竜帝と男の罪
メイリィ「今回も・・・私が語り手じゃ・・・ありませんっ!!」
ディル「大丈夫だ、メイリィ。その分イチャイチャしよう」
メイリィ「いや、今そういうシーンじゃないですよ。
シリアスシーンですよ!?物語の根幹となる重要なシーンですよ!?」
※かぎカッコの位置修正しました<(_ _)>
「ルキ」
竜帝は感情の無い目で、
ルキと呼ばれた乳母兄弟を呼び、見降ろした。
普段はひた隠しにしているその襟元には
毒々しく黒ずんだ鱗が見え隠れしている。
「・・・主」
「何か、言いたいことはあるか」
「・・・言いたいこと・・・?
そんなの・・・有り余るほど・・・ありますよ・・・
ふ・・・はは・・・っ、どうして・・・どうしてあなたは、
いつも何も、言わないのですか!
皇太子が、俺の罪状を述べたでしょう!
俺が、あなたの寵姫と、その御子を殺し、あまつさえ寵姫を犯し、
そして、子を産ませた・・・憎き、男です・・・!」
「・・・そう、聞いた」
「・・・では・・・っ!」
「・・・お前が、元皇后に気があったのは知っていた」
「そんな・・・」
「皇子を産んだ以上は、俺にあの女を構う理由はない。
だから、後はお前が好きにすればいいと思った」
「・・・何を・・・」
「あの女が何を怒り狂っているのか、
メイファを愛でるなと迫ってきた理由はわからない。
元皇后には、望むのならお前に下賜してもいいと言った。
皇子がいる以上、別になくても困らない。
それに、捨てる理由もあの女自らが作った。
だが、あの女は拒否した。そして、自害した」
「じ・・・じがい・・・?な、何故・・・!」
「・・・さぁ・・・ただ、死ぬ間際に・・・
“愛していた方に、他の男に売られるのは、我慢できない”
・・・そう言っていた。
そして、彼女はお前から受け取っていたものが何なのか、
途中から気が付いていた・・・そして、その毒を自分であおった」
「え・・・そんな・・・」
「・・・そうか・・・そう言われても、私にはわからない。
鱗を黒く穢され、血毒にされた瞬間、
私の感情を支配した、激しい憎悪の念が、拒絶する。
メイファなら・・・半身と同じ顔をした彼女なら、
この憎悪の念から解放されて、愛せるかもしれないと思った。
メイファが産んだ御子が死に、そして拒絶された・・・
もう、他の誰かを重ねられるのは、耐えられないと言われた・・・
・・・だが、メイファが変わり果てた姿で死んだとき、
所詮は、同じ顔をしているだけで、
我が半身にはなり代わらないのだと知ってしまった。
メイファは・・・邪竜の血で、死んだから・・・
顔は同じでも・・・求め続けていた半身には、決してなれない。
そう・・・絶望した・・・。
お前は、元皇后が、メイファが言った言葉の意味が、わかるか?」
「・・・主を、愛していたからでしょう!
それなのに・・・あなたの心は・・・
彼女と俺が嫉妬していた、メイファ妃にもなかったのですね」
「そう・・・らしい」
「あなたは、昔からそうだった!」
「・・・だから、私の傍には常に、お前がいた」
「・・・」
「だから、お前のしていたことは知っていた。
お前が、元皇后と逢瀬を重ね、拒絶されたことも知った。
私を拒絶したメイファを抱いたことも知っていた。
それでお前がメイファと一緒になりたいのなら、
お前に下賜してもいいと思った。
神龍と嘯き、
メイファと同じ顔の子どもを育てたことも知っていた・・・
憎悪しか抱けない血毒を、お前が使っていたことも」
「は・・・?で・・・では、何故、それを、放っておいたのですか!」
「私の母が、先代竜帝に献上されなければ、
お前の母も、お前も、その密命を引き継ぐこともなかった」
「・・・」
「お前が母親から何を受け継いだかは・・・知っていた。
この黒鱗の記憶は、
俺がこれを受け継いだ時に、受け取った」
そういって、竜帝は、その両手に闇色の剣を握る。
近くで見てみれば、それは両刃ではなく、片刃であることがわかり、
普通の剣ともよりも細く、長い。
「私はこれを受け継いだ時から、思い出した・・・。
膨大な年月、見てきた記憶を・・・
呪われた黒い鱗を持つ自分を、怨んで、憎しみ、
やっと手に入れた我が半身と安寧の場所を踏みにじられ、
奪われ、その上、鱗をまた穢された・・・
憎んで、憎んで、その感情の赴くままにしか生きられない・・・
私にひとの心などない。それは先ほど身に染みてお前もわかっただろう?
