109 ちいとくんが挑んできます
一瞬、変な投稿してすみません・・・。
ヒナがマシュマロみたいなヒーラー機、マシュマロンのコックピットでスウに指を突きつける。
『だけど、ココからが本番だよ! 残るは光神機モールスの4人、うちの最強戦力ダンくん。その名の通り強い人理樹 ちいと。そして私ヒナと、音子!』
『スウさん、俺が相手だ! ――』
ちいとが駈るシルバー・パーセノペ――全身銀色のトンボの胸と頭だけのような機体が、一直線にスウに向かって飛ぶ。
まるでスワローテイルの翼をむしり取ったような、サイズ感だ。
『――貰った、大金星ー!』
「は、速い!?」
『こちとらこの戦いのために、最新鋭機を買って乗り換えたんだ! スワローテイルをも超える大気中での高速飛行を実現した機体! もちろんトンボらしくホバリングも可能!』
「スワローさん、スピードで負けちゃったの!?」
スウの顔が「ガァン」とでも聞こえてきそうな表情になった。
(サ、サイズもスワローさんより小さいし)
『しかも翼がないから、大気中でも操作不能に陥る危険性がない!』
ちいとは、言いながらトンボのようにジグザグ飛行で、空母ティンクルスターからの弾丸を躱しながらスウに迫る。
しかし兵器マニアのスウは、今のちいとの言葉で気づく。
「ていうことは、無数のロケットエンジンで動いてるんですね」
『その通り! だが、それがどうした!』
「なら、旋回力が弱いですね!!」
『え――』
スウが、凄まじい旋回力でパーセノペの背後を取る。
『――なっ!?』
「エンジンっていうのはとても大きな物です。地球の戦闘機なんかだと、胴体の半分はエンジンでできています。FLにおいてもスワローさんがメイン2機、サブ2機しか詰めない程度には――」
『そ、それがなんなんだ!』
ちいとがスウを振り切ろうと、必死でジグザグ飛行を繰り返す。
スウに対してジグザグ飛行する相手はあまり問題ではない、横滑りを利用して左右に移動――ジグザグ飛行に着いていく。
『くそ――なんだその飛び方は、なんで翼で飛ぶ機体でそんな飛び方が出来るんだ―――!?』
「なのに貴方の機体は翼で揚力を得られない。推進力はおろか、揚力までロケットエンジンで得ないといけない。かろうじてリフティングボディからの揚力がありますが、小さすぎる」
スウの汎用スナイパーが、ちいとのパーセノペを捉える。
『うわああああ!!』
「スワローさんを超える速度のエンジンを持ち、揚力までほとんどロケットエンジンに頼っている。ところが貴方の機体は、スワローさんの胴体とあんまり変わらない大きさ。なら、どうしても旋回用のエンジンが小型な物になってしまう!」
❝スウたん早口早口ワロワロwww❞
❝でた、兵器マニアwww❞
コメントが、スウの偏っているけど大きな知識量に、笑って盛り上がる。
しかしスウと戦っているちいとにすれば、笑い事ではない。
スウの知識が、今正に自分を追い込んでいるのだから。
『なんでそんなの一瞬で見抜くんだよ!!』
「ロボットアニメとか大好きですから!!」
『アニメぇ!? アニメでこんな知識手に入ったか!? ――くそっ、こっちだって人力チート名乗ってんのは伊達じゃねえ! 俺のAIM力舐めんな! 命中精度83%を超えるんだ』
❝スウたんと同じくらいだな? ちょっと低いくらい❞
❝よな?❞
「その旋回力のない機体で、私の後ろを取れますか?」
『え? ――ああああっ!!』
❝戦闘機の戦いは、後ろを取らないとな❞
ちいとが悲痛な叫びを挙げる。
『なんで戦闘機には、後ろ向きに機銃がついてないんだよ!?』
