そのマシュマロみたいな機体って音子さんの――そういえば、ヒーラー機体でしたね・・・・!』
『そ。しかもバリバリの速力特化。まあ、機体サイズが中型なんで、あんまり回復できる量は多くないけどね』
『逃げ足にこだわり過ぎですよ、音子さん。――でもスウさんのパイロットスーツは返さなくて良いですからね』
『伝えとくわ』
ヒナが笑いながら、音子とモールスを回復できる場所に位置取る。
アリスはヒナに向き直るが、
『先にヒナさんを――』
リッカが否定する。
『さっき出来なかったじゃん』
『――そうだ、さっき1分近く追いかけて、全然追いつけなかったんでした』
『ふっふっふ。お姉さんはこれでも、実力派配信者と言われているのだよ。ドッグファイトじゃ負け無しだよ』
『よし、アリス。わたしをメインに合体して弓を――』
リッカが言い掛けると、モールスが両手を突き出した。
『『両手?』』
そうして両指で、モールス信号を打つような仕草をする。
『〈モールスサウンド〉トン』
景色が歪むほどの衝撃が、ナイト・アリスを襲う。
『まずい――受け流せな――』
砕かれるバリア。砕かれるシールド。砕かれるナイト・アリスの左腕。
弾き飛ばされるのはなんとか踏みとどまったが、被害は甚大。もうバリアが出せない。
『アリス、もうナイト・アリスでいる意味がなくなった。チェンジして』
『はい―――チェンジ、ムシャ・リッカ!』
『チェンジ、ムシャ・リッカ』
今度はショーグンが分離。鎧パーツとなって、ダーリンに合体。
『『ムシャ・リッカ見参!』』
『アリス、これ―――』
『痴女スーツ』
『はい』
❝アリス、もう完全にスウのパイロットスーツを、痴女が着る物だと認識してるじゃんwww❞
❝ひっでぇw❞
❝おい、鳩飛ばすなってwww❞
ヒナが、不敵に笑いながらリッカに尋ねる。
『その機体、二刀流じゃなかった? 片腕を失ってどうするの』
『こうする』
リッカがダーリンの顔を露出させて、〈小太刀マグナム〉を咥えさせた。
『あんたは海賊狩りか何かか』
❝ところでモールスの4人は、なんで喋らないの?❞
❝向こうはオープン通信切ってる❞
❝なんで❞
❝その方が〝強キャラ感出るから〟だってw❞
❝おいwww❞
モールスの4人がオープン通信を開いた。
『バラさないで下さい(笑)』
『せっかくの演出が意味ないッス!(笑)』
『じゃあ、ここからはそっちにも自分たちの声をお届けするでありますよ!』
『良かったら、わたくしたちもチャンネル登録してくださーい。リッカさんとアリスさん、両方200万人でございますし!』
するとリッカが静かにオープン通信を返す。
『マルチレイドの人達、残念だけど喋ってる暇なんかないよ、行くよ。アリス、合図を』
ムシャ・リッカが空中で蹲踞の姿勢になり、〈小太刀マグナム〉を構える。
❝え、なに❞
❝なにするつもり?❞
市原 のべるが首を傾げた。
『急に何ですか・・・?』
『はじめ!』
アリスの言葉と同時、ムシャ・リッカが回転。
『ヒナを先に倒すまでもない』
リッカが言うと刹那の瞬間、霞のようになった姿が――モールスのパイロット四人の意識から消える。
『え、消え――え』
モールスの四人を、下から悍ましい衝撃が襲った。
『きゃああああああああ!!』
『まってまって、なんスかこれえええ!!』
『やめるであります!』
『こんなの反則でございます!』
モールスの四人が叫ぶ中、今度は左から謎の衝撃。
マルチレイドの面々が、ホラー漫画にでも出てきそうな表情になって叫ぶ。
『『『『ギャーッ!!』』』』
『・・・怖かろう、恐ろしかろう』
県大会で散々立花 みずきの恐ろしさを身に刻まれたアリスが、半笑いになる。
モールスのメンバーに同情するやら、立花 みずきが頼もしいやら。
『もうリッカの動きを、完全に活かせる機体にしましたからねえ・・・・しかもこの戦いは剣道の試合と違い、どんな場所を切っても有効打になり得るんですから、剣術家のリッカは水を得た魚ですよ』
次から次へと、見えない斬撃がモールスを襲う。
『照準をどこに向けたらいいんですか!? 誰か、リッカさんを捉えてください!』
『だめ、見えない、マジでやめてえええ』
『こわいこわいこわい』
『なんでございますか、このホラーは! いやあああ、バリアが砕ける! ヒナさん、回復してぇぇぇ!』
『してるけど、間に合わない! ちゃんと避けて、こっちがそろそろオーバーヒートする!』
通信から響いてくる『タァァァァァ』というリッカの気合の声を聴くたび、4人が震え上がる。
やっぱりオープン通信を切ろうかと考える4人。
市原 のべるが涙目で提案する。
『逃げましょう。とにかく逃げましょう、距離を取りましょう!』
モールスが、ロケットエンジンを噴かして逃亡を図る――だが。
逃げた先で待ち構える、ムシャ・リッカ。
『「しかし、回り込まれてしまった」』
リッカの静かな声が、オープン通信から伝わった。
モールスのパイロットたちが、頭上から見下ろすリッカに悚懼する。
リッカが声を爆ぜさせる。
『アリス、今!』
『はい! 〖重力操作〗!』
『立花放神捨刀流。一教、一刀両段――面ェェェェェェン!!』
重力加速を付与し、振り下ろされる小太刀の〝唐竹割り〟。バリアにぶつかるエネルギーの衝突が、プラズマを発した。
やがて砕かれる、バリアとシールド。
すかさずリッカが、口の小太刀を横薙ぎにモールスに叩き込む。
『『『『やば――』』』』
『胴ォォォォォォォォ―――!!』
モールスが真っ二つになった。
AIが撃墜判定を下した。
ヒナが額に手を当てる。
『リッカって子も、強すぎるって・・・』
今日は、もう1話あります。