あるのは、半身が救ってくれた鱗を穢した人間への、
竜の怒りだけ。憎しみだけ。
私が本当に、竜族の血に、完全に憎しみの竜の血に染まった時、
竜皇族を滅ぼすための密命を受け継いだお前が・・・
私を殺してくれるように・・・傍にいたんだ。ルキ」
「あなたは・・・その妙な形の双剣を、俺に突き付けた・・・
憎き竜皇族である、俺に・・・」
「でも・・・できなかった・・・ルキを殺したくない。
あの時、その感情だけが、私自身を止めた。
だから、私が唯一、憎しみに、
黒鱗の記憶に感情に蝕まれても、
あの血毒をお前が利用しても、
ルキだけは、殺せない。憎めない。怨めない。
ルキがいれば・・・殺してくれると思った・・・」
「あなたはあなたではないものの感情に呑まれて、
先代竜帝も、竜皇族も皆殺しにした・・・
だけど・・・あなたの傍には、
あの方がずっと傍にいたじゃないですか。
あの時も、今でも、ずっとずっと・・・」
「だけど、半身はまだ、俺を赦してくれない。
会うたびに、怒られた。泣いて許しを乞うことしかできない」
「・・・もうあなたは大丈夫です。
もっともっと、周りに目を向けてください。
あなたが、半身の赦しを得ようと、必死になって築き上げた、この竜帝国を。
俺のような、主に嫉妬し、狂い、主に対する大罪を犯してもなお、
ただ、殺してもらうために生かす側近は、もう、主の隣にはいりません。
どうか、あなたの手で、殺してください。」
「ルキ・・・」
「俺の故郷もあなたの母君と同様に・・・既にありません・・・
帰る場所など・・・ありません・・・
竜帝国は強大です。あなたの力も強大です。
今更、あの国は、あなたが竜帝になった時から、
母は死んで密命に失敗したのだと、
あの愚帝の治世をいいことに手を出したあの国は
・・・そそくさと手を引きました。
あなたは、もうあれに呑み込まれるほど、弱くはありません。
俺は・・・母からの最期の遺言であっても、あなたを殺したくはなかった・・・
あなたを殺すために生きるには、もう、多くのものを、失いすぎた。
竜皇族が受け継いできた、この竜角を受け継ぐのは、俺で・・・最後です。
父と同じように愛情も与えず、名前すら与えなかった息子も、
俺の竜皇族の角を、受け継がず、
そして神龍さまに名と姿をもらい救っていただきました。
あなたは受け継がなかった・・・あなたが受け継いだのは、
その記憶の竜から受け継いだ、輝く銀色の角。
あなたの御子にも、この角を受け継ぐ皇子はおりません。
俺で、最後です。俺を殺して、新しい竜皇族として・・・
竜帝国を・・・俺や母、あなたの母君のような犠牲を出さない・・・
竜帝国に、導いてください。それが、俺の、願いです」
「・・・解放を、望むのか・・・」
「・・・はい・・・」
そう、男・・・ルキが呟いた瞬間、
竜帝の掲げる双刀は、闇色の衣を脱ぎ捨て、
柄から刀身まですべてが銀色のまばゆい光を発した。
普段は襟に隠れて見えない黒い鱗が、
まばゆい銀色の鱗に輝いて・・・
そして、鈍い音が2回、ふたりだけの玉座の間に、
虚しく響きわたった。
竜帝が何をしたかを悟ったルキは、怒りをあらわにした。
「・・・んで・・・何で殺さないんだ!
あなたは俺を、自分を殺すための存在として、
ずっとずっと、生かし続けたのに・・・っ!
何故、殺してくれない・・・!」
「・・・殺せなかったから」
「・・・」
「ずっとずっと・・・殺せなかった。
お前も私を、殺さなかった」
「俺は殺すよりも、ひどいことをたくさんした」
「なら、生きることが・・・罰だ」
「何を言っている!」
「お前は・・・殺さない。死ぬまで、永劫」
「生き地獄だ」
「ならば、それが最良だ。
竜皇族としてのお前は、その証である角を失い、ここで、死んだ。
そして、竜皇族最後の生き残りとしてではなく、
乳母の・・・キファの息子として・・・残りの生を、
己の償いのために生きよ」
竜帝が踵を返して、コツコツと、去っていく。
ルキはひたすら慟哭した。竜帝の手で殺してくれ・・・と。
傍らに斬られて落ちた、竜帝の息子たちや
その婚約者の金色の角とは明らかに異なる形の、
光の当たり具合によって、金にも、朱色にも見える、
2本の黄櫨のその竜角を前に。
かつて聞いた、神龍の言葉が蘇る。
―――あぁ・・・これが、神龍が与えた、呪い・・・いや、
呪いを生み出したのは自身で、そしてこれが、罰か・・・と。