「昔の地球ではありましたよ、後ろ向きに機銃がある戦闘機。ただし、後ろ向きだと全然弾が当たらないし、重いし。そもそも弾丸より早く飛んでるのに弾丸を進行方向と逆に飛ばしたら、前に進まないんですよね。100キロで走るトラックから後ろに100キロで弾丸を飛ばしたら、弾丸はしばらくその場で宙に浮いて落下するだけですからね――」
スウは、更に指摘する。
「――しかし、パーセノペというその機体は、武器の少なさで速度出してるように見えますね!」
❝スワローテイルって、武器多いのに速いとか神機体じゃね?❞
❝いや、多機能なバーサスフレームとしては武器が少ないほうだぞ。スウはドリルドローンが好きで搭載してるみたいだけど、それ以外はギリギリ❞
「それから最後に1つ一番大事な忠告をしてあげます! 戦闘機の戦いっていうのは、読み合いゲーと、憶えゲーです。読み合いゲーは、もちろん相手の数手先を読むこと。――そして貴方が間違ったのがもう一つの方、戦闘機は機種それぞれで出来ることがまるで違います。だから特性を頭と体に憶えさせないといけません、これが憶えゲー。――簡単に乗り換えてはいけないのです。戦闘機は恋人だと思って下さい!」
❝スワローテイルとか、もはや前進翼だもんなあ❞
❝前進翼がどうかしたんか?❞
❝前進翼ってさ、翼端の渦が発生しないし、早く飛んでも空気の抵抗が少ないし、遅くとんでも大丈夫な素晴らしい翼の形なんだけど、姿勢制御装置必須レベルのじゃじゃ馬なんだよ。姿勢制御装置無しだと、事故るレベル。それをスウたんは姿勢制御装置切って飛んでるんだよ❞
❝プッツンってレベルじゃねぇぞ❞
(恋人とか、いたこと無いけど)
スウは遠い目になりつつ、パーセノペーをロックオンする。
「ていうか、だれがプッツン女ですか・・・」
❝いや、その次元を超えていると言われてんのよ❞
ちいとのコックピットに、警告音が鳴った。
『ロックオンされた!?』
「コンパクトミサイル発射」
スウの声が、ちいとの耳に死刑宣告のように響く。
『や、やめ』
残酷にスワローテイルのAIがスウの命令に従う。
『イエス、マイマスター』
射出される、無数の小さなミサイル群。
『ちっくしょぉぉぉぉぉぉ!!』
パーセノペが、必死に加速し始めた。
無数のミサイルが個々に生き物のように、パーセノペに追いすがる。
❝ミサイルなのに追いつけないのか、あれ❞
スウは、尾を引きながらパーセノペを追うミサイルを見て、視聴者に言う。
「<コンパクトミサイル>は速力が遅くて、当たりにくいんですよね。あとあの機体加速凄いですし」
❝そうそう、ミサイルを放つ機体の速度が早ければ早いほど、射出されるミサイルも慣性で早くなるけどさ、今みたいに相手がミサイルが飛んできた途端加速した場合は、ミサイルの慣性が足りなくて、こんな事が起こる❞
視聴者の言う通り、パーセノペが加速した際の速力はミサイルを上回っており、ミサイルが追いつけず、なかなかヒットしない。
ただ、加速すればそれだけGも強くなるので、ちいとは脂汗を流していた。
「そうです。コンパクトミサイルは、超加速機には当たらない事がある。――でも、こうするとどうでしょう」
スウは、パーセノペの進路を邪魔するように<汎用バルカン>を放つ。
『おまっ、バカやめろ!!』
Gに耐えるため、脂汗を流していたちいとは焦ってカーブ。
さらなるGがちいとを襲う。
しかし曲線を描いたパーセノペに、直線を最短距離で向かってきたミサイル1発が着弾。
飛行を阻害されたパーセノペの機体が弾かれると、待ってましたとでも言うかの様に残りのミサイルが次々と着弾した。
『うぉぉぉぉぉぉぉ!!』
パーセノペはシールドを奪われ、空中を転げ回る。
遂には錐揉み回転で、地面に落下していく。
『ならロボ形態だ、これなら後ろを取るとか関係ねえ!』
ちいとはパーセノペを人型形態にしてジャイロで姿勢制御して、大地に降り立った。
『この形態なら、俺のAIM力が活かせる!』
「だけど、その機体の売りである速力と加速力が無くなってますよ!」
爆速のスウが、上空から<汎用バルカン>を雨あられと降らせてくる。
上から撃つことで、重力で起こる落下の偏差を無視できるので、楽に当ててくる。
シールドを無くしたパーセノペが、<汎用バルカン>の40ミリ口径を何発も食らっていたら、ものの1秒で大破だ。
ちいとは<汎用バルカン>を放ちながらも、足からロケットを噴射して空に逃れる。
スウは、まるで未来でも見えているかのように、ちいとの<汎用バルカン>を躱す。
『なんで当たらねえんだ!』
ちいとが、腹立ち紛れに拳をコックピットに叩きつける。
すると、コックピットに警告音。
『またロックオン!?』
「相手が人型形態だと、ロックオンは簡単なんですよ。――<コンパクトミサイル>発射」
ちいとはパーセノペを急いで飛行形態に戻して、ミサイルから高速で逃げようとスロットルを全開にした。
すると1秒で最大速度に達し、約65Gという恐るべき重力加速度がちいとを襲った。重力制御装置で6.5Gまで抑えられているが一般人がそうそう耐えられるGではない。
「あ――」
『――ぎがゔっ』
スウが忠告する間もなかった。
白目をむいたちいとのVR接続が切れて、AIはちいとに撃墜判定を下した。
❝幕切れは呆気ない❞
❝でもスウ相手にこれだけ粘っただけでも大金星よ。チャンネル登録してくるわ。アカキバより、普通に強い❞
❝俺も登録してこよー❞
❝確かに、ちいとが時間を稼いだせいで、クレイジーギークスのヒーラー機体と空母がピンチになってるな❞
❝だけど、さすがクレイジーギークスというか、どっちも結構やるぞ❞
音子とヒナは、ヒーラーを駆るメープルと、空母を駆るさくらが『あまりに強すぎる』と文句を言う。
『なんや、このヒーラー機体! あんなにでかい図体してるのに絶対被弾しない場所におるやん。しかも相当回復しにくい場所からでも、エネルギーをちゃんと味方に命中させて味方のバリアを回復させる! ――あ、また空母の陰に隠れた!』
『この空母なに!? カタログに載ってないし、盾役もできるのズルいよ! あと、操縦上手すぎ、さくらくんちょっと止まりなさい!』
コハクの指示が、空母のデッキに飛ぶ。
「左舷砲門開け! バレルロール開始、敵機背後の直上を取って!」
「おうよ」
「はいっ!」
マッドオックスが砲撃準備を開始すると、さくらが空母でドッグファイト開始、音子とヒナに背後を取られていたのを、背後を取り返そうとする。
リあンがナビゲートを行う。
「みんなシートに身体を固定してね。特に格納庫にいる空!」
『いま固定中――ぴぎゃああああ』
「言わんこっちゃない・・・・」
『アホな! 重力下で空母をバレルロール!? 墜落するで!?』
『ちょ、さくらくん落下まで計算に入れてロールしてる!!』
『それに比べてうちの空母メンバーは!』
『『『『ふひひ、さーせん』』』』
『自分ら、罰ゲーム配信覚悟しときーや!』
『終辛焼きそばだからな!』
空母メンバーが、終辛焼きそばのパッケージのように真っ青になる。
『あれ食ったら痔になるんですよ!』
『コックピットに座れなくなります!』
『勘弁して下さい!』
『終辛にレモンを掛けるのは有りですか!?』
本気で焦る酔拳メンバー+1を無慈悲に地獄に叩き落とす事を決めた、音子とヒナへ、蝶のようなの陰が迫ってくる。
単葉形態のスワローテイルだ。




